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異界の刀銃使い  作者: 太公望姜子牙
異世界刑事の章
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第127話 人間として絶対に許すことは出来ません!

長らくお待たせしました。m(__)m

「念の為にもう一度だけ聞くが、本当にお前は犯人ではないのだな?」

「違います」

「魔法銃を誰かに貸し与えたことも?」

「ありません」


 辛気臭い顔の男――領軍の審議官の質問に、慎也はきっぱりと答えた。

 

 憲兵の詰め所の一角にある審問室なる狭くてで居心地の悪い部屋。そのど真ん中に置かれた机を挟む形で慎也と審問官の男が対峙している。


 審議官は慎也が答えた後もしばらく無言で彼の顔を睨んでいたが、ややあって小さく息を付いて緊張を緩めた。


「どうやら本当に無関係のようだ。私の<虚偽看破>にも反応が無い。彼の言っていることは真実だ」


 審問官は慎也ではなく、彼の背後に立っていた男たちに告げる。


「そうか……」


 ほっ、と息を付いたのは、騎士団長のイアンだった。


「だから言ったでしょう? 彼は関係無い、と」


 肩を竦めてイアンにそう告げたのは龍平だ。


「それは私も判っていたさ。だが、それだけでは納得しない者もいるんだ。そう言う輩を納得させる為にも、形式的とはいえ、審問は必要だ」

「まあ、それは確かに」


 事の発端は昨日の朝早く、冒険者ギルドに駆け込んできた若い冒険者だった。

 慎也たちより年下の少女で、4級冒険者の率いるパーティの一員だったらしい。

 彼女は「魔法銃を持った何者かに襲撃を受け、自分以外のパーティメンバーが殺された」と半狂乱で職員に訴えたのだ。


 本来、冒険者が仕事中に死んでも自己責任とされ、憲兵や騎士団が調査を行うことは無い。

 だが、件のパーティは4級冒険者が2人も所属しており、それなりに信頼と実績のある者たちだった。

 さらに今朝になって、さらに2組のパーティが同様に襲撃されたことが明らかになった。

 後の襲撃された2人のパーティの内、片方は生き残ったパーティメンバーがいたが、もう一組はメンバー全員が殺されているのを別の冒険者パーティが発見したそうだ。


 僅か2日の間に10人以上の冒険者が殺害されたとあっては、騎士団や憲兵も黙っている訳には行かなかった。

 冒険者はスアード伯爵領の治安の維持と魔物の間引き、及び素材の収集の為に欠かせない存在であり、戦力的にも経済的にも欠かせない存在だ。このまま殺され続けては最悪、キアナの街はおろかスアード伯爵領に深刻な影響を与えかねない。しかも犯人が、4級冒険者を複数人殺害するほどの手練れとあらばなおさらだ。


 いずれの死体も魔法銃によるものと思われる銃創がいくつも穿たれていた。


 犯人は魔法銃の使い手とあれば、キアナの街で唯一の魔法銃使いの冒険者――慎也が疑われるのは自明の理だった。


 無論、当人にとっては完全に寝耳に水の話だったのだが、憲兵の出頭命令に逆らう訳にも行かず、渋々尋問に付き合わされる羽目になってしまったのだが……


(しかし、審問とか言うから取り調べみたいなイメージがあったけど、質問されて終わりとはな)


 実際、審問は呆気ないくらい簡単に終わった。刑事ドラマみたいに狭い部屋の中で延々何時間も質問攻めにされるのでは、と戦々恐々としていた慎也にしてみれば拍子抜けもいい所だった。


 この世界には地球とは違い、便利なスキルがある。嘘を見破る<虚偽看破>を習得していれば、大抵の嘘は見破れる。特に審問官の地位にある者のほとんどは高レベルの<虚偽看破>スキルを習得しているので、嘘など通じるはずもない。

 故に、誤認逮捕されるようなことはほとんど無い。


 ちなみに、今回の審判には騎士団長であるイアンと龍平が立ち会っていた。

 慎也の人となりを知るイアンは最初から疑ってはいなかったようだが、それを裏付ける意味で今回の審判を行った。


「しかし、こうなるとやはり犯人はドットス商会から魔法銃を盗んだ賊か……」

「他所からの流れ者でなければ、そう言うことになりますな」


 忌々し気に唸るイアンに、龍平も真剣な表情で頷いた。


「いったいなにが目的なんだ? どうして冒険者を襲う? 金を奪う訳でもなく、ただ殺すだけとは。冒険者になにか恨みでもあるのか? それとも、君の言っていたケイという者の差し金か?」


 領内の治安を預かる騎士団長であるイアンは、苛立ちを隠せないでいた。


「Kは諭した者に行動方針を示すことはまずありません。ただ単に、その者の心の闇を暴発させるきっかけを与えるだけ。故にこれはKの意志ではなく、諭された者が自身の欲望に従って行動した結果です」

「では聞くが、そいつはいったいなんの為に冒険者を襲っていると思う?」


 イアンに尋ねられると、龍平は思案顔で腕を組んだ。


「力試し、と考えます」

「……どういうことだ? 力試し?」

「ええ。奴は最初、魔物を殺していた。素材には手を付けずに。それだけなら単なるレベル上げ、と取ることも出来ますが、同時に自身の実力や武器の性能を試し、慣らす意味合いもあったのでしょう。そして、レベルが目標値に達し、武器の扱いにも慣れた所で、今度はより強い――魔物を狩る冒険者でそれを試してみたくなった……」

「……」

「あるいは、こいつは冒険者に対して、なにか思うところがあったのかもしれません。例えば、自分は冒険者になりたかったのになれなかったのに、他人が冒険者として活躍しているのが許せない、とか」

「そんな理由で!? 第一、自分が冒険者になれなかったことと、他の冒険者は関係無いだろう!」

「自身の境遇や力の無さ故の結果と事実を、素直に受け止めることが出来ず、それを他者に責任転嫁して理不尽に逆恨みする者は、残念ながら存在します。そういった者が最もKの走狗になりやすいのです」


 苦虫を噛み潰したような顔でイアンは低く呻いた。


「いずれにせよ、今回の件は正式に騎士団と憲兵が乗り出すことになった。まずはギルドを通して冒険者に報せ、注意を呼びかける」

「注意を呼びかけるだけですか? 冒険者活動の自粛を促したりはしないので?」

「出来ると思うか?」

「……まあ、無理でしょうな?」


 スアード伯爵領のような辺境地方に取って、冒険者の存在は要と言っても良い。


 魔物の間引き――

 魔晶核(コア)や素材の回収――

 盗賊退治による治安の維持――


 冒険者の担う役割は大きく、それ故に冒険者の不足や活動の自粛は領内の経済活動や治安に大きな影響を及ぼす。また冒険者側にとっても生活の為の資金が得られなくなり、困窮は避けられなくなる。


 活動の自粛はまず不可能。出来ることと言えば、個々に情報を流して注意を促すことが関の山だ。


「あのー」


 そんな話をしている2人に、慎也が遠慮がちに声を掛けた。


「オレの疑いは晴れたんですよね? だったら、もう帰っても良いですか?」

「ああ、そうだな……」


 元々慎也が今回のような事件を起こすような人間でないことは、イアンも重々承知している。なのにあえて審問を受けてもらったのは、彼の潔白を周囲に証明する意味が大きい。

 それが済んだいま、慎也をこれ以上ここに留めておく理由は無い。


「もう帰ってくれて結構だ。ただ、いま聞いた通り、例の賊は冒険者を狙い討ちにしている節がある。君らも充分気を付けろ」

「ええ。もちろんです、お気遣い、感謝します」


 イアンの気遣いに礼を述べて、慎也はようやく辛気臭い審問室を後に出来た。



 ◇◇◇



「あ、出て来たよ!」


 憲兵の詰め所から出てきた慎也――と、その後について来た龍平――を出迎えたのは、結衣、ユフィア、セリシエルの3人だった。


「慎也君、審問はどうだった――ってか、普通に出て来た時点で判り切ってるよね」


 などと言いつつも、心底ほっとした様子の結衣。


「なんだ? 『無罪』って書いた紙を掲げて出て来た方が良かったか?」

「そこはあえて『不当判決』にした方が良かったかも?」

「勘弁してくれ……」


 有らぬ罪を疑われた慎也としては、結衣の冗談を笑える気分にはなれなかった。


「シンヤさん、ちゃんと疑いは晴れたんですよね?」


 と、こちらはまだ心配そうなユフィアが尋ねてきた。


「もちろんだ」

「よかった……」

「心配したんだよ、シンヤ? ユフィアちゃんなんか心配し過ぎてホントに泣いてたんだよ?」

「わわっ! セ、セリスさん! 言わないって約束じゃないですか!」


 顔を真っ赤にして抗議するユフィアに、基本的に空気の読めないセリシエルは「ユフィアちゃんがどれだけ心配したか、ちゃんと言わないと、本人に気持ちが伝わらないと思うんだよ」などとほざいている。だがそんなセリシエル自身、慎也の疑いが晴れたことにほっとしている様子が見て取れる。


 いつもの様に冒険者ギルドに入ろうとしたところ、待ち構えていた憲兵に有無を言わさず慎也が連行された際は、3人とも酷く取り乱していた。


「しかし、スキルというのはなかなか便利だな」


 腕を組んで感慨深そうに龍平は呟いた。


「これが地球なら、証言の裏付けを取る為に何十人もの聞き込みや防犯カメラの映像のチェックなど、多大な労力と時間をかけなければならないところが、ただの質問だけで簡単に真偽が判るのだからな」


 元刑事としては、<虚偽看破>を初めとした嘘を見破ることの出来るスキルや魔導具の存在には色々思うところがあるのだろう。


「その代わり、DNA鑑定や指紋認証、画像解析なんかの科学技術は無いけどな」

「確かに」


 慎也のツッコミに、龍平は苦笑する。


「もしかして、異世界の技術の話ですか!?」


 聞いたことの無い単語に、異世界マニアのユフィアが早速喰い付いた。素の瞳には好奇心から成る光がキラキラと輝いている。


「ああ。これが終わったら、話してあげよう」

「ホントですか! 楽しみにしてます!」


 ここで説明しては長くなる、と直感で悟ったのだろう。龍平は冷静な大人の対応でユフィアの好奇心を後回しにした。


「それで話を戻すんだけど、やっぱり今回の襲撃事件って、龍平さんが追いかけてた人の仕業なの?」

「ああ。まず間違いない」


 結衣の問いかけに、確信に満ちた表情で龍平は頷いた。


「でも、魔物を狩るなら判りますけど、どうして冒険者の人たちまで……」


 困惑顔のユフィアに、龍平は先程イアンに語った自身の推測を改めて説明する。


「……それが事実なら、私、賊を許せません」


 普段は優しく温和なユフィアが珍しく怒りを滲ませた声で言った。


「なにもしていない冒険者の方たちを、力試しの為だけにそんな理由で殺めるなんて、そんなの盗賊以下です! 同じ冒険者として――いいえ、人間として絶対に許すことは出来ません!」

「君の言う通りだ。さらなる犠牲者を出さない為にも、なんとしてもここで喰い止めなければならない」


 元刑事であり、長年Kを追ってきた龍平もユフィアに同意する。


「オレも不愉快な目に遭わされたしな。犯人も、黒幕のKって奴も、絶対見つけ出してぶん殴ってやる」


 無実の罪で審問を受けさせられた慎也も、両手の指の関節をパキパキ鳴らしながら言った。


「でも、どうやって見つけるの? なんの手掛かりも無いのに」


 結衣の言う通り、慎也たちは龍平に協力して犯人捜しを手伝っているものの、いまだに手掛かりは掴めていないのが実情だ。


「手掛かりならある」


 龍平が答える。


「今回襲撃を受けたのは3つの冒険者パーティの17名。そのうちの殺害されたのは14名で、3人だけ生存者がいたらしい。そのうちの1人が犯人の姿を目撃していたそうだ」

「目撃者がいたのか? それで、どんな奴だったんだ?」

「なんでも、黒い鎧を着こんだ大男で、機械(マシン)族かもしれない、と」

「「「「機械(マシン)族?」」」」


 慎也たちの声がハモった。


 機械(マシン)族とは、ドワーフや獣人と同じくこの世界に住む亜人族の一種だ。非常に卓越した魔導技術を持つ種族として知られている彼らは、彼らは他の種族と違い、全身を金属で構成された、ロボットのような外見をしているらしい。


機械(マシン)族なんて、この街では見たことありません」


 困惑顔でユフィアが言った。

 機械(マシン)族は天使族と同じくらい閉鎖的で、滅多に人前に現れることのない種族なのだ。


「ああ。そもそも襲われたのは夜間だったそうだから、見間違い、という可能性も低くない。そもそも機械(マシン)族がこんな場所で魔物や冒険者を殺す理由も不明だしな。とは言え、貴重な生存者の目撃情報である以上、無視する訳にもいかん」

「無視する訳にもいかん、って、どうするつもりだよ? 機械(マシン)を探すのか?」

「いいや」


 慎也の問いに、龍平は首を横に振り、一拍おいて答えた。


「もう一度、ドットス商会に行ってみようと思う」

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