12月10日 映画館
目の前に映るスクリーンは、今までで最も感動するものだった。映画『野良猫』の原作は知っていただけに、これまでは、、、。後半の方は、泣きそうにもなった。一緒に来ていた山川とアイツも同じ気持ちだろう。スクリーン越しに映るアイツなんかは、うっすら涙がこぼれているよう見えたくらいだ。そんな余韻に浸りながら、私たちは、映画館を出ていこうとしていた。壁には、至る所に次回作が貼られていた。
那奈「すごい、よかったね」
山川「うん、よかった。意外におもしろかった」
原作ファンの俺としては、山川の"意外に"という言葉にひっかかっていた。
那奈「意外って、なによ。もう」
たしかに那奈の言う通りだ。原作のファンとしては、もっと感動してほしかった。
山川「だって、こんなにおもしろいなんて思わなかったんだもん」
この時期の映画には、人気作が揃っているだけに、この映画の前評判はさほどだったのは確かだ。
那奈「今から、原作読んでよ。面白いから」
山川「えっ、見た後に?」
驚きを隠せなかった。読み終えた後に見ても感動しないだろう。それでも、もう一度見てほしいというアイツの気持ちはなんとなく理解できる。
那奈「そうよ。原作と映画も少し違うから」
山川「そうなの?」
那奈「そうだよ。優斗もゆってやってよ」
相変わらず、いつも急に話題をふってくる。呆れたもんだ。
俺 「あっ、、、うん」
那奈「もう、話聞いてた?」
俺 「聞いてたよ。聞いてても、うるさくて入ってくんだよ、バカ」
アイツの気持ちはわかるが、原作の話をしたいとは思わなかった。なぜだろう?もしかしたら、二人の空間でしか、本の話はできないのかもしれない。できないというより、したくないといった適切な表現か?
山川「バカだって、言われてるー」
那奈「もう、わかってないんだから」
俺とアイツの会話は、側から見たら面白いのだろうか?
山川「ハハハ。面白いね」
那奈「もう、うるさい。でも、久しぶりだったなぁ、映画館来たの」
山川「そんなに?」
那奈「うん、高校1年生以来かも」
思い返せば、あの頃からアイツの病気になっている節はあった。でも、あの頃は、そんなことすら考えなかった。正確に言えば、考えられないから。でも、そんなアイツと今、こうしてお話できるのはなんとも言えない気持ちだ。




