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異界の刀銃使い  作者: 太公望姜子牙
異世界刑事の章
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第125話 魔物殺しの仕業でしょうか?

ヤバい。忙しすぎて執筆する暇が無い(;_;)

「なんだこれは?」


 火事だと大騒ぎするセリシエルに促されてやって来たのは、森の中を流れる川の畔。そこに広がっていた光景に慎也は思わず絶句した。


 最初に目に飛び込んできたのは、開けた河原の砂利の上、あるいは川の中に散らばるようにして死んでいる多数のゴブリンたちの屍だ。全部で20匹を超える。ほとんどがただのゴブリンだが、ホブ・ゴブリンも数匹混ざっている。


 ゴブリンでないものの死骸もあった。どうやら大型の鹿のようだ。ようだ、というのは、その死骸が原型を留めないほどにズタズタに引き裂かれ、食い千切られて肉塊のような有様になり果てていたからだ。


 そして、地面に穿たれたいくつかのクレーター。深さはそれほどでもなく大きさも精々直径2メートルほどだが、広範囲に延焼した痕跡があり、いくつかは河原を逸れて林の中に穿たれいる。

 どうやら火系の魔法によるものらしく、周囲の木々がいくつも破砕されている上に黒く焼け焦げ、煙を燻らせている。


「森の中で<火魔法>を使った上、消火せずに立ち去ったのか? なに考えてやがる!?」


 冒険者が森の中で<火魔法>を使うことはままあるが、その跡を放置して立ち去る、というのは常軌を逸する蛮行だ。


 そのまま放置すれば当然、森林火災に繋がる。それだけでも重大事だが、魔物の領域で森林火災など起こせば、下手をしたら連鎖暴走(スタンピード)を引き起こしてしまう。


 連鎖暴走(スタンピード)とは、その名の通りある領域に生息している魔物たちが一斉に暴走状態に陥いる現象のことだ。


 原因はいくつかあるが、大抵の場合は自分たちではどうにもならない脅威から逃れようとして恐慌状態で逃走しようとする、というものだ。


 それは他種の魔物だったり、自然災害だったり、異常気象によるものだったりと多岐に渡る。無論その中には火災も含まれる。


 魔物の領域で大規模な森林火災が発生した場合、そこに生息する魔物たちは火災から逃れようと安全な場所へ――多くの場合、集団で森の外、つまり人間の領域へと溢れ出して来るのだ。

 もちろん、その数や規模は様々だが、数百匹、酷い時には数千匹の魔物たちが人間の領域に押し寄せてくることある。小さな村落が連鎖暴走(スタンピード)に巻き込まれれば一溜りも無く、大きな街でも甚大な被害、場合によっては壊滅させられることもある、非常に恐ろしい現象なのだ。


 そのことは当然、セリシエルも教えられている。もしもマナクレイの森で火災が起きれば、最悪、周囲の村々だけでなくキアナの街も滅びてしまうかもしれない、と――


 故に彼女は、ゴブリンを探しに森の上空を偵察している際、森の中から立ち上る黒煙を見つけてパニックになってしまい、大急ぎで慎也たちの元へ引き返した――ということらしい。


 幸い火事と言うほどの規模ではなく、焼け焦げた木々には結衣がすぐに氷魔法を浴びせて完全に鎮火させ、大事には至らなかったが、もし風が強かったり、場所が悪かったりしたら本当に森林火災になっていた可能性もある。そうなればまず間違いなく連鎖暴走(スタンピード)が起こっていただろう。


 ひとまず手分けして周囲の状況を確認したが、幸いにも他に延焼した痕跡は無かった。


「魔物殺しの仕業でしょうか?」

「たぶんそうだと思うよ」


 ゴブリンの死体を青い顔で見ながら呟いたユフィアに、結衣も真剣な表情で答えた。その視線が大鹿の死骸に向けられる。


「たぶん、あの鹿を喰っている最中に襲われたんだろうな」


 ゴブリンは人間と同じで雑食だが、動物の肉を好んで食べる。恐らく森であの大鹿を狩って食べていたのだろう。実際、河原の中央に


「問題はこの傷口だ……」


 すぐ足元にで死んでいるゴブリンの死体を見た慎也が呻く。


「穴だらけなんだよ」


 セリシエルの言う通り、いずれのゴブリンの死体にもビー玉ほどの穴がいくつも穿たれていた。

 仰向けに倒れていたゴブリンの死体を足先でひっくり返してみると、いずれの穴もゴブリンの身体を貫通しているのが判った。


 恐ろしく見覚えのある傷口だ。

 そう、それはまさしく慎也の魔法銃による銃痕と酷似していた。

 もちろん、普通の魔法でも同じような傷口を付けること自体は可能だ。例えばセリシエルの使う光系魔法の《光閃レイ》を持ちいればこれとほぼ同じ傷口を穿つことは出来る。ただし、《光閃レイ》は光熱を一点照射して対象を貫くと同時に焼く、という魔法だ。当然、傷口は光熱によって焼かれてしまう。なので多くの場合、血が流れることは無い。

 対して慎也が使用する魔弾は熱を有さない、単純な魔力の塊であるが故に傷口は焼かれることはない。


 そして、ゴブリンたちの身体に開いている貫通孔は焼かれた形跡はなく、普通に血が流れている。


「少なくとも、私の使える魔法じゃこんな傷跡は付かないよ? まあ、私だって全ての魔法が使える訳じゃないから、確実とは言えないけど――」

「いや、こいつは銃によるものだろう」


 結衣の言葉を深刻な表情の龍平が遮った。さっきまで林の向こうを調べに言っていたのだが、いつの間にか戻って来たらしい。


「……そう言える根拠は?」


 気になった慎也が尋ねてみる。


「以前見た、銃乱射事件の現場にそっくりだ」


 嫌な記憶だったらしく、苦々しく顔を歪めながら龍平は言った。


 なんでも、刑事時代に海外に行った際、薬物中毒の若者が街中でライフルを乱射して住民を無差別に殺傷した現場を見たことがあったらしい。犯人は生きて逮捕されたが、後の調べで「K」が関わっていたことが判ったんだとか。


(それならオレもあるな……)


 同じような経験なら慎也にもあった。

 子供の頃、生まれて初めて人が殺される瞬間を見た時の記憶が脳裏を過り、慎也も思わず押し黙った。

 奇声を発しながらライフルを乱射する男の狂気と、人形のように次々と倒れていく人々。


 悪夢としか言えない凄惨な記憶は、いまだに慎也の頭の中にこびり付いたままだ。


「オレ以外に銃を使う冒険者はキアナの街にはいないはずだ」

「それに、冒険者なら魔物の死体を放置するはずないですしね」


 嫌な記憶を振り払い、気を取り直して口を開いた慎也にユフィアが頷いた。


「それに、慎也に比べて随分とへたくそだ」


 周囲の魔物の死体を見回しながら龍平が言う。

 先程の戦闘で龍平は慎也がゴブリンを魔法銃で射殺するところを直に見ていた。無駄撃ちを一切せず、一撃でゴブリンの急所を貫く慎也の射撃に対し、こちらは正反対だ。倒れているゴブリンの死体には多くの銃痕が残されており、中には10カ所――蜂の巣のような有様になっているものもある。しかもよく見れば、周囲の地面や岩などにもいくつか弾痕があった。

 そう、まるでマシンガンを乱射したかのように。

 明らかに銃の扱いに慣れていない者の手法。下手な鉄砲、数撃ちゃ当たる、という言葉をそのまま再現したようだ。


「やっぱり、ドットス商会から銃を盗んだ犯人が例の魔物殺しだった、っていうオチかな?」


 結衣が首を傾げながら言った。


「銃を盗んだ犯人が誰かに売った可能性もあるな」

「なる~」


 慎也の指摘に結衣が頷く。


「ねぇねぇ」


 その時、黙って話を聞いていたセリシエルが言った。


「魔物殺しって1人なのかな? 仲間とかいたりしない?」

「……どうだろうな?」


 セリシエルの質問に慎也は答えられず、自身も考え込んだ。

 少なくとも魔物が殺されている現場を直接見たのはこれが初めてで、後は話に聞いていただけなので、確かなことはなにも判らないのが現状だ。


「でも、それがどうかしたの?」


 何故そんなことを気にしだしたのか、気になった結衣がセリシエルに尋ねた。


「魔物の殺す方法が随分違うのが気になったんだよ。ウィニアさんは、殺された魔物はほとんどが斬られたり、殴られたりして殺されてる、って言ってたのに、今回は銃に<火魔法>まで使ってるのはなんでかなー? って」

「!」


 セリシエルの言葉に慎也たちは思わず顔を見合わせた。


 ウィニアの話では、殺された魔物のほとんどが斬殺。少数は撲殺されている、ということだった。

 それが今回は違う。高威力の<火魔法>に銃撃と、これまでとは明らかに手口が違うのだ。

 そう、まるでそれまでとは別人のように。


 もちろん、複数の武器や戦闘法を扱える者は珍しくない。

 実際、慎也がまさにそれだ。刀、銃、魔法、格闘術も使える。そして最近では変幻自在の悪魔(バルトアンデルス)も使い始めた。武器や手法を変えれば、斃した魔物にまったく異なる傷跡を刻むのはさほど難しくない。


 だが、火の上級魔法を使うのは無理だ。

 いま眼前にあるような、地面が抉られるほどの威力を有した<火魔法>はどうやったって使えない。慎也の使う魔法はあくまで戦闘補助程度の威力しかない。少なくとも結衣レベルの魔法の腕が無ければ無理だ。


「つまり、魔物狩りを行っている者は複数人いる、と?」


 やや戦いた表情でユフィアが行った。


 慎也たちのように、前衛と後衛の最低2人以上のパーティを組んでいるのだとしたら、この状況は確かに納得がいく。


「あるいは――」


 だがそこで龍平が口を挟んできた。


「――ライフル以外の武器を手に入れたか、だ」

「……どういう意味です?」


 慎也が尋ねた。


「魔物殺しは単独犯である可能性は否定できない、ということさ」


 肩を竦めて龍平は言った。


「そもそも複数人でパーティを組んでいたのなら、どうしてこれまでの現場には魔法を使った痕跡が無かったのか」

「ッ! 確かに」


 龍平の言う通り、これまで殺された魔物はすべてが斬殺か撲殺だった。魔法を使った痕跡は無かった、という話だ。実際に魔物殺しに魔法使いの仲間がいるのなら、何故今日まで魔法を使わなかったのか?


「でもでも、後から魔法使いを仲間に加えた、って可能性はあると思うんだよ!」


 そんな龍平にセリシエルが食い下がった。今日の彼女は妙に考えが冴えている。実際にセリシエルの言っていることにも一理ある。最初は単独(ソロ)だったが後で魔法使いの仲間が加わった、という可能性は充分考えられた。


「あるいは――」


 龍平の彼女の言い分を認めるように頷いてから口を開く。


「中級の<火魔法>並の破壊力を持った別の武器を手に入れたか、だ」

「別の武器? 盗まれたライフル以外にもなにか魔導具を手に入れた、と?」


 慎也の言葉に龍平は再度頷いた。


「新しい武器が手に入れば、それを使ってみたくなるのは戦う者の性という奴だ」

「……」


 それに関しては慎也も理解は出来る。

 実際、慎也はつい先日、変幻自在の悪魔(バルトアンデルス)という新たな武器を入手したばかりだ。ウィルや仲間たちとの訓練を通して操るコツを掴み、すでに何度か実際の魔物戦でも使っている。


「弾痕の位置からして、射撃位置はあの崖の上だろう」


 龍平が指さしたのは少し離れた林の向こう側にある、切り立った小高い崖だ。


「確かに、ここを銃で狙うならあそこがベストだな」


 銃使いである慎也も同意した。あの崖の上ならゴブリンたちの死んでいる河原が一望できる。距離はおおよそ100メートルほど。銃――ライフルや魔法で狙うなら大した距離ではないが、弓では遠すぎる。例え射撃地点が判っても、ゴブリン・アーチャーの弓では届かない。


 つまり、ゴブリンたちを一方的に殺戮できる、というわけだ。


「食事中に突如として魔法を撃ち込まれ、パニックに陥って逃げ惑うゴブリンたちを銃撃と<火魔法>で狙い撃ちにした、と言ったところだろう。だが、群れの大部分を何匹かは取り逃がしたようだ。森の中に足跡が続いていた」


 龍平の推測を聞いていた慎也は、その言葉の中に含まれた意味に気付いてわずかに目を見開いた。


「……だとすれば、やっぱり魔物殺しは単独か、せいぜい2人、ってことだな。というか、十中八九、単独犯だ」


 慎也の言葉に、龍平は「正解だ」と言わんばかりに笑って頷いた。


「どうして判るの?」


 一方で、女性陣は理解出来なかったらしい。3人揃って頭上に疑問符を浮かべている。結衣が不思議そうに訪ねた。


「もしオレが同じ状況でゴブリンたちを狩るとしたら、4人で手分けして当たる。まず結衣とユフィアはあの崖の上に待機し、オレとセリシエルは林の中に潜む。で、合図で結衣とユフィアがゴブリンの群れに攻撃魔法を撃ちこんで群れの大半を初撃で殲滅し、生き残りをオレとセリシエルで殲滅する――という作戦で当たる」


 魔物狩りを生業とする冒険者は、自分たちよりも強い、あるいは数の多い魔物や盗賊と戦わなければならないことも多い。その場合、よほど腕に自信がある者であっても、大抵は奇襲か、あるいは罠を用いて当たる。 相手の数が多いと逃げられてしまうことがあるからだ。

 なのでそういう場合、奇襲で一気呵成に殲滅し、万が一に備えて逃走経路に伏兵を置くのがセオリーだ。


 しかもこの場所は、森の向こう側に開けた河原があり、その向こうを川が流れていて、川向こうは崖になっている。


 つまり、崖の上から銃撃されたら川の向こう側には逃げることが出来ず、林の中――つまり狙撃者の方へ向かって逃げるしかない。森の中に入れば生い茂った木々や葉っぱが邪魔で崖の上から狙うことは出来ない。厳にゴブリンの何匹かはそうやって逃げのびている。

 もし慎也の言った通り森の中に伏兵が待ち伏せていたら、逃げることは出来なかったはずだ。


「けどこれをやった奴は、銃撃と魔法で遠距離から攻撃しているが、待ち伏せをした形跡が無い。つまり、人数がいなかった。ってことは、これをやったのは狙撃手と魔法使いの2人で崖の上から攻撃したか、もしくは1人でライフルと<火魔法>を使い分けていたか、のどちらかだ」

「なるほど!」


 慎也に説明され、結衣たちも納得した顔になった。


「恐らく後者だろうな。1人と2人ではまったく違う。ライフルを持った狙撃手と中級の<火魔法>が使える魔法使いがいたのなら、揃って崖の上から攻撃する意味は無い。魔法使いは崖の上から<火魔法>を浴びせ、狙撃手は林の中からゴブリンを狙い撃ちにすれば、取り逃がすことは無かったはずだ」


 龍平がそう付け加えた。


「ということは、魔物殺しは単独で、銃と<火魔法>を使い分けていた、ということですね」

「そう言うことだな」


 緊張した面持ちのユフィアに、龍平は頷いた。


「もしこれをやった奴がこれまでの魔物殺しと同一人物だとすれば、武器、体術、銃撃、攻撃魔法を1人で使いこなしてることになるな」


 空を見上げながら慎也は腕を組んで唸る。

 具体的にどの程度のレベルなのかは判らない。だが、マクレーンたちの話と合わせると、レベル20代前半から30前後のラージ・モアの番を単独で仕留めていることになる。

 だとすれば、慎也よりも弱い、ということはないだろう。


 そんな人物が、盗んだライフルを持ってこの辺りを徘徊し、意味不明な魔物狩りを続けている、という事実は、否応なく慎也たちの不安を掻き立てた。


「もしこいつが、Kに洗脳されてこれをやっているのだとしたら……」


 深い憂慮を滲ませた声で龍平が言った。


「かなりまずい事態だ」 

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