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異界の刀銃使い  作者: 太公望姜子牙
異世界刑事の章
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第128話 タヌキ親父同士の腹の探り合いだな

「お? 開店したんだな」


 慎也パーティと龍平がドットス商会の店舗を訪れると、先日来た時とは違って営業を始めていた。

 ドットス商会自体が大店である為か、店舗の規模もエリーム魔法店に比べてかなり大きい。エリーム魔法店がコンビニのやや大きい程度の規模なのに対し、こちらはスーパーマーケットくらいはある。扱っている商品が魔法関連だけでなく武器や防具類にも及ぶことを考えれば当然かもしれないが。

 そして品ぞろえが豊富故に、それなりに大勢の客が店内には詰めかけていた。


「いらっしゃいま――あ、あなたはこの前の」


 店内に入った慎也たち――厳密には一緒にいた龍平を見て、荷物を運んでいた少年が反応した。


(奴隷?)


 少年の首に付けられた金属製の首輪を見て、慎也は一瞬顔を顰めた。

 隷属の首輪。それはこの少年が奴隷の身分であることを物語っている。この世界に来て随分と経つが、いまだに奴隷と言うものを慎也は好きにはなれなかった。


「やあ、アレックス君。頑張っているね」


 少年の名はアレックス。慎也たちは初対面だったが、龍平とは以前、この店を訪れた時に会っている。


「えっと……リョウヘイ様、でしたね。今日は――」


 アレックスがなにか言いかけたその時――


「ようこそ、リョウヘイ殿」


 不意に彼に声を掛ける者がいた。


「そろそろいらっしゃる頃だと思っていましたよ」

「どうも、ゲルグ殿」


 そこにいたのはこの店の副店長であり、先日、龍平がこの店を訪れた際に対応したゲルグだった。


「私が来るのを予想しておられたのですか?」

「ええ。魔法銃を持った賊が冒険者を襲撃した、という話を小耳に挟みまして、恐らくこちらにお見えになるだろうと察し、お待ち申し上げておりました」

「さすが、耳が早いですな。賊が魔法銃を所持しているという情報はまだ伏せられているはずですが?」

「この手の商売は情報が命ですから。冒険者向けの商品を取り扱っている以上、冒険者に関する情報をどこよりも早く仕入れることこそ、商売繁盛の秘訣です」

「なるほど。さすがは音に聞こえたドットス商会。随分と商売上手だ」

「お褒めいただき、光栄です。それに、我々にとっても他人事ではありません。なにしろ賊が使っているの魔法銃はこの店から奪われたもの。我々としても、出来れば賊を捕らえ、奪われた商品を取り戻したい、と考えています。なので、こちらでも色々と情報収集を行っているのですよ」

「それはそれは、ご苦労としか申し上げようがありませんな」

「いやいや、我々は手足となってくれる部下が大勢いますが、リョウヘイ殿は自らの足で調べておられるご様子。そのお言葉はむしろリョウヘイ殿にこそ相応しいと、老婆心ながら愚考いたします」

「それはどうも、ご丁寧に」


 などと言う会話をにこやかな笑顔で交わす龍平とゲルグ。

 言葉遣いこそ丁寧だが、言葉の端から滲み出る異様な猜疑心に、傍で聞いていた慎也たちはドン引きしている。


「な、なんかあの2人の話を聞いてると、震えが止まらないんだよ!」


 セリシエルは慎也の背に隠れて震えている。


「言葉遣いは丁寧だししゃべり方も穏やかなのに、凄くどす黒いものを感じるね」

「聞いてるだけで鳥肌が立ってきました」


 結衣とユフィアも2人が発する異様な雰囲気に顔を青くしている。


「タヌキ親父同士の腹の探り合いだな」


 一番、横やりを入れてはいけないタイプの話し合いだな、と慎也も素直に静観を決め込むことにした。


「それで、具体的にはどういったご用でいらしたのか、お伺いしてもよろしいですかな?」


 まずは最初にゲルグが尋ねた。


「実は、ゲルグ殿にお尋ねしたいことがありまして」

「なんでしょうか?」

「貴殿は、機械(マシン)族についてご存じでしょうか?」

 

 龍平の問いに、ゲルグは若干眉を顰めた。


機械(マシン)族。鋼の身体に知性と生命を有すると言われる、かの種族のことでしょうか?」

「その通りです」


 龍平が頷くと、ゲルグは「ふむ」と思案顔になって顎に手を当てた。


「私も彼らに関しては詳しくは存じ上げません。以前、王都に滞在した際、一度だけ見かけたことがあるのみです。元々彼らは、滅多に人前に姿を現すことはありませんから」

「ええ。彼らが人前に姿を現さないのは、大昔、人間に虐殺された歴史があるからだ、と聞き及びました」


 人間に虐殺された、と聞いて、慎也たちは思わす色めき立って顔を見合わせた。そこまでの事情は慎也たちも知らなかった。


「その通りですな」


 ゲルグはにべもなく頷いた。


「ベルカ帝国の全盛期の頃、多くの亜人種が不当な弾圧を受け、奴隷や労働力目的の為に狩られたことはご承知でしょうが、機械(マシン)族も例外ではありませんでした。しかし、彼らと他の種族が狩られた理由は決定的に違っていました」

「ええ。私の記憶が確かなら、機械(マシン)族が狩られた理由は労働力や奴隷とする為ではなく、武器屋や魔導具の材料にする為だった、と」

「!」


 その言葉に目を向いて驚いたのは傍で聞いていた慎也たちだった。


「その通りです。彼らの身体は我々や他の種族と違い、その全てが金属で構成されています。にも拘らず、我々と同じ魔力を宿している。いわば、彼らは魔力と生命を宿した金属生命体。それ故に彼らの肉体を構成する金属は他の金属とは比較にならないほど魔力伝導率が高い。『セフィラニウム』と呼ばれるようになった彼らの身体は、オリハルコンに匹敵する希少金属として扱われ、大変高値で取引されていたと聞いています。故に欲に目の眩んだ武器商人や錬金術師たちによって、多くの機械(マシン)族が虐殺されたのです」

「マジか……」


 初めて聞く衝撃の歴史話に、慎也は我知らず呟いていた。

 慎也自身、機械(マシン)族という種族に関しては大した知識は無く、そもそもが見たことも無かったのでそれほど関心は抱いていなかった。

 金属生命体というからにはロボットのような外見をしているのだろう、という漠然としたイメージを抱いていたのだが、それにしたって命を宿し、言語を解することが出来るのなら立派な亜人種族――人だ。


 人を害する魔物ならともかく、同じ「人」を魔導具の原料にする為に虐殺するなど、慎也の理解の範疇を優に超えていた。

 絶対に許される所業ではない。


「なるほど。やはり本当でしたか……」


 一方の龍平は、既に知っていたらしく、軽く頷いただけで驚く様子は無かった。


「ですが、私の聞いた話では、彼らが狩られた理由は、魔導具の原材料にすることの他に、もう1つあったそうですが……」

「ええ。機械(マシン)族の()()()()()()()()()()()()()為です」


 龍平の言葉をゲルグは即座に肯定した。


「亡骸を魔導具にする、って、どういうことですか?」


 慎也の傍らで話を聞いていたユフィアが声を上げた。


「リビング・アーマーをご存じですかな?」


 ゲルグは自分の子供よりもずっと年下であろうユフィアにも、丁寧な態度を崩さず敬語で答えた。


「もちろん知ってます」


 ユフィアは即座に頷いた。

 というより、少し前に戦ったばかりだ。


「でしたら話は早い。いまでこそ魔術処理を施された動く鎧――いわばゴーレムの一種として扱われていますが、あれらはそもそも、機械(マシン)族の亡骸を持ちいて造られたのが始まりだった、と言われているのです」

機械(マシン)族の、亡骸を……?」


 目を見開いたユフィアが聞き返した。声が少し震えている。


「セフィラニウムで構成された機械(マシン)族の身体は、他の種族と違って朽ちるのに時間が掛かります。いや、朽ちる、と言うよりは錆びる、と言った方が正しいかもしれませんな。いずれにせよ、その性質を利用し、失われた生命の代わりに小型の魔力炉を埋め込み、魔術処置を施して意のままに操れるようにした機械(マシン)族の亡骸……いわば機械(マシン)族のゾンビといえる物が、リビング・アーマーの始まりだった、と言われています」

「確か、マシンナリー・ドール……でしたか?」


 今度は龍平が尋ねた。


「そうです。兵器化された機械(マシン)族の亡骸は通称『マシンナリー・ドール』と呼ばれ、ベルカ帝国における重要な兵器として重宝されていました。これ故に、ベルカ帝国の最盛期では夥しい数の機械(マシン)族が狩られた、と言われています」

(なんだよ、それ……)


 吐き気を催すような歴史的事実に、慎也は絶句するしかなかった。見れば、先程質問していたユフィアを初め、結衣やセリシエルも同じ様に顔を青くして黙り込んでいる。


「しかし、態々そのようなことを尋ねる為に来られた訳ではありませんよね?」

「無論です」


 だが、龍平は相変わらず平気な顔をしてゲルグとの会話を続けた。


「ベルカ帝国が衰退した後、亜人友愛主義を掲げるヤマト王権下において、機械(マシン)族もまた、他の種族と同様に身分や権利を保障された。そしてマシンナリー・ドールは全面的に開発、使用が禁止され、回収された物はことごとく破壊されました……にも拘らず、いまも尚、一部の破壊主義者や反政府勢力の間で少数ながら使用されている、と聞きました」


 固い声で龍平は続ける。


「そして今回の冒険者襲撃事件。生存者の証言からして、犯人は機械(マシン)族か、マシンナリー・ドールを持ちいた者である可能性が極めて高い」


 なるほど、と慎也は内心で頷いた。


 犯人が機械(マシン)族のような外見をしていたからと言って、彼らの身体をそのままリビング・アーマー化してしまうマシンナリー・ドールという物が存在する以上、安易に犯人が機械(マシン)族だと決めつけることは出来ない。


 マシンナリー・ドールを持ちいた別種族である可能性も捨てきれない。


「ゲルグ殿。ドットス商会は多数の魔導具も扱っておられるそうですが、よもやマシンナリー・ドールを扱っている、などと言うことはありませんよね?」

「まさかまさか! そのような呪われた邪道の遺物など、我が栄えあるドットス商会が扱うなどと言うことはあり得ません!」


 龍平の尋問じみた問いかけに、ゲルグは両手を振りながら間髪入れず答えた。


(嘘は言っていない、な)


 そして龍平の<虚偽看破>スキルもまた、ゲルグの言葉が真実であることを彼に告げていた。


「それは失礼しました。もしよろしければ、ゲルグ殿の心当たりの範囲で教えていただきたい。マシンナリー・ドールを未だ使用している者、あるいは組織について、なにかご存じありませんか?」


 龍平の問いかけに、ゲルグは「ふむ」と呟くように言って、思案顔になった。


「……マシンナリー・ドールを未だに使用している者がいるとすれば――」


 ややあって、ゲルグは言った。


「ベルカ復権派――《ミズガルズ》以外は思い付きませんな」


 その言葉に、背後で聞いていた慎也たちは一様に身を震わせた。ゲルグたちは知る由も無いが、ほんの半月前に連中が引き起こした事件に巻き込まれたばかりだった。


「元々、マシンナリー・ドール自体がベルカが生み出した物です。連中はただでさえ人族以外の種族を劣等種と見なし、過度に迫害してきましたが、中でも機械(マシン)族に関しては、そもそも生物とさえ見ななしていなかった。そして《ミズガルズ》という組織自体、永遠に考えを改めない愚か者の集まりですからな」


 嘆息して肩を竦めるゲルグ。その様子から、彼も《ミズガルズ》という組織に良い印象は抱いてい無いようだ。


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