『亡国の異世界 7つの王国と大陸の覇者』254
黄里先輩と茶子が戻ってくるまでの間、二手に分かれて空き家を探索することにした。
私はさっきの探索で見つけた、不用品が置いてある部屋に向かう。
「けっこう埃っぽいね。アカネちゃんの足跡がくっきりついてるよ」
萌黄先輩に言われて後ろを振り返ると、自分の足跡が点々とついている。自分の足跡とはいえ、猫の足跡はいいものだ。特に一直線に足跡が続いているのは見ていて楽しい。
それはそれとして、猫の体を活かして狭い隙間を担当する。低レベルながらも【探索】スキルを使いながら調べていると、木の板が壁際に重ねて置いてある場所の、壁と板の隙間部分に細長い板を発見した。細長い板に爪をひっかけて引き出すと、板には『畜産ギルド』と文字が彫ってあった。
「先輩、これ見つけました」
一緒に探し物をしている萌黄先輩と紫帆先輩が寄ってきて、紫帆先輩が板を手に取る。裏表を確認してから「日焼けしてるわね」とつぶやいてから板を手に家の外へ向かった。
紫帆先輩を追うように外へ出ると、紫帆先輩は壁に板を重ねていた。
「この壁の跡は、この看板じゃないかしら?」
壁に重ねていた看板を外すと、壁には日焼けの後がついていた。看板があったところだけ、輪郭をなぞるように汚れている。縦横ピッタリの長さだから、元々はこの看板がこの場所にあったんだと思う。
ほぼ確実に畜産ギルドと判明した上で、部屋の中を再度見たけどこれ以外にギルドを示しそうなものはなかった。ひょっとしたら壁に刺さっている太い釘や手すりらしいものが手掛かりかもしれないけど、3人ともそれが何かはわからなかった。
調査が終わり商業ギルド前まで戻ってくると、もう一つの空き家を調べに行った蒼奈たちが戻ってきていた。あちらも建築ギルドとなる証拠があったそうで、地下とつながっている場所はもともとギルドがあったところだと判明した。
空き家が調べ終わって情報交換している最中に、地図を完成させた黄里先輩と茶子が戻ってきた。地下の地図が完成したことにより、地下への出入口は隠されていない限り7か所なのが決定した。
「出入口は、龍の封印地に対応していますね」
それぞれの出入口があった位置は、上から見ると龍の封印地の配置になっている。偶然ではないだろうけど、今の時点で意味はわからない。それでも、龍の配置ということが分かったので、どの向きでみれば大陸地図と街の地図を比べられるかがわかるようになった。
「こうして比較すると、教会はどこかの施設の上にあるってわけじゃないんだね」
「重要そうな施設なのにね」
教会がある場所と大陸の地図を比較しても、その場所はただの森だった。地図上では特に何かが書かれてることはない。書かれてないから何もないとは限らないので、実際は見に行かないとわからないけどね。
「地図は後にして、商業ギルドで探索しましょうか」
1年生で集まって地図を眺めていた所に、紫帆先輩がやってきて商業ギルドに向かうと声をかけてくれた。地図は蒼奈がアイテムボックスに地図を収納した。私のストレージは収納数に限界があるから、アイテムボックス持ちの蒼奈に持ってもらった方が助かる。
中央広場に面している商業ギルドの入り口をくぐる。使われなくなってからかなり時間が経っているためボロボロの建物に見えるけど、割と頑丈な造りなのか掃除をすればまだ使えるんじゃないかと思う。
「アカネちゃんとモエギ先輩は一緒にいるようにお願いします」
「はい。分かりやすい位置にいればいいんだよね?」
「それが一番助かるっす」
私を抱えたモエギ先輩は、商業ギルドの探索に積極的に参加するのではなく、それぞれの探索している人から見える位置にいるようにしている。この配置は、私が物質魔法の[リペア]が使えること、モエギ先輩が治癒魔法の[レンドマナ]が使えることから、修復部隊としてどこにでも移動できるようにするためだ。
「アカネ、この紙お願い」
「はーい」
だからといって暇なわけでもなく、気になる書類があれば修理をするために移動を繰り返している。持ち上げたらボロボロになりそうな書類がいくつもあるので、私たちが移動して修理をしなければならないからだ。
「直ったよ」
「ありがと」
数枚程度しかない書類は、簡単に修復できた。原型が7割ほど残っていたのが大きいかも。
「モエギ先輩、こっちもいいですか?」
「はーい」
修理した書類を読み込む蒼奈から、どんな内容だったのかを聞く暇もなく別の書類の修理に向かう。最終的には調査結果を全員で共有するから、慌てて聞く必要もない。今は、私にできることを続けよう。
分厚めの本などは萌黄先輩からマナを受け取って修復しつつ、請われるままに数多くの書類を修復し続けた。
「日も落ちたことですし、休憩しましょうか。ログアウトして翌日でいいかしら?」
さっきまで窓から差し込む夕日で建物内が何とか見えていたけれど、今はもう真っ暗になっていて、[コンティニュアルライト]の明かりでなんとか周囲が明るいだけになっている。暗視持ちは3人しかいないから、これ以上探索するのは難しい。
ゲーム内の時間で朝になるまで、一度ログアウトをすることにした。
~~~~~~
シープを外して、軽く背伸びをする。現実の時間はまだ夕方にもなっていないから、外はかなり明るい。
水かお茶でも飲もうかとベッドを降りて、部屋を出る。シープの端末を視界の端に浮かせながら階段を降りると、蒼奈のお兄さんからの動画付きメッセージが入ってるのに気が付いた。
猫型マグカップにお茶の粉を入れて、電気ポットからお湯を注ぐ。かき混ぜるために使ったスプーンは、すぐに洗って拭いて引き出しに戻す。リビングにあるローテーブルまでマグカップを持ち運び、ソファーに座ってメッセージを開く。
「にゃあああ!!」
お兄さんから送られてきたのは、猫の動画! それも、本物の猫!!!
仕事先の近くに動物園があるらしく、若手の社員で遊びに行ったそうだ。その動物園に猫が飼育されているから、わざわざ動画を撮って送ってくれたみたいだ!
「にゃぁぁぁぁ……」
可愛い。茶トラ猫くんと、白猫ちゃん。チャック君とミミルちゃん。生まれた時に動物園が出した動画で見たことはあるけど、結構大きくなってる!
兄弟も居たんだけど、他の動物園に移送しているので、ここの動物園にはこの子たちとその親猫がいるだけ。
どうやら先週から一般公開されるようになって、タイミングが合えばいつでも見ることができるらしい。なぜ私はその情報を見落としていたのか……ゲームのやりすぎか?
どうする、見に行くか? いや、見に行くのは決定でいい。ちょっと距離があるから、見に行くのは少し気合を入れなければならないだけだ。
20回ほど動画を繰り返し見てから、お兄さんの本文の続きを読む……なるほど、案内をしてくれるのか。向こうの駅まで行けば送り迎えしてくれると――よろしくお願いします……送信。
蒼奈も行くのかな。だって、本物の猫だから、気になるはずだよね。やはり猫の良さは共有したいよね……送信。
……蒼奈から返信が来た。心配だから一緒に行くとのこと。心配とは? あ、ひとりで向こうの駅に行くことかな。もう高校生とはいえ、ひとりで遠出は確かに心細い。
お兄さんからの返信はないけど、多分仕事中だから連絡はもっと後になると思う。今見てるメッセージは送信時間からすると昼休憩に送ってきたんだろう。猫を見に行ったのが昨日なら、昨日送ってきてもよかったのに……何か送れない都合でもあったんだろう。
しばらく動画を見た後で、飲み忘れてたお茶を一口飲んでから立ち上がる。こうしてはいられない。休憩時間が終わるまでの間に、動物園の猫について情報を集めよう。最も猫が観察できる時間帯を調べなければ、行ったときに奥に引っ込んで見られないとなったら困る。ご飯食べるところは見えるだろうか。まだ飼育員さんが奥であげているかもしれないけど、調べる価値はある。
マグカップを手に部屋へ戻ると、しばらくはシープの端末を操作して情報収集をし続けた。
~~~~~~
「遅れました、すみません」
ログイン。調べものに夢中になって、ログイン予定時間を大幅に超えた。調べれば調べるほど猫の画像が出てくる罠にはまってしまったのだ。
すぐそばには萌黄先輩が座っていた。私がログアウトした場所を知っているから、その隣で待っていてくれたんだろう。萌黄先輩と一緒に行動するのが私の役割なので、待たせてしまってすごく申し訳ない。
「おかえり、アカネちゃん。大丈夫、アオナちゃんから遅れるって聞いてるから」
「あれ、アオナに遅れるって伝えてないですけど」
「お兄ちゃんから本物の猫の動画が送られてきたんでしょ? それを聞いてみんな納得したから」
「なるほど?」
色々と蒼奈には行動を読まれてるから、多分みんなに分かりやすいように説明してくれたんだろう。遅れるつもりはなかったんだけどな。
「ちょっとだけ動物園について調べてただけなんです。見に行くかもしれないので」
「見に行くんだ? このあたりの動物園っていうと、ジェーユーワン・レジャーランド?」
「そこです! 猫の番が飼育されていたんですけど、この春に子猫が生まれてニュースになってたところです! これまでは飼育員さんだけで大切に飼われていたので見ることができなかったんで――」
「アカネ、修理よろしく」
蒼奈がやってきて本を近くのテーブルの上に置いた。
「あ、うん。モエギ先輩、魔力いいですか?」
「もちろん、休憩したからこっちも回復したからね」
猫は猫、修理は修理。テーブルをみれば、ログインしてなかった間に修理するものが並んでいる。ログインしたからにはきっちりと仕事をしないとね!
猫の総数が少ないので、動物園で大切に飼われています。ヤマネコを繁殖で増やしているのと同じ感じでしょうか。動物園で複数の品種を育てていますが、すべて育てているわけではありません。犬の場合も同じ状況です。




