『亡国の異世界 7つの王国と大陸の覇者』255
~~~アオナ~~~
仕事を渡して強制的に茜を落ち着かせる。しばらくすれば元に戻るだろう。
それにしても、猫を使ってデートの取り付けか……兄ちゃんの割には、悪手を選んだな。猫の前に茜を立たせたら動かないに決まってる。
少し調べたら、子猫は公開時間が決まってる上にグループ単位で見る時間が決められていたから、こっちは引き離すことはできる。問題は、茜の猫好きは子猫に限らないことだ。大人の猫の公開時間は決まっておらず、開園から閉園までずっと見ることもできる。
デートを誘うのに本物の猫という餌でしか釣れないヘタレの兄ちゃんには、そうなった茜を動かす手段はないだろう。動物園にはナイトパークもあるから、閉園は夜の9時。そんな時間まで動物園に籠って、帰りは茜をひとりで帰らせる? 危険にもほどがある。僕がなんとか引き離して、明るいうちに帰らなければ。
……夜遅くになるのを想定して誘った可能性は――ないだろうな。
動物園について考えながら探索を続ける。商業ギルドはさすがに取引量が多いのか、書類関係がかなりある。修復してもらったものを読んだ限り、ほとんどが取引関係の書類なのでハズレばかりだけれど、それはそれでわかることがある。
圧倒的に他の街と取引している量が少ない。茜が言っていた通り、自給自足で食料を賄っていると聞いてたけれど、それ以外の物品も自給自足の割合が多い。
他の街から取引している場合も、輸出品は少ない。というか、見かけない。基本的に輸入ばかりだ。その輸入も、行商人が来たときに取引をする程度で、積極的に他国から何かを購入することが無い。
「これは、922年か……」
棚にある書類の取引された年代の出来事に覚えがない。時期的には魔力病が広がっていて、聖女が現れる前のあたりだ。革細工と食料品の取引しか書いてないので、購入した物について怪しいとは思えない。書類として本当に必要ないのかはわからないけど、取引年代について詳しくないため、結果的に優先順位が低くなる。
初期時代の700年と、戦争時代の1000年の書類があれば、タイミングさえ会えばその取引現場まで見に行くことができる。そういった書類を探しているのだけれど、今のところそれは見つかっていない。
綺麗に年代順に並んでいれば探すのも楽なんだけれど、何があったか書類は地面に散らばった状態で広がっているため、ここにある書類が何年から何年までの期間の物を保存していたのかがわからない。拾えるものは拾いまとめて、崩れそうなものは茜を呼んで読めるようにしてもらっている。[リペア]のために物質魔法を覚えるべきか。
「キリちゃーん、アオナちゃーん、本の修理終わったよー」
別の部屋から、茜と一緒に本の修理をしている萌黄先輩の声が聞えた。移動可能な書類を持って、茜の所へ移動する。黄里先輩が先に修理部屋に入っていて、本を読んでいる。
「ありがとうございます。この書類もお願いします」
萌黄先輩に書類を渡して、修理してもらった本を手に取る。
パラリとめくると、各店舗へ回される商品の品目や値段が並んでいた。季節やそれに応じた頻度が書かれている。1つの店につき5年間の取引内容がまめて書かれているので、取引の書類を1冊の本に集約したものだろうか。時代は870年頃だから、求めていたものとは違う。
本の最初の方には各ギルドの取引が書かれていて、そのあとは個人の店舗と思われる取引が書かれている。後ろの方は屋台や行商人のような気がするけど、販売した商人の名前しか書かれてないからわからない。なんでこんな個人まで……あぁ、税金か。
書いてある数字の切りがいいけど、これは税収が固定だから? 屋台の売り上げ個数と商品単価を計算すると、ほとんどの屋台が似たような金額の売り上げになってる。収める税の金額を元にした数字を報告しているのか。不正し放題だ。
何にでも税を取っていた現実の中世と違って、おおらかだな。街だけで経済が回るとこうなるのかな? リバ石を使えば、食料自給率は100%らしいし、植物――樹木も同じことが出来そう。金属はどうだろう、何か増やす方法があるのかも。
……輸出しないから外貨獲得も無さそうだし、お金が減るだけじゃないかな。どうしてたんだろう?
お金の流出防止については書かれていないので、最後まで流し読みする。――臨時収入が最後のページにあった。何を取引して収入があったのかはわからないけど、かなりの金額が年間の臨時収入として計上されている。
怪しすぎるけど、裏取りできる年代ではないからどうしようもない。本を閉じてテーブルに置き、先ほどの部屋を再度探索するために移動した。
一通り調べ終わり、僕の担当していた部屋は終わった。隠し部屋もなく書類整理で完了。その書類も、欲しい年代の物はなかった。
茜のいる場所に戻り、他の部屋から持ち出された修理が終了した本を手に取って読み始める。
「アオナちゃん、こっちが初期時代で、これが戦争時代の資料だよ」
「ありがとうございます」
萌黄先輩が年代別に分けてくれていたようで、その他の資料とは別で置かれていた。さすがに年代が新しい戦争時代の方が資料は多い。
アカネが行ったこともある戦争時代の資料を手に取る。先ほどの本と同じような税収の本がある。同じように5年間のまとめとなっていて、996年から1000年までの資料だ。
本の構成に違いはなく、税収の方法も大きく変わらないのがわかった。
基本的に街の中については大きく変化がない。先ほどの870年頃の資料とギルドの項目を比較しても、金額の差はあっても書いてあることに変わりはない。
最後の外貨獲得ページを見る。相変わらず何によって外貨を獲得しているのかわからないけど、順調に収入があるようだ。
……ん。これ、見たことあるような? 何だったか……。
思い出すために顔を上げて、茜を見てから萌黄先輩まで見上げると目が会った。茜と、萌黄先輩――あっ!
「モエギ先輩、これ見てください。この村わかりますか?」
外貨収入の資料に書かれていた項目のひとつを見せる。村との取引額としては結構な金額が書かれていた。
「村? ……うーん、立ち寄ったかな?」
「いえ、村の人からの話で聞いただけです。アカネが救出した村の名前って、これじゃないですか?」
「村の名前……あ! そうそう、多分同じだと思う」
サアターン王国の、ミスマの街付近にある村。ミスマの街は、マアズ王国の鍛冶や細工で有名なサエバから近く、ヴィナス王国の王都とも近いため重要な貿易都市だ。救出した人たちは、そのミスマの街から離れた位置にある村に住んでいたと聞いていた。
その村は、襲撃されて村人全員が誘拐され、魔法の実験台として捕まっていた。
外貨の獲得方法、ひょっとして襲撃して略奪している? それなら、輸出品目が存在していなくても納得できる。そう考えると、ここに出てきている行商人も無事に街から出られたか怪しいが……誰かに行先を伝えた行商人を捕まえるのも悪手か。行商人はわからないけど、村に忍んで略奪するのなら、証拠隠滅はできそうだ。
少額の村も存在しているのは、村の資産が少なかったのか、それとも村全体ではなく個人から略奪したのかはわからない。
けれど、例えば870年のあの資料と、870年頃の都市の地図や歴史を比較すれば、外貨獲得の時期と村の消滅の時期がそろっていた場合、この街が襲撃して村を消した可能性が高い。
「それだとしたら、まだ襲撃されていない村がそれでわかるってことだよね?」
「はい。僕らが防衛するのは大変ですが、出来ることはあるかもしれません」
何人が村へ略奪に来ているのかわからない。軍隊レベルの数で来られたら、戦って防ぐことは無理だ。それでも、警告や対策など、出来ることは探すことができる。
実際の襲撃時期の資料があれば良いんだけど、さすがにないだろうな。
話を書きつつ、本の修理と修復ってどっちがいいのか迷ったところ、歴史的価値がある物を治す場合は修復で、今回みたいに読めればいい程度に直すのは修理のようです。ただ、この魔法の対象を絵画などに使った場合は修復と同様の効果が表れます。目的別に呼び方が違うだけで魔法の結果は変わりません。




