『亡国の異世界 7つの王国と大陸の覇者』250
「エルさんが大切にこの場所を保存してるのはわかるんよ。だから、念のため聞いておくんよ。この街にある物はそのまま保管しておきたいんよ?」
崩れた建物を見回しながら進む間に、未黒先輩がそんな質問をしていた。
『今の私はそうですね。この場所に人を入れる予定はなかったです』
「前にコディアリの公民館で調べたんだけど、この街の紛失物の記録がそれなりに集まっていたんよ。うちらも何かいいものがあればいいなと思って調べてたんだけど、同じように考える人は他にも出てくるんよ。街に転送装置が置かれても良いんよ?」
廃墟を調べるのは、ゲームの楽しみのひとつだからね!
普通なら色々調べたくなるし、今だってギンガは周りを見渡しながら歩いてるけど、ここがエルさんの大切な場所だって知ってるから勝手はできないなって思ってる! でも、そう思わない人がここを色々調べるようになったら、エルさんにとって良いことじゃない気がする!
『それに関しては大丈夫です。もしよければ、その家のレンガを持ち上げてみてください』
近くにある家の、崩れた壁からむき出し状態のレンガがある。レンガ同士がひび割れて外れそうなので、持ち上げることは簡単そうだけど……持ち上がらない! 他の場所のレンガも試してみたけど持ち上がらない。床に落ちてるのはどうかと拾おうとしたけれど、これも拾えない! なんだこれ!
『発掘したかどうかにかかわらず、街の遺物は全て場所を固定化してあるのです。自然の石や土などはさすがにしていませんが、当時の人が作り出した物に対しては全て施してあります』
この街から何かを持ち出そうとしたら、全てエルさんの許可が必要になるみたい。ここに来れる人が限定されるうえに街がこの状態なら、この先もずっと保存され続けそう!
『何か遺物で必要なものがありましたか?』
「いや、良いものがあればって気持ち程度なので、必要かと言われると違うんよ。うちらとしては、インゴットの変換を手伝ってくれれば十分なんよ」
遺跡に重要なアイテムがあるのは定番だけど、それっぽいのは書いてなかったのかな? 必要なものなら未黒先輩は遠慮なく言いそうだから、本当になかったのかも!
「ミク、見せてもらわなくてよかったの?」
「イベントアイテムのような物は書かれてなかったんよ。個人の遺失物として貴金属の記述が大半だったんよ」
「なるほど、元々はここに帰る気持ちがあったのかもね。見つかった貴金属の所有権が誰にあるのか記録しておいたんじゃないかな」
「まー、それもあるけど、喪失感の埋め合わせだと思うんよ。無くしたものを記録するだけで、気持ちの整理になるんよ」
そういうものなんだ。ギンガがその状況になったとして……この世界に写真はないから、手帳に思い出を書けば、気持ちの整理はできるのかな?
『ここで良いみたい。設置するね』
エルさんは、浮かび上がらせていた転送装置を地面に置いた。角度を気にしているのか、時々位置を調節している。
「設置に細かい角度の調整が必要なのですか?」
『向きが違うことで困ることはありませんけど、設置後は位置を移動されないようにするための魔法がかかるので、再設置の手間を考えると最初に位置を決めておいた方がいいのです』
誰かが持ち去ってしまうと困るので、設置場所に固定されるらしい。また、自然現象による長い時間をかけた浮き沈みなら固定化の魔法がかけられてても動くそうだけど、災害レベルの土地の移動ではその場で留まり続けるのだとか。それなら、空に浮くことも有るかと思ったけど、それはないらしい。
話しながらもエルさんは重たそうな石の塊である転送装置を、気軽に持ち上げては場所をずらし、ぐるぐると周りを見回って位置を確認している。数センチずらして見比べてるかと思えば、いきなり1メートル近く移動させて確かめるなど、かなりのこだわりがあるみたいだ。
「エルさん、時間かかるなら街を見回ってもいいんよ?」
『ええ、構いません。終わったらお呼びしますね』
真剣に転送装置を眺めるエルさんの背中に声をかけてから、ギンガたちは街を探索することになった!
元々が土砂で埋められてたから、当然天井は土や石で覆われている。それでも高さは4メートルほどあるから、エルさんががんばったんだろうね!
土砂に押しつぶされた街なので、それぞれの家には土台の跡しか残っていない場所がいくつもある。それでも、意外と壁が残っている家も多くあって、土砂でつぶれた場所のようには感じられない。
「エルさんが瓦礫から組みなおしたのかな?」
「そうだと思う。街を覆うほどの土砂の量なら、これだけの住居跡が残されてることはないからね。土砂に流された街の痕跡を回収して詰みなおしてるんじゃないかな」
ここにある建物がエルさんによって発掘し復元されたものだと思うと、何とかして直したいという強い思いが感じられる。けど、その分だけすごく悲しく感じるような景色に見える。
動かないように保存されているけど、この場所を壊さないようにしないとって気持ちになるよね!
「復元された街ってことは、公民館で見た資料に書かれていた物の場所は変わってるかもしれないんよ」
「どこまでエルさんが把握して再現してるかだよね。建物の外観なら直せても室内は日々変わってるだろうからね」
龍の知識や記憶力があれば、過去の姿が細かく思い出せるのかな。それぞれの家で使われていた建材がどこの家に使われていたとか、普通はわからないよね!
それぞれの家に入ってみたけれど、さすがに内装は整っていなかった。でも、修繕されたように見える家具が、数は少ないけれど幾つか置いてある! 元々この家の家具だとしたら、かなりの記憶力だ!
この街の復元された状況を見れば見るほど、転送装置をひとつ置くのにあれほどこだわるのがよくわかるね!
『配置は決定しました。今から起動しますが、どうします?』
『見に行きます!』
ふたりにエルさんから連絡が来たと伝えて、最初に設置を予定していた場所まで移動した。さほど離れなかったのですぐに到着して設置状況を見たけれど、ギンガ的には最初に置いた場所と比べて特に何か大きな変化があったようには思えない。
『ぴったりの場所を見つけることができました。最初の位置よりはかなり良いんじゃないでしょうか?』
細かいこだわりはよくわからないけれど、とりあえずギンガたちは「良い場所に設置できたね!」と返事をした。
『それじゃあ、設置しますね。――!』
ギンガの姿をしたエルさんが手を前に出した瞬間、転送装置が一瞬だけ光った! 音も何もなく、本当に光っただけ。その光が収まったあとも、見た目はさっきと変わらない。
『設置完了です。これで後は皆さんに預けた方を設置すれば開通ですね』
「見た目は変化ないのですね。魔力感知にも大きな変化は感じられません」
『起動したと言っても、土地へと固定と転送機能の制限を解放しただけです。この転送装置に含まれる魔力量はかわりません。それよりどうでした、街の様子は。気になる物でもありました?』
「いっぱい復元されててすごかった!」
『でしょう? かなり発掘が進んだのですよ』
転送装置よりも、街の様子を見てもらえたのがうれしいらしい。今まで人を入れたことが無いって話だけど、誰かに見てもらいたい気持ちもあったんじゃないかな!
そういえば、家具などの内装品は土砂に潰されたり流されたりしたものを回収したんだって! 運よく土砂の上に流されたものもあれば、崩れて粉々になったものもあるそうだけど、全てを回収して別の場所に保管してあるらしい。
「物質魔法の[リペア]を使ってるんよ?」
『それだと木材などは使い古された味もなくなってしまい、綺麗になりすぎて元に戻すとはならないですからね。どうしても[リペア]じゃないと都合が悪いものを除いては、私の魔力の操作によって修繕しています』
例えば布を修理する場合、エルさんがやっている魔力を操作して形状を整える方法を使うと、鉄のように硬い布ができてしまう。そういった場合は[リペア]を使うけど、壁や家具などは硬いほうが良いから魔力の操作で形状を整えているらしい。
エルさんが使ってる魔法を人が扱えるか聞いてみたら、引き上げる魔力を使用しているから人が使う魔力では扱いきれないんだって。
『魔力の固定化にも時間はかかりますし、人が覚えて使うよりは私に預けて300年後に取りに来る方がよほどいいんじゃないでしょうか? それよりも、あなたたちのお願いのために移動しましょう』
動かないレンガや家具は、ゲームによくある固定オブジェクトのようなものです。武器や宝石が街や洞窟の中にあっても、取れないようになっているアレです。




