『亡国の異世界 7つの王国と大陸の覇者』257
転生が成功していたら、この世界は消滅する。
そもそも、この世界はどのような世界か。この街の歴史書から推測するに、1300年の事故の結果、前の世界の国や設備をある程度流用して、別の物に変質させて出来上がった異世界と思われる。異種族や魔物も、空想上の物が現実になったと考えていい。
だとすれば、プルトさんたちが元の肉体に戻って1300年の事故を未然に防いだらどうなるか? 当然、この世界が出来上がるきっかけもなくなるため、僕らがいる世界そのものが消滅するだろう。
しかし、そうなっていないのなら、1300年前の事故は回避できていないことになる。
もし転生したと仮定する。転生対象がプルトさんたち5人だけならまだしも、戸籍を見る限りこの世界に飛ばされた人たちはかなりの数が居るため、この人たちも何割かは転生するだろう。これだけの数の人が転生して、事故について少しも防ぐことができなかったとは考えられない。異世界を生み出さないための対策を何か取るはずなのに、この世界は普通に存在している。
仮にプルトさんたちが転生したにも関わらず事故を防げなかった場合には、また事故によってこの世界が生まれて同じように転生するのではないか? その場合、1度目に転生した記憶を持ったまま転生するため、出来るだけ早く転生して、事故を防ぐための再挑戦をするんじゃないだろうか?
それなのに、今のプルトさんたちは初期時代から戦争時代にかけての300年を、普通に過ごしている。その様子から、転生はまだ1度もしていないと予想がつく。
「なるほどねー。この世界が存在するから、転生はありえないと」
茜の両手を上にあげて、萌黄先輩が納得している。茜もは猫だから表情は分かりにくいけど、理解している顔だ。
「龍とか戦争については何も書いてないの?」
「龍に関しては、今ある資料には書いてない。戦争中のお金の流れは書いてあるけど、意図とかは書かれていなかった」
茜の疑問に簡潔に答える。龍については、少しも記述がない。戦争は食料や武器などの記録があるため、どの程度の規模で戦っていたのかは読み取れるけれど、何のために戦争をしていたのかは書かれていない。
「龍や戦争と関係があるか分からんが、転生については必要な条件がある。魔力と観測だ。ハウメアで転生の実験を行ったのなら、魔法は完成しているのだろう。科学技術で転生したのなら、もっと別の部分で技術が発展しているはずだ。そうなると、魔法を使うために必要な魔力の量が問題となってくる。転生のような神が使うレベルの物が低コストな魔法だとは思えんからな。ハウメアひとりならまだしも、ここに飛んできた人全員を送るなんて、それこそ封印地の魔力を根こそぎ引っ張って使ってもおかしくはない」
大量の魔力を使うために、大量の魔力が流れてくる封印地は都合がいい。
王笏が封印地に刺さっている場合、地下から大気へと魔力が流れて、世界に魔力が循環されている。けど、独占したい場合はその流れが不都合になる。「……ねこそぎ」と茜がつぶやくのは平常運転。
「それと観測。同じ世界へ転生するのと、どこにあるか分からん別世界に転生するのとではかなり違うからな。こっちの世界に来た以上、プルトたちに元の世界を自由に観測することはできないはずだ。それでも転生するのであれば、その世界を観測する手段が必要になってくる」
「観測と言っても、過去なんでしょ? 見ることって出来るの?」
「アカネの話では、プルトはうちらが転生するための街が見えていたらしい。学校やら車やらがあった所だ。王笏が揃っていればその光景を見ることも可能らしいが、その街とプルトの居た世界が共通しているのかはわからん。ただ、異世界を見る手段があるのは確かだ」
蜜柑先輩の予想では時代設定は別としても、プルトさんたちが居た世界と僕らが転生に使った街は同じだと考えている。明確な証拠も無い上にゲームを作る都合を含めたメタな考えも含むため、もう少し調べて何らかの証拠らしきものを発見したいそうだ。
「王笏から世界の意思が聞こえるとか話してたんだよね。そんな仕組みってあるのかな?」
「僕らが知っている王笏は、魔力を引き上げるだけの装置。もし何かがあるとしたら、王笏じゃなくて引き上げた魔力にあるはず」
「魔力が異世界と繋がってるってこと?」
「実際のところ、魔力は魔法の源だからな。異世界に転生する仕組みが魔法なら、どちらの世界も魔力で繋がってるかもしれんぞ」
ハウメアさんが使ったように転生が魔法で実現できるのなら、前の世界にも転生を引き起こすのに必要な魔力が存在していたのではないか。地下から汲み上げていたエネルギーが魔力そのものだとしたら、事故によって魔力が転生魔法に変化したのかもしれない。偶然だとしたら、凄く低い確率だろうけれど。
「えっと~、じゃあ、王笏を封印地から壊してた理由って~?」
「封印地の王笏が無ければ、地面に大量の魔力が溜まり続ける。その魔力を7つ集めた王笏を刺した杖で自由に使えるようにしてたんじゃないかな?」
「あの杖って、地下に溜まった魔力を引き上げられるんだ?」
「それはあれっす、魔玉っすね。魔力溜まりに所有者登録した魔玉を放り込めば、魔力溜まりから魔力を引き上げられるって機能。あれさえ使えば魔力は使い放題っす」
「魔力溜まりって、龍の体があった場所だっけ? 大きな魔石があったところ」
「そう。封印地から魔力を供給される場所。そこなら、どれだけでも魔力が使い放題になる」
地下の魔力を封印地にある龍の魔玉が引き上げ、王笏で外に魔力を噴出して世界に魔力を満たす仕組み。
それが、王笏がなくなったことで魔玉は噴出することなく魔力を引き込み続けた。普通の生物であればその魔力を肉体の構成に割り当てられるけれど、肉体は王都の地下に封印されている。
この世界の生物は魔玉から魔力が肉体に送られるのと同様に、龍も魔玉のある封印地から、遠く離れた王都へ魔力が送られる。本来であれば空中に噴出されて障害もなく肉体へ魔力が送られるが、それが出来ないため地中を通って魔力が流れる。
これまでスムーズに遅れていた魔力が地中と言う障害に阻まれることで、魔力の流れが滞ることになり、魔力を容易に吐き出せない魔玉に魔力が過剰に含まれることになる。
その結果、魔玉への魔力の過剰摂取で龍は理性を失い、遠く離れた肉体の維持も取ることができず、ただ流れてくる魔力を使って王都の地下では魔石の外殻を作っていたのだろう。
その結果、本来は龍の肉体を構成するほどの魔力が行き場を失い、王都の地下が魔力溜まりになった。あの場所では帰還石がつくられていたが、役割としては過剰な魔力の結晶化だろう。実際、帰還石を消費したら、魔力が龍の肉体に戻る性質を利用して人は街に飛ばされるのだから。
「そうなると、各国に聖女が寄贈したといわれる杖が怪しくなってきますね。魔力を引き出していたのでしょうか?」
「だと思います。カフェの店主のリニーさんの話では、聖女が来たときには杖に石が差し込まれていなかったのに、寄贈するときには石があったそうです。おそらく、膨大な魔力を送るための装置じゃないでしょうか。魔力を受信するための石は、聖女たちが保有している気がします」
実際に見ていないけれど、魔玉の性質を利用して膨大な魔力を使うのであれば、各魔力溜まりに中継地点を設置するのが効率が良い。魔力が杖を通して流出しているのは当然ばれるだろうけれど、当時なら『魔力病の解消のために、余計な魔力を排出している』と言えば受け入れるのではないだろうか。
「龍の封印地で王笏を壊してた理由って、魔力を多く使うためなんだ」
「最大限魔力を使えるようにするためだけを考えたら、その方が効率は良いからね」
僕の答えに納得したのかどうかわからないけど、茜は口元に肉球を当てて考え込んでいる。何か気になることがあるようだ。
「じゃあ、どうしてプルトさんが活発に活動しているのは初期時代の後なんだろ? 過去に聞いた歴史だと、かなり前からプルトって学者が活躍してるよね。同一人物かわからないけど、長生きだし関連はあるんじゃない?」
別人、で終わらせれば話は終わりなんだけど、もし同一人物だった場合、確かに行動が遅い。王笏の仕組みも魔玉の仕組みも昔から変わらないのだから、もっと早く活動を開始していてもおかしくはない。
「転生魔法が無かったからじゃない~?」
「無かったとしても、新しく魔法を生み出すためには魔力が沢山必要なんじゃないかな?」
転生魔法が無いのか、それとも……その方法が思い浮かばなかった? 数百年も生きていて、その手段が思い浮かばないことはないだろう。
……思い浮かばなかった理由がある? 元の世界に戻る気が無かったとは思えない。戻る気が無ければ、初期時代以降の戻るための活動と矛盾する。
それとも、気持ちが変わるような出来事……初期時代を迎えたからだ。
この世界の生物からしたら、空中ではなく地中を魔力が通るようになってしまったのが問題でした。龍の肉体を構成するほどの魔力が地中を流れているのため、影響を受けないはずがありません。




