『亡国の異世界 7つの王国と大陸の覇者』267
「あ、ちょっと良いですか?」
実験を3名に絞ったところで、萌黄先輩の膝に座っている茜が手を挙げる。
「前に私が飛んだ時だけど、リスポーン地点って選択式でした。ほとんどがリバ石に触れたことがある場所で、唯一違ったのがこの街の中央も選択にあったことでした」
そういえばそうだった。見知らぬ空間に出た時に、帰る方法はリバ石の地点を選択することだと言っていた。
「この街って、今はリバ石ないよな?」
「そうですね。中央のリバ石は消えてます」
リバ石を目印に移動先を選択できたのであれば、ここにリバ石が無い以上は新たにこの街へ飛ぶ選択肢が出てこない可能性がある。
そうなると、この時代にあの世界へ行くためには、一度でも廃墟時代でリバ石に触れたことがある人の方が危険度は低くなるってことになる。
「じゃあ、うちはやめたほうが良いな。帰れる保証がない」
「そうですね。僕と黄里先輩なら、マーキュラスでリバ石に触れたから帰れるはずです。もし消えてたとしても、この世界が初期地点なのでそこへ飛ばされるだけかと」
萌黄先輩も同じようにマーキュラスでリバ石に登録している。修理の補助を止めて萌黄先輩に来てもらうこともできるけど、萌黄先輩の初期地点が海の上の孤島であることが問題になる。飛行するためのレベルが当時よりも高いとはいえ、また飛ぶ方角を定めて延々と飛ばなければならないのはかなり大変だろう。僕はマーキュラスの地下だし、黄里先輩は山の上なので、まだ移動がしやすい。
「今回はアオナちゃんと私のふたりで行こうか」
「はい。よろしくお願いします」
懸念点もなくなったので、さっそくアイテムボックスから本を取り出す。本の中身は何度か読んだことがあるし、発動直前までなら試したことがあるので、使うのは問題ないはず。
「アオナちゃん、魔法をよろしくね」
「はい」
魔法をかける順番は、黄里先輩を先にかけることにした。僕へ先に魔法をかけた場合、魔法の影響がある中で同じ魔法を発動できるかどうかわからないからだ。
本を開き、書かれている内容を注意深く読み上げると、体から魔力が本に伝わり、さらに本から魔力が逆流して自分の中に流れてくるのを感じ取った。
「[マスイサー]」
魔法名を唱え、黄里先輩の胸のあたりを押さえる。ここに本来は魔石がある場所なので、発動場所はこの位置となる。
体中を駆け巡っていた魔力が黄里先輩に触れている腕に集まり、全てが黄里先輩に吸い込まれた。恐らくこれで成功だ。
「どうでしょう?」
「成功した? 変化は感じなかったかな。多少魔力を感じた程度だけど実感はないよ」
僕の方も魔法が成功した実感はない。単に魔力が黄里先輩に吸収されただけだ。
「元々が魔石を消す魔法だからでしょうか。最初から無い人に対しては効果がわからないのかもしれません」
魔法の効果を及ぼす対象が存在しないのだから、入り込んだ魔力は意味のないものとなる。魔法に対して抵抗したのではなく、体内を素通りしてしまったのだろう。
「それでは、次は僕に……」
全く同じ手順を踏んで、自分の胸に手を当てる。魔力の循環がどうなるか魔力感知をしながら探ってみると、体中に巡っていた魔力が胸に手を当てている腕に集まり、そこから自分の胸へと魔力が流れてくる……というか、体の表面あたりで魔力を感じなくなってるな。何かが流れ込んできている気がするけど、魔力とまでは感じられない。これは確かに、実感が持てない。
「どうだった?」
「わからない。成功したとは思うけど」
茜の問いかけに感じたまま答えるが、理解できない結果だ。これで良いのか不安になる。
「あとは、このまま死亡すれば行けるんだよね?」
「私の時はそうでした。色々とシステム音声が流れましたが、気が付いたら別の空間に居ました」
リスポーンでよくお世話になっている薬を取り出す。この薬を最初に使ったのがこの街で、萌黄先輩と黄里先輩と一緒に使ったんだった。
リスポーン用の薬を他にもいくつか試したけど、最初に手に入れた薬が一番使いやすいので定期的に補充している。当初は薬屋にほとんど入荷していなかったけど、使用するプレイヤーが増えたことで価格も下がり数も増え入手がしやすくなった。
改めて考えると、死ぬための薬ってかなり危険だ。偶然この街で、あの短い時間によく手に入れることができたな。
……戦争時代のリバ石の活用を茜から聞いた限り、あの街は死ぬことが日常的だろうから、もしかしたらこの薬を多数取り扱っていたのかもしれない。
「アオナちゃん、準備は良い?」
「あ、はい。大丈夫です。アカネ、これ持ってて」
また考え事をしていた。何かあった時に来てもらう可能性もあるから、本は茜に渡すことにした。これで準備は万端。
黄里先輩と手をつなぐ。出現地点がどこかわからないけど、こうすれば近い場所になるかもしれない。
薬を飲み込む。
そのまま、HPが徐々に消えていった。
~~~~~~
『システム:プレイヤー名【アオナ】 ID【000056765】 蘇生地点登録エラー』
『システム:二重登録につき最新の更新地点で蘇生……【時空開拓者】により中止』
『システム:【救世主】確認。【●●●】の参照許可を付与』
『システム:【●●●】の名称【ガイア】開示』
『システム:称号【ガイア】を獲得しました』
『システム:アチーブメント【ガイアを見つけたもの】を獲得しました』
『システム:【ガイア】への吸収……【時空開拓者】により中止』
『システム:【真祖の血縁】から【能力封印】を一部解除』
『システム:特殊能力【赤瞳】を取得しました』
『システム:【アオナ】リスポーン地点を、【ガイア】に設定。特殊能力【時空適応】付与』
『システム:【アオナ】リスポーン開始』
~~~~~~
システムからの通知が大量に流れ、その間は周囲を見ることも動くこともできない。これは待つしかないのか――視界が戻った。割と早かったな。
周囲を見渡してみると、茜の話では星があちらこちらに散らばった宇宙の中にいたって話だけど、そのようには見えない。もちろん所々光が見えるため、星のように見えなくもないけど、沢山あるほど星の広がりはなかった。
手足を確認する。これは話に聞いた通りだった。輪郭の無い半透明な体が、空間にふわふわと浮いているようだ。
【ソウルリンク キリ】
[キリ]アオナちゃん、目覚めてる?
[アオナ]はい。ついさっき起きました。こちらからはキリ先輩は見えません。
浮遊しながら周囲を見ても、それらしい姿は見つからなかった。
[キリ]細い線が体から出てないかな? 多分それがパーティー用の繋がりだね。それをたどれば合流できるはず。
[アオナ]えっと――ありました。向かいます。
体から細い線が複数本、暗闇の先へと続いている。
茜もこれでパーティーやフレンドの繋がりを見たといっていた。あのときはすぐ近くに光があったそうだけど、今回は離れているようだ。それでも、線のおかげで方向は見失わない。
……若干目をそらしていたけど、システム通知について考えるか。
『ガイアってなに!!』
ふぅ。とりあえず叫んだけど、これが僕の正直な感想だ。いきなり●●●の名前が出てくるとは思わなかった。いや、ガイアって、ここは地球ってこと?
じゃあ、太陽で反応があったのは……いや、太陽って言ってたのは僕らが勝手に思ったことか。アチーブは【●●●に近づくもの】と出ただけだった。正解は別にあったってことか。
ガイアについては置いておいて、自分自身について確認。能力が一部解除して、【赤瞳】を取得。何だろ、これ。ヴァンパイアといえば赤い瞳のイメージがあるから、おかしなことではない。目を意識するイメージをしたが、肉体がないからか何も起きない。戻ってから試そう。
それ以上の変化はなかった。茜は種族進化したけど、既に進化している僕は特殊能力の方に恩恵があったのだろう。こうなると黄里先輩の方がどうなったか気になるから、早く合流しよう。
手足をバタバタと動かして前進を試みるが、進んでいるかどうか不明。わからないので、進んでいると信じながら線の先へと向かう。できれば、早く茜みたいに【低重力遊泳】を覚えたい。
●●●の選択肢はいくつかありましたが、ガイアに関しては最初から予定に入ってました。太陽系から超えるのは話が広がりすぎると思ったので、考えた結果ガイアに落ち着きました。蒼奈の言う通り唐突な気もしますが、正式名をNPCから教えてもらう機会もほぼないだろうと思い、システム通知にしました。




