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あちーぶ!  作者: キル
333/423

『亡国の異世界 7つの王国と大陸の覇者』263

~~~アカネ~~~


 兵士の詰所っぽい建物を調べ終わったから、後ろの大きな建物の探索をする。とりあえず調べられるところだけでも調べようってことになった。


「学校も後で行くよね?」


「アカネちゃんの話では本が沢山あったからね。後で行くんじゃないかな?」


 私と萌黄先輩は、お互い読んでいる本から目を離さずに、会話をする。読んでいる本が商業ギルドの収支報告だから、読むといってもパラパラめくるだけの暇な状態。あんまり集中して読むような本じゃないから、自然と雑談が生まれる。


 ここでは、萌黄先輩と一緒に建物の2階の廊下にテーブルを引っ張ってきて待機をしている。3階建ての建物だけど、この場所がどの階からもおおよそ中心になるから、修復の拠点として設営をした。

 修理するものが来るまで待機をしているんだけど、広い屋敷の割には書類が少ないのか、運ばれてくる数少ない書類を[リペア]したら割と暇な時間が生まれる。その間に他から持ってきた本を確認して、変わったことが書かれていないか読むことにしていた。


「なんとなくだけど、この街の発展具合がわかる取引量だね」


「うん。時代が新しい方が数は多いですね」


 街が発展して人の数も増えれば、自然と取引量も増えて商業ギルドの記録も桁が多くなる。これはごく自然の流れ。それでも、気になることはある。


「記録が突然消えてるのが気になります」


 毎年のように報告されている商業ギルドの記録が、1200年頃にプツリと途絶えて記録されている本そのものが見つからない。直前までの取引量を見る限り、人口が減っていったとは思えない。この頃に戦争をしていたから、敗戦による記録の消失もあり得るかもしれないけど、途切れる直前の記録から理由は読み取れない。


 記録が途絶えるのは、商業ギルドだけじゃない。兵士の詰所で見つけた出勤の記録も、1200年頃に途絶えている。この時期に街の人が消えたのかもね。


「回収した本にある最後の記録は、普通の日常的な感じで書かれてるよね」


「他の記録を見比べて、最後に人が書き残した年月日が知りたいです。転生をしたのなら、痕跡があるかもしれません」


 転生が成功しなくても、転生の計画は実行したのかもしれない。記録がなくなった理由が転生計画の実行だとしても、それを街単位で行うなら事前の告知くらいはあるはず。実行前日にいきなり告知をするとは思えないから、誰かの日記とかにそういった記述はあるはず。


「そういえば、暗号のあった部屋の木箱の本って、日記だよね。日付はあるの?」


「日付はあるんですけど、年が書いてないんです」


 日記が書かれた本には、月日と曜日が書かれているけれど、何年とは書いてない。最後のページを見ても、転生の話は書かれていないから、いつ日記が途切れたのかはわからない。


「毎年、日記用の本を変えてるってわけじゃないよね?」


「同じ月が何度も出てくるので違うと思います」


 1月、2月、3月と続き、しばらくしたらまた1月からスタートしている。その境目にも星暦何年とは書かれていない。日記の内容から、実際の出来事と比較すれば星暦何年かは分かるだろうけれど、最後に書かれた内容には住民が消えるといったことは書かれていないので、何年か知りたいがために他と比較するのは後回しでいい。


「その日記、ちょっとみせてね」


「はい。どうぞ」


 私を挟んで萌黄先輩とは反対側のテーブルに日記が置いてあるから、両手を伸ばして先輩の方へ引きずって渡す。本を手に取った先輩は「ありがとう」と頭を撫でてから、本を開いて読みだした。

 私は次の商業ギルドの本を開いてパラパラとめくる。にゅっと出した爪を上手く使えば、本を次々とめくって読むのは造作もない。


「この日記を書いてる人、日付があるのにわざわざページ番号を手書きで書いてる」


「几帳面な人だったんでしょうか」


「そうかも」


 ページかぁと思いながら、自分が読んでいる本の確認する。こっちは後から調べやすいように作られた取引記録なので、ページは割り振られている。日記って、そういった使い方はしないから、普通はページをわざわざ書かないよね

 しばらく読んでいると、隣で萌黄先輩が何か書き物をしている。日記を見ながら、何かのメモを取っているようだ。


「何のメモですか?」


「月のメモだよ。1月みたいに年が変わる境目を見ていけば、全部で何年が経ったかわかりそうだからね」


 なるほどなと思い、机に広げた日記に近寄ってメモの様子を見る。日記は毎日書いているわけではなく思い立ったら書いているようで、1月の次に3月のときもある。1月に日記を書かないこともあるけど、それはそれで飛ばされた分だけカウントすればいいだけだ。


 めくられる日記をなんとなく眺めていると、日記の途中でいろいろ修正している様子が見て取れる。消せないインクで書かれているから、黒塗りや横線での訂正が目立つ。

 人がめくる本のページを目で追いかけているのは猫っぽい動きだなと思い、猫ムーブを堪能していると、気になったことがあったのでページを前足で押さえる……猫っぽい!


「アカネちゃん、なにかあった?」


「はい。この場所の日付か曜日って、変じゃないですか?」


「どれ……ほんとだ。日付か曜日のどっちかがずれてるね」


 1週間は7日で、曜日は現実と似たような名前が割り振られている。そうなると、それぞれの曜日は7日ごとに巡るはずだけど、そのパターンがずれている日記がある。


「この間に数年離れてるのかも? 読んでみるね」


 そう言われてみれば、丸ごと1年ずれているのなら曜日のずれもありそう。

 萌黄先輩が内容を読んでいるので、私も同じように本を覗き込んで読んでみる。知り合いとお酒を飲んだとか、天気がよくない日が続いてるとか書かれている。知り合いの反応とか天気の様子が繋がってることから、曜日が違う日が別の年とは思えないけど、はっきり断言することもできない。同じ月なら天候も似ているだろうし、お酒は毎日飲む人もいる。


「うん――内容がつながってるとははっきり言えない。でも、前後の日記の曜日を確認したら、ずれてるのはこの日だけだから、数年に渡ってうまく調節しない限りこんなに綺麗にずれることはないよ」


 私が内容を読んでいる間に、萌黄先輩は前後の曜日のつながりを見たようだ。

 曜日が正しいとしたら、間違えている箇所の前後で年数をうまく調節しなければならない。日記の曜日をずらすためだけに長期にわたって計画的に書くとは思えない。


「これが、何を意味してるかだよね。他に訂正している場所もあるんだから、こんな目立つ間違いを放置はしないよね」


 同じページ内に、黒く塗りつぶして間違えた文字を訂正している箇所が何か所かある。それなら、日記のタイトルと言っても良いほど目立つ曜日の部分を訂正しないのは何か理由でもあるのかな?

 もう少し読んでみようと思って本に近寄った時に、ふとページ番号が目に入った。なんだろ、見覚えがある数字な気がする。

 ……最近見た数字は、暗号だけだ。別の場所にある暗号の紙まで移動して、文字の羅列を覗き込む。不規則に色んな数字があるけど、その中にページ番号と数字が書かれていた。


「モエギ先輩。そこのページ番号、暗号と同じじゃないですか?」


 前足で暗号の該当数字をぽんぽんと叩く。


「どれ――うん、書いてあるね」


 萌黄先輩は片手で日記を押さえながら、首を伸ばして暗号の紙を眺める。暗号の紙は数字がバラバラに並んでて、例えば32の次は11で、その次は68など規則性が無い。けど、日記のページ番号がここに書かれている可能性はあるんじゃないかな。


「暗号の各ページを見てみようか」


 萌黄先輩が暗号の紙を手に取り、日記と並ぶように置いて書かれている番号のページを開く。とりあえず暗号の紙の左上から調べることにした。

 日記は、1ページに1日分が書かれているのではなくて、数日ぶんがまとめて書かれていることが多い。書く内容が多い日は1ページ丸ごと日記のこともあるけれど、大抵は複数の日が並んでいる。


「このページの日付は間違ってないね」


 日付も曜日もおかしなことはない。日記の内容も不思議な点はない。相変わらずスペルミスをしているのが気になるところか。

 次の番号のページを確認しても、何もおかしいことはなかった。ただ、やっぱり塗りつぶした訂正部分は見かける。


「これだけ念入りに訂正をするのに、曜日を変えてないのはおかしいですよね」


「意図的なんだろうけどね」


 決め手に欠けるまま日記を眺める。何か理由があるとは思うけど、それが何を意味しているのか分からない。

 日記の側面から覗き込むように読んでいるので、文字が横になってしまうため少しだけ頭に入りにくい気がする。もう少し慎重に調べるために文字を正面から見よう。


 萌黄先輩の足に乗っかって立ち上がり、テーブルから顔を覗かせようとすると、体を持ち上げてテーブルに乗せられる。萌黄先輩は日記を少し離れた位置に置いて、私が座る場所を確保してくれた。これで、日記を挟んで私と萌黄先輩が左右から読むことができる。立ったまま本を読まなくていいから、こっちのが助かります。

 茶子よりも猫の茜の方が体格が大きいので、本を読むときは茶子ほど苦労はしていません。成猫よりはちいさいですが、生まれてすぐの子猫よりは大人なサイズなので、茶子のように離れて本を読む必要はないようです。

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