『亡国の異世界 7つの王国と大陸の覇者』256
商業ギルドの探索は、おおよそ終了した。修理の方がまだ間に合っていないため、全ての資料を確認できたわけじゃないけれど、資料の傾向はわかった。
今から、その確認できた資料から読み取れた内容を共有するため、全員が1つの部屋に集まっている。
「誘拐は教会が勝手にやったわけではなく、街の方針で行われているのでしょう」
誘拐している回数は、年間を通して多くはない。それでも、輸出品目がわからないのに特定の村から1~2回だけしか取引をせず、その上でずいぶんな金額を受け取っている。
実際には書かれていないだけで正当な取引をしているかもしれないけれど、誘拐された村の名前が一致したのを1度でも確認してしまった以上、他の項目が怪しく見えてしまう。
「教会への寄付金が、略奪した金額の合計と近いのも怪しいからな」
教会への寄付金が高額な時期に略奪と思われる回数が多かったため、略奪の合計金額を調べたらおおよそ教会の寄付金に近かった。同じように他の年も略奪の合計金額を調べたら、そちらも寄付金と近い数字になっていた。1冊が5年まとめになっている収支の本のうち、5年ともすべて同じ傾向にあるため、寄付金と略奪は何らかのかかわりがあると考えられる。
数字でしか証拠はないけれど、資料的にかなり怪しい。
「別の資料ですが、職員に対する給与について書かれた書類がありました。時代はいろいろ飛んでいますが、800年代から1200年代まであります。問題なく支払われ続けているようですが、気になるのが1点。兵士に対する戦闘時の特別手当はあるのですが、遺族に支払われた記載はありませんでした。遺族への支払いは別の資料に記載されているかもしれませんが、そうでないなら帰還石が発見される前からリバ石によって復活していたのでしょう」
初期時代の人たちは、死亡したら魔石から復活する。その際は病院などに高額な支払いをするのだけれど、ここにはそういった記述はない。帰還石の用途が発見されたのも聖女が活躍した950年以降の話なので、800年代の兵士には関係がない。
「最後に、戸籍についてです。全ての戸籍が集まっているわけではないので正確ではないですが、特定の人物には名前の上にチェックマークのようなものが書かれていました。共通ては、その人の親や兄弟がいないことです。それでも、全ての親兄弟が居ない人にチェックがつけられているわけではありません」
これだけなら、気にするようなことじゃない。何かの点検に使われているだけに思える。けれど、特徴は親兄弟が居ないだけじゃない。
「チェックマークがついている人の生年が、全員1200年代でした。その人たちの子どもが700年代や900年代に生まれています」
順番がおかしい。おかしいのだけれど、ある条件を当てはめれば問題がなくなる。
「アカネちゃんが持ってきた歴史の本だね。あれには上巻と下巻で別々の歴史が書かれていたけれど、もし上巻の1300年の事故から人が移動してこの世界にやってきたと仮定すれば、生年の違いに違和感はなくなるんだよね」
残念ながら、戸籍には飛ばされたかどうかは書かれていない。単純に生年月日と家族について書かれているだけ。
「寿命については、リバ石で引き延ばしているのは確実だな。何しろ種族がヒトなのに100歳越えて子どもを出産している人がゴロゴロいる」
出産年齢が、通常とはかけ離れている。茜が見たリバ石による若返りを活用すれば、ヒトであっても長命種と同じように生きることはできそうだ。記憶がどうなるかはわからないけど、僕らと同じ仕組みなら記憶は引継ぎだろう。
「それと戸籍に知った名前を確認できた。ハウメア。ネプチュン王国の王子で獣人であり、プルトと行動を共にしているやつも同じ名前だった。名前が同じ別人の可能性もあるが、戸籍に書かれたハウメアには追記がある。975年に死亡ってな」
リバ石で復活できるシステムなのに、明確に死亡とあるのには違和感があるけれど、記述に嘘はないのだろう。蜜柑先輩と話し合い予想を立てた結果、それはあり得ると判断した。
「ハウメアの年齢ははっきりわからないが、見た感じ20代半ばのような感じだった。死亡時期から考えると、年齢が一致している。もしこの記述にあるハウメアと同一人物だった場合、王子のハウメアは意図的に転生したんじゃないか?」
「若返りが出来るのに、なぜ転生するのかしら? 王子の地位が必要になったとか?」
「ひとりで放浪している様子だから、地位が必須ではなかっただろうな。あれば便利、程度じゃないか? それよりも、転生できることそのものが必須だったと考えられるな」
「転生って、アニメとかゲームに出てくるやつでしょ~? 必須になることがあるの~?」
「異世界に転生した人にとって、ほとんどの人が目指す一番の目的って何だと思う?」
「ん~……チート?」
「それは目的じゃなくて能力とか手段かな。転生した先で何を目指して生きるかってこと」
「魔王討伐や、王子と結婚かしら? けど、それ以外を目的にしている人も多いわよね」
茶子も紫帆先輩も考え込んでいる。
茜の両手を持って修理する対象に手をペタペタと動かしている萌黄先輩が、茜の片手を上にあげて「わかった」と言った。
「元の世界に帰りたい、じゃないかな? 天涯孤独とか元の世界に興味がないって割り切った設定も多いけど、家族を残した設定もよくあるからね」
「はい、それです。元の世界へ、家族の元へ帰りたい。転生ものの序盤は、多くがその手段を現地の人に聞きます。大抵は不可能と言われるパターンが多いのですが、それでも諦めない人は多数いるでしょう。今回はその諦めなかった人たちの手段として、転生が選択肢にあるのだと思います」
僕たちは異世界から転生という形でキャラクターを作成したけれど、ログアウトすれば元に戻れる。けれど、NPCの場合は違う。もし前の時代にいた人たちがこの時代に飛ばされた場合、どうすれば元の世界に戻ることができるのか。
最初に思い浮かぶのは、姿を保ったまま元の世界へそのまま転移することだ。飛ばされる前の時代にそのまま戻ることができるのなら、続けて元の生活を送ることができる。
ただし、それは1300年の事故が起きた後の時間に転移した時に限る。事故前に転移してしまえば、直後に発生する事故に巻き込まれて同じことの繰り返しになる。また、事故を防いだ場合、自分と同じ人間がふたり居ることになってしまう。
それを防ぐためにも、事故の後の時間軸に転移する必要があるけれど、果たして事故後の世界はまともな状態になっているのだろうか? ここに飛ばされた人たちは事故によって飛ばされたのなら、事故の後の世界を知らないのではないか。だとすれば、事故後の時間軸に転移をするのはかなりリスクが大きいと言える。
では、最も最適な方法はなにか。それが、転生なんじゃないかと思う。転生先に記憶を保ったまま移動できるのなら、元々の自分自身の肉体に転生してしまえばいいんじゃないだろうか?
1300年に起こる出来事の前に転生することになるので、事故を未然に防ぐことも可能だし、自分自身に転生するのだから同じ人がふたりになることもない。これなら、元の世界へ戻って平穏に暮らせるだろう。
「自分自身に転生かー。確かにそれなら、元の世界に戻ったとみなしてもいいかもね」
「記憶や知識にずれが生じても、本人であることには変わりないものね。ハウメアさんの転生が、実験の一環なのでしょうね」
「じゃ~、プルトさんたちは転生に成功して元に戻ったの~?」
「いや、転生は出来なかったと思うよ」
歴史の本の流れを考えたら、転生して元の肉体に戻ったとは考えられない。それは、現状がそれを物語っている。
「もしプルトさんたちが転生に成功していたら、この世界そのものが消えるから」
花粉症のピークもあと2週間でしょうか。アレルギー検査ではヨモギ以外の植物は全部アレルギー反応が出てましたが、スギが圧倒的に高いので早く時期が終わってほしいです。




