『亡国の異世界 7つの王国と大陸の覇者』266
~~~アオナ~~~
「戦争時代はどうだったの?」
「もっと本が沢山あったんだけどね。ほとんどなくなってるよ」
学校の図書館に入り、本を整理しつつ茜に修理してもらっているが、どうやら本の冊数が激減しているらしい。何らかの理由で誰かが持っていったり処分したりしたのだろう。300年も経過していれば、そういったこともある。
本は開くとボロボロになりそうなのが多かったため慎重に運び出す。
魔法を使う茜と魔力を譲渡する萌黄先輩の魔力量にも限界があるため、修理できる数にも限界がある。そのため修理する対象を絞っているので、ここにある本を全て読めるようになるのはもうしばらく先だろう。
「隠されてるものでもなければ、これで全部か?」
「そうね。奥の部屋も見たけど、そこに本はなかったわ」
図書館の割には成果が少なく思えるほど本が少ない。それでも何かわかるかもしれないため、ストレージに収納して保存する。
この後は、紫帆先輩と蜜柑先輩、萌黄先輩と茜と僕の、2グループに分かれて各ギルドを探索することになる。
「少しだけ学校を見て回ってからギルドにいかない?」
という萌黄先輩の希望により、紫帆先輩たちと別れた後で学校を探索することになった。
教室の備品が昔の映像で見る黒板に学習用の机。どちらも僕らの学校では使わないけど、懐かしい感じがするのが面白い。
理科の実験が出来そうな教室に入ったが、特に重要そうなものはなかった。
学習用の机とは別の机が並んでいる教室を発見。多分、大人が座る机だ。書類らしきものがいくつかあったが、簡単な計算や文字の練習をしている書類が多かった。先生が集まる部屋なのかもしれない。その部屋に金庫のような金属の箱はあったが、扉は開けられて中身は空っぽだった。
「見て回るのは面白いけど、何もいいものがないね」
「図書館の本を修理すれば、何かわかるかもしれませんよ」
茜をかかえた萌黄先輩と学校見学の感想を述べあって、探索の終わった学校を後にする。
何かを入手するような収穫はなかったけど、探索して理解したというか、わかったことがある。この街は、人が居なくなって以降、念入りに探索されている気がする。細かい金銭が残っていない。金庫ですら開け放たれている。
それなのに、教会は割と物が残っていた。本もそうだし、祭壇も残されている。王笏を差し込む杖は、見た目が黄金の杖なので、盗まれていてもおかしくはない。
この街が荒らされた後に杖を戻したのであれば、祭壇のような豪華な調度品が残されているのは不自然。であれば、この街に後から来た人は、教会に入ることができなかったのではないか。
ベータ時代のプレイヤーたちも、この教会だけは入ることができなかった。ゲーム上の仕様だとは思っていたけれど、もしかしたら街の住人によって侵入できないように何か魔法が施されていた可能性もあり得る。
教会だけに魔法を施された理由を挙げるなら、この世界で他にはない特別な教会であることや、地下施設の事情といったことはすぐに思い浮かぶ。どちらも決め手はないものの不自然ではない。
「アオナー」
考え事をして歩く速度が遅くなったらしく、萌黄先輩と距離が離れた。ほんの少しだけ駆け足で追いついて、隣に並んで歩く。
「何か思いついたの?」
萌黄先輩の言葉に、先ほど考えていたことを話す。答えの出ないことだし、黙ってる必要もない。
「そういわれてみれば、戦争に勝った国の中心となる街の割には、この街はボロボロだね」
「プルト王国が勝ったんだよね?」
「戦争で勝った国が、必ず領土を攻撃されていないということも無いでしょうから、戦時中に侵略されたかもしれません。それでも、何らかの略奪にあったのは確かでしょう」
商業ギルドの記録を見る限り、1200年頃までは普通の生活ができていた。街がこうした廃墟になったのはそれ以降だ。この街が廃墟になった記録はここで見つかるわけがないから、あるとしたら他の国だろうけど、他国も廃墟になっている。詳細な記録は見つからないだろう。
「農林ギルドに到着。アオナ、探そうよ」
「あぁ、うん」
いつの間にやらギルド前に到着していたみたいだ。今は情報を探すことに専念しよう。
……商業ギルドと比べて圧倒的に少ない量の取引記録が見つかった。農業関係の本があると思っていたが、調べた範囲では見つからなかった。
そのまま畜産ギルドへ移動して同じように探索したが、結果は農林ギルドと大きく変わらなかった。
書類関係が多いのは冒険者ギルドで、先行した黄里先輩と茶子が色々集めているようだ。茜の修理や僕のアイテムボックスが必要らしいので、ギルドの探索を2か所で終わらせて冒険者ギルドへ向かう。建築、鍛冶、細工のギルドは紫帆先輩たちが回ってくれるそうだ。
「あ、きたきた~。収納と修理おねがい~」
冒険者ギルドの入り口付近で、茶子が書類置き場まで先導してくれた。形が残っている書類が並んでいるが、おそらくこれは収納するものだろう。移動できそうにない書類は、動かすことなく修理待ちのはずだ。
しばらく冒険者ギルドでの作業をしていると、紫帆先輩と蜜柑先輩がこちらに来た。
「あっちのギルドは、これと言った書類はなかったな」
「建築ギルドには建築物の書類があったので持ってきましたけれど、見た感じは一般住宅に関するものでしたわ」
ギルドなど公共の建物の図面はなかったらしい。元々なかったというより、誰かが持っていったのかもしれない。あるいは、図面に残すことすら忌避したか。
冒険者ギルドに全員が集まり、探索と修理も進んで一通りの調査が終わった。まだ修理できてないから調べられない書類が多いが、探索はこれで一段落といっても良い。
「それでは、あとはアオナさんの持ってる本で実験して終わりでしょうか?」
本や書類の回収が終わり、僕のアイテムボックスにほとんど入れた時点で今回の探索は終わりに近い。
あとは、僕の個人的な実験がやりたいだけだ。
「出来るのならやってみたいです。全員がやるのは少し怖いですが」
「魔石除去の魔法をつかって、死亡だっけ? アカネちゃんの再現」
「はい。この時代にそれをしたらどうなるのか実験です。バグで出られなくなるとは思いませんが、どうなるかはわかりません」
茜が体験した、あの不思議な空間。魔石除去の魔法[マスイサー]を使用して、その後死亡によって茜が飛ばされた空間に、意図的に飛べるかどうか試してみたい。
あの時に茜が飛ぶ前に居た時代と、体験した空間の時間軸が同じだったため、この時代で同じことをすれば廃墟時代の時間軸のまま、あの空間に入ることが出来る。
「実験に参加する人の選定だな。まず、アカネは例の街のリバ石で登録してるから、セーブ地点が変更になるため、念のため避ける。それに、アカネはこのまま修理してもらいたいから、モエギ先輩はアカネの補佐でお願いしたいっすね」
「うん、アカネちゃんと待ってるよ」
萌黄先輩は、進行を2年生に任せるスタイルを貫くみたいだ。冒険者ギルドにある椅子に座って、茜を膝の上にのせて成り行きを見守っている。
「チャコさんも残ってもらいましょう。妖精の国を通過して帰る場合、チャコさんに何かあっては帰りに支障が出てもいけませんからね」
「は~い」
「それじゃあ、2年とアオナちゃん? 誰かひとりは2年が残った方がいいんじゃないかな」
「それじゃあ、シホが残ってもらっていいかな? 精霊魔法が使える人が残った方が便利だからね」
「そう? それなら残りましょうか」
提案した黄里先輩と蜜柑先輩が、目を合わせてホッとしている。多分、見知らぬ場所で迷子になることを考慮したのかもしれない。茜の話では前後左右で方向感覚が無かったみたいだし、迷子になる可能性は高い。
ということで、実験に参加するのが僕を含めて3名になった。
進行は2年生に任せていますが、茜を運ぶ役割は手放さない萌黄です。後輩を猫かわいがりするのは上級生の特権です。




