『亡国の異世界 7つの王国と大陸の覇者』253
蒼奈が取り出した本は、最終手段。というか、それを使ったらここでの探索は強制的に終わってしまう可能性があるから、まずは街の探索をしてから使おうってことになった。
「萌黄先輩、最初は地下の探索でいいでしょうか?」
「うん。あ、せっかく2年が全員いるんだから、方針は2年中心で決めても良いんじゃない? 私はその通りに動くから」
黄里先輩が、この場にいる唯一の3年である萌黄先輩に方針を聞いたところ、2年で進めるように言われてた。1年の3人はそのあたりの方針はどちらでもいいので、状況に流されるまま先輩たちの様子を眺める。
「でしたら、地下の簡易的な地図制作と出口の確認をしましょうか。出口が何の施設か調べられると良いですね」
「建物の中にある物を調べれば、多分わかるんじゃないか。地下組と探索組で別れればいいと思うぞ」
冒険者ギルドだとわかりやすかったけど、地下に出入口がある建物がパッと見てわからないなら探索しないと判明しないからね。なるほどと聞きつつ、組み分けをどうすればいいかと話し合ってる最中に、ハッと思い出した。
「地図!! そういえば、冒険者ギルドのカウンターからもらってきてたよ!」
お金を置いて貰ってきた地図があった! ストレージから地図を取り出して蒼奈に渡す。300年経ってるから同じかどうかわからないけど、地下の構造はそうそう変えられないんじゃないかな?
受け取った蒼奈は、地図を机の上に広げた。
「主要な施設には名称が書いてあります。冒険者ギルドはアカネの記憶と同じ位置にあったので変化なしとして――先ほど出た場所は農林ギルドでしたよね……あった。位置は変わっていませんね」
農林ギルドから教会まで移動してきたルートが一致している。これで地図が使えそうなのがわかった。
「これがあれば、建物が何かわからなくても調べられそうね。地下探索を優先させられるのではなくて?」
「そうだな。まずは地下全体を把握するところから始めるとするか」
方針が決定したので、近くの冒険者ギルドから地下に入ることにした。地下に降りてからは、グループを二つに分けて探索する。別れると言っても、最初にここに来たグループを基準に、私だけ茶子のいるグループへ移動しただけなんだけどね。
「萌黄先輩のグループは暗視出来る人がいないから、アカネちゃん行ってくれる?」
という理由で、暗視のある私が移動をした。闇視のある蒼奈も選択肢にはあったけど、光魔法を使えるのが蒼奈と萌黄先輩なので、そのふたりも別れて行動させたいため私が移動することになった。
「とはいえ、抱えられて移動したら暗視の意味って薄れるんじゃないでしょうか?」
地下を移動している最中、私は萌黄先輩に抱えられている。暗視を生かした探索をするなら、地面に降りて周囲を注意しながら進んだ方が危険を察知しやすいのは確か。
「広い空間ならそうだけど、限られたスペースの地下だからね。ほとんどが[コンティニュアルライト]の光が届く範囲だから【猫五感】をつかってくれたらいいよ」
そう話す萌黄先輩は、頭やあごを撫でながら移動するので、微妙に【猫五感】に集中しきれない。猫を撫でたくなる気持ちはよくわかるけど、私がこっち側に来た意味はあったのだろうか。お、頬のマッサージもあるのかー。
せめてマッピングの手伝いと思ったのに、それも萌黄先輩は猫を抱える片手間でこなしている。すごい。
「梯子あったよ~」
地下を運ばれている間に、新しい上への梯子が見つかった。茶子が先行して上へ進み、その後で紫帆先輩が続く。最後に萌黄先輩が私を袋に入れて梯子を登った。
出口はなにかで押さえつけられているらしく、紫帆先輩が外に出るのに苦労していたけれど、武器スキルで塞いでいる物を吹き飛ばして入り口をこじ開けた。
「ここもお店のようですわね」
「看板見てくるね~」
萌黄先輩に抱えられながら地上に出る。カウンターやテーブルがある雰囲気は、確かにお店のように見える。
「細工ギルドだって~」
「ここもギルドなんだね」
「他も全てギルドかもしれないわね」
全てのギルドに地下への入り口があったとしても、地図を見て外から各ギルドに移動した後で、地下への入り口を探すのは逆に大変なんだよね。多分、冒険者ギルドのように入り口が隠されているから、地下から強引に上へと登る方が探す手間も省けて手っ取り早い。
確認が取れたことで、また地下へと戻る。地下と繋がる出入り口を探すだけではなく、地下の地図を作ることも目的だからね。
先ほどと同じように、私は抱えられながら地下探索をする。危険な出来事もなく、新たに2か所の出入口を発見してから、蒼奈たちのグループと合流することにした。1か所は鍛冶ギルドだったけど、もう1か所は荷物置き場のような空き家に出た。全部ギルドじゃないのか。
最後に見つけた鍛冶ギルドの出入口から外に出て、待ち合わせ場所の中央広場に到着。蒼奈たちと合流し、これまで調べた地下の地図をお互い照らし合わせて不足が無いか確認する。
「あと数か所の通路を埋めたら完成だね。先に埋めてこようか」
「見る限り行き止まりっぽいけどな」
「だとしても確認は必要だからね。すぐ終わりそうだから行ってくるよ」
「あたしもいくよ~」
黄里先輩と茶子が走って細工ギルドの方へと向かった。地図の抜けがある部分は、細工ギルドから入った方が近い。
私も行こうかと思ったけど、萌黄先輩に抱えられてるので初動が遅れてそのまま待機組になった。
「全部がギルドじゃなかったね」
萌黄先輩のいう通り、出入口はほとんどがギルドだったものの、関係ない空き家に出ることもあった。とはいえ、その数も2か所と不自然な感じだった。
「ひょっとしたら、元々はそこにギルドがあったのかもしれませんわ」
「人が住居にするような建物じゃなかった。人が沢山入る前提の間取りでした」
私たちが入った建物は、広い倉庫みたいなところだった。棚やカウンターを入れたら冒険者ギルドになりそうな程度に大きな部屋だった。
「空き家の謎は別として、5か所も地下への入り口が直通なら、この街では各ギルドが何らかの秘密を握っていたのかもな。あるいは、各ギルドが高い権力を持っていたかもしれん。他の国みたいに王のような明確な統治者がいないんじゃないか?」
「アカネが持ってきた地図を見ても、他国みたいに貴族の館のような大きな家はほとんどないですからね。あったとしても、やはり貴族の建物としては小さい部類しかありません」
地図でわかるのは、大きな建物は学校や劇場のような施設で、個人が所有していそうな大きな建物はそれよりも小さい。もし王様のような人が住んでいるのだとしたら、王城や王宮は学校より小さいことはないだろう。
「政庁があるとしたら、場所や利便性で言えば商業ギルドじゃないかしら。中央に一番近いギルドですし、商業ギルドの敷地と繋がっていそうな裏手の建物も、会議やパーティーが出来そうなほど大きいのよね」
「そういえば、商業ギルドの横にあるあの建物から兵士の人が出入りしていました」
中央広場から見える建物に向けて手を伸ばす。あの建物は、戦争時代に中央のリバ石を守るようにしていた兵士たちが出入りしていた建物で、商業ギルドの隣に建てられている。建物としては独立しているから別の施設に見えるけど、商業ギルドが政治とかかわっているのであれば役割は重要人物を警備しているように思える。
「兵士といえばアカネが地下で出会った兵士だが、あの空き家の出入口を利用しているのかもしれんな。その用途のためにギルドの場所を移設したのだとしたら納得だ」
一般の人が何人も利用するギルドを兵士が出入りするよりは、それ専用の建物を建てて専用の出入口にしたほうが都合がいい。そのために、後の時代になって建物の位置を変えたんじゃないかな。
「ふたりが戻ってくるまで、空き家2軒を探索しましょうか。物もなかったのですぐ終わるんじゃないかしら? そのあとは、書類が多そうな商業ギルドを全員で調べましょう」
仕事を2年生に任せた萌黄は猫を構うことに夢中です。同じパーティーとして行動する機会が少なかったので、よけいに多く構い倒しています。




