『亡国の異世界 7つの王国と大陸の覇者』268
線を辿って進むうちに一瞬だけ線が途切れるように見えなくなり、すぐに線が見えるようになった。そんな出来事が数回続く。
[アオナ]線が時々途切れて見えなくなることありませんか?
[キリ]あるね。何か影っぽいのが横切ってるように見える。
影……周辺を見渡してみるが、それらしいのは見つからない。真っ黒な世界で影を探す方が難しい気がする。
個人チャットで茜へ――無理か。茜は光に触って僕に連絡したって言ってたけど、ここならソウルリンクも通じるか? ……表示が出た。
【ソウルリンク アカネ】
[アオナ]アカネが入ったときって、影みたいなものってあった?
[アカネ]気が付かなかったよ。影があるの?
[アオナ]いや、キリ先輩が見たらしい。
無事に入れたことの連絡ついでに、茜に影について聞いてみたが知らないらしい。とりあえず、その影を僕が認識するところから始めよう。
魔法は――使えない。となると、見て存在をとらえるしかないのか。
この空間で、黒以外の物と言えば遠くにあるわずかな数の星と細い線だけだ。それらを横切った時に周辺を注意すれば見ることができるかもしれない。
進むのを中断して影を探す。数が少ないとはいえ、星はあちらこちらにあるので、目の前の線に注目するよりも広い範囲を視界に収めることができる。
……ある。星の瞬きとは違って、雲に隠れるように星が数秒消えるときがある。距離がどれほど離れているのか分からないため、影かと言われたらわからないけれど、確かに僕と星との間に何かが存在して光を遮っている。
どういった形で視界に入るかが分かれば、次を探すのに苦労はなかった。距離感がわからないため影のサイズはわからないが、光を遮る道筋を追うことで影は複数あるのが分かった。
[アオナ]見えました。複数の塊が周辺を移動しているようです。
[キリ]周囲の暗闇よりも濃い黒のように見えるね。アオナちゃんの闇視で区別はつかない?
[アオナ]闇視は機能していません。魔法もですが、肉体の機能が制限されてるみたいですね。
暗闇でも見える闇視が機能していれば、すぐに見つかることもできたはずだ。それが出来なかった以上、今の視力は普通の人と変わりが無いのだろう。
影を確認できたことだし、線を辿って進むのを再開する。茜のときはすぐ近くにパーティーメンバーの光が揃っていたらしいけど、今回は距離があるみたいだ。
プールで遊んだことはあっても泳ぐ練習をしたことが無いため、適当に手足を動かして進む。
前に進むために伸ばした手の先に、偶然小さな影が差し込んで、指先に触れた。
その瞬間、思考がかき乱されるような衝撃を受ける。
……なんだ? 何か言葉が入ってきた。いや、言葉だけじゃなくて、視界もブレた感覚を受けた。
既に影はどこかに消えたので、確かめようがない。ステータスを確認するが、HPもMPも減っていないし、状態異常にかかった様子もない。
[アオナ]キリ先輩、影に触れました?
[キリ]まだ触れてないよ。アオナちゃんは触れたの?
[アオナ]はい。よくわかりませんが、聴覚と視力に影響がありました。
その他の五感にも影響していたかもしれないが、現状ではわからない。黄里先輩も、機会があれば触れてみるということで連絡を閉じた。
再び線を辿る。しばらく進むと線の先に光が見えてきたから、おそらくあれが茜たちの光だろう。
光を目標に前にへ進んでいると、急に目の前が真っ黒なものに遮られた。大きい影!
◆+◆+◆
何度こっちに攻めてくるんだ。帰還石の数も限りがあるんだぞ。向こうは……だめか。あぁ、魔石にされてる。くそ、耐えきれるのか?
(アオナ:戦場? それに、誰かの声が聞こえる。見た目は雪国だから、マアズだと思う)
やばい! 魔法砲撃! あの数は……ぐぁぁああ!
◆-◆-◆
◆+◆+◆
(アオナ:っ! 意識が……。あれ、別の場所だ。ここは病院か)
「次の人は? こっちね。魔力に限りがあるから全回復はできないからね[ヒール]」
脇腹の致命的な傷は直したものの、完全復帰には時間がかかりそう。けど、次々に運ばれてくる負傷した人を全て治すほど私の魔力は多くない。
「この人は帰還石ね、だれかお願い!」
大けがをした人の口に帰還石を入れて、一息に刺す。一瞬の痛みはあるけど、目が覚めたら痛みも何もない。重症患者にはこの方法でいいのだけど、帰還石のストックが少ない。帰還石を取りに行ってくれているから、しばらくしたら補充されるけど、その間は残り少ない数でどうにかしなければならない。
(アオナ:倒れているドワーフが多い。今まで見たゲーム内の戦争と比べると、ずいぶん凄惨だ。あ、また暗転した)
◆-◆-◆
◆+◆+◆
「ヒトの女だ」
「よし、連れてこい」
逃げ切れなかった、嫌だ、ヒト族を見ると捕まえる人たちだ!
帰還石で戻ることも魔石にもなれない、あれを使ってくる! 死にたくない!
「いやだ、やめて!」
腕に思い切り力をいれて振りほどこうとしても、腕を掴まれて振りほどけない!
杖を持った男が、私の胸に手を当てる! くるな!
「[マスイサー]」
◆-◆-◆
魔法をかけられた直後に、どこかに飛ばされた感覚になり、意識が元に戻った。
薄く透明のような手足を見て、ステータスを確認。特に異常はない。
影がどこに行ったか確認をしようと見回したが、暗闇に紛れてどこに行ったのかわからなかった。
……あれは、確かに誰かの記憶だった。いくつかの記憶を渡り歩いたが、不快な状況が続いた。最後なんて他人の記憶とはいえ、勝手に知らない男性が無遠慮に胸元に手を当ててきたのは腹立たしいが、あの瞬間はリアルに感じたので実際に起こったことかもしれない。
だとすると、最後に聞いた[マスイサー]を使われた女性は、魔石を除去されたのだろう。茜の話では失敗すると死亡するようなので、無事に魔石を除去されたら……それもどうなんだろう。望まないのに体を勝手に作り変えられるのは嫌だろうな。
どこかに移動した影について考える。戦争の記憶ではあるが、戦争時代の戦争は参戦した人が魔石になるほどの激戦にはなっていない。帰還石を持つのは義務ではないが、格安で手に入れられるので持たない人はおらず、戦争で命を落とす人はいないといって良い。
となると、さきほど見た戦争は戦争時代ではない、別の戦争だ。
そして、敵対している相手が[マスイサー]を使ってる以上、プルト王国の兵士と戦っているのではないか。
では、あの光景が見えた理由について。
茜が前にこの世界に来たときに、色々と試してもらって予想がついたのは、ここにある星の光は、人々の魔玉であるということ。それも、地上側に見えるNPCの星ではない。この暗闇の空間にある星はプレイヤーの魔玉だと考えらえる。
魔石のないプレイヤーの魔玉がこの空間にあるのなら、魔石のないNPCの魔玉の行き先がここになってもおかしくない。[マスイサー]によって消失した魔玉は、ここに送られているのではないか。
魔玉はこれまで調べた結果、キャラクターの魂の保管場所と考えられる。その魔玉がここに転送されたらどうなるのか。プレイヤーの魂はそもそもゲーム外に存在するため、いつでもゲームから切り離したり戻したりすることができる。けど、NPCはどうか?
魔法の失敗で肉体が滅びたり、あるいは寿命で蘇生できなくなった場合、魂も共に滅びるのか?
魂に記憶があり、それを今さっき垣間見たのだとしたら、あの影の正体は亡くなったNPCの魂が集合したもののような気がしてならない。
そんな確信を得ながら進み続けると、星が間近に見えてきた。あと少しで合流だ。そのほんの数メートル程度の距離の間に、影が体に触れた。
◆+◆+◆
(アオナ:視界が低く、街の中を歩いている。子どもよりもさらに背が低い感じだ。――あ、犬か。首と思われる位置から紐が伸びて、隣の女性がその紐を持っている。当然、動物にも魔石があるから、こういうこともあるか。と言うか、魔石の除去魔法を犬にも使ったのかな?)
――! ――!
(アオナ:漠然とした、嬉しいって気持ちが伝わるけど、これって犬の感情かな?
◆-◆-◆
◆+◆+◆
(アオナ:視点が変わった。今度は、犬以上に感情が無い。ずっと湖を見続けているけど、誰だろう?)
……。
◆-◆-◆
◆+◆+◆
(アオナ:また視点が変わった。今度もまた感情がない。ただ、見える光景はかなり違って、草原の草を食べるウサギが見える。何匹か穴から出てきては、草をむしゃむしゃと食べている。僕は、同じ場所で動かないまま固定されている。多少は左右にゆらゆらと揺れているけど、それだけだ。ぼーっとウサギを見ていると、一匹がこちらに寄ってきた。顔がアップになったウサギが口を開ける。あ、これ食べられる)
◆-◆-◆
食べられる前に戻ってきた。あの状況、意識がその辺に生えている草にはいっていたんじゃないかな。
『……魔石除去の魔法だけが原因じゃないのか?』
帰還石を使えば四肢が失われても復帰できるので治療に使っていますが、実際に使うとなったらかなり怖いでしょうね。ゲームキャラとしてならまだしも、NPCは命を担保にしています。それに慣れるほど使いたくないですね。




