第123話 そもそも死体を放置する理由が無いです
情報収集中(´-ω-`)
「あ、戻って来たよー」
ドットス商会の店近くの食堂で、大テーブルを囲って軽く食事をしながら待っていた慎也たちの元に、龍平が戻って来た。
龍平に気付いたシアーシャが手を振って彼に知らせる。
「首尾はどうだった?」
「ボチボチ、といったところだな」
ドットス商会に乗り込んだ成果を尋ねる慎也に、龍平は良いのか悪いのか判らない曖昧な答えを返した。
そのまま、慎也の隣の席に腰を下ろす。
「いくつか気になることはあったが、いまの所、決め手に欠けるな」
「頼りないなー」
腕を組んで眉を顰める慎也に、龍平は苦笑を返した。
「まあ、捜査と言うものはそんな簡単に進むものじゃないからな。切っ掛けがあれば大きく前進することはあるが……ただ、エリーム魔法店に対する嫌がらせに対しては釘を刺しておいた。下手をしたらクローディン公爵家を敵に回すことになる、とな」
「公爵家と敵対するとか、冗談にもならないからねー」
ドットス商会に対して一番腹を立てていたシアーシャが、成果を聞いて笑みを讃えた。
「でも、肝心のKについては判らなかったんでしょ?」
今度は結衣が尋ねた。
「そうだな。ドットス商会に入った盗賊との関連性は不明だ。一応、入られた倉庫を見せてもらったが、単なる盗賊でないことは確かだな。盗まれた物も妙だったし……」
「そういや、なにが盗まれたんだ?」
ドットス商会が盗賊に盗まれた物がなんなのかを知らされていなかった慎也が、興味本位で尋ねた。
「武器だ。剣、槍、斧といった刃物系の、それも異なる種類の武器を1本ずつ、合計18本と、黒魔鋼と呼ばれる鉱石のインゴット。そして魔法銃だ」
「魔法銃?」
思わぬ単語を聞いて一同がぎょっとした表情を浮かべた。
「ああ。ライフルタイプのな。で、この街の冒険者である君らに尋ねたいんだが、君らの同業者の中で、魔法銃を使っている冒険者はいるか?」
尋ねられて、女性陣が一斉に慎也に目を向けた。
「……」
視線に促されるように、慎也は<共有無限収納>から2丁の魔法銃を出して龍平に示して見せた。
「こりゃ驚いた」
龍平も目をパチクリさせて驚いている。そう言えば、魔法銃を武器にしていることを龍平には話していなかったことを、慎也はいまさながら思い出した。
「盗まれたのは魔法銃……ということは!」
「シンヤさん……」
「犯人はシンヤなんだよ!」
「シンヤさん、盗みはダメですよ?」
「お姉さんが付き添ってあげるから、自首しましょう?」
「盗んでない! 盗んでないっ!!」
女性陣の言葉に必死に首を振る慎也。もちろん、慎也の魔法銃のことは全員が知っているので冗談なのだが。
「ふむ……慎也、君が持っている魔法銃はその二つだけか?」
「ああ」
「君以外に魔法銃を使っている者は?」
「少なくともオレは知らない。皆はどうだ?」
仲間たちにも尋ねるが、当然全員が首を横に振る。
「つまり、キアナの街には慎也以外に魔法銃を使う冒険者はいない、ということだな」
「私たちが知る限りでは、そうなりますね」
フェルナが頷いた。
実は慎也の存在は、希少な魔法銃の使い手で、元1級冒険者であるウィルの弟子ということもあり、キアナの街の冒険者の間ではそれなりに知れ渡っていた。
もしも慎也以外に魔法銃を使う冒険者が現れたなら、すぐに話が広まるはずだ。
「よし、じゃあ次に行ってみよう」
唐突にそう言って龍平は椅子から立ち上がった。
「行くって、どこに?」
結衣が首を傾げながら尋ねると――
「冒険者ギルドだ」
◇◇◇
慎也たちが冒険者ギルドを訪れた時には既に陽が落ち始めていた。この時間帯は日帰りの依頼を熟した冒険者たちが報告の為に戻って来る、いわゆる帰宅ラッシュの時刻で、朝に次いで冒険者ギルドが混み合う時間帯だったのだが、幸いにも慎也たちが訪れた時にはまだそれほど混んでいなかった。
「あ、皆さん。ゴブリン退治の依頼報告ですか?」
馴染みの受付嬢であるウィニアが慎也たちを見つけ、気さくに声を掛けて来た。
(そういえば、ゴブリン退治の依頼を受けてたんだった)
すっかり忘れていたが、今日は朝にゴブリン退治の依頼を受注していたのだった。
見れば、女性陣も同じだったらしく、揃って「忘れてた」といった顔になっている。
「いえそれが、ちょっとトラブルに見舞われまして……」
「トラブル?」
首を傾げるウィニアの視線が、慎也の隣にいる見慣れぬ男――龍平に注がれる。
慎也の言うトラブルがこの男である、ということを既に察しているらしい。
「失礼。私はクローディン公爵家の契約冒険者をしております、龍平と申します」
「クローディン公爵家!?」
領主であるスアード伯爵家とは縁も所縁もない大貴族の名前を聞いて、珍しくウィニアが驚きの声を上げた。それに釣られてフロアにいた他の冒険者やギルド職員の視線が彼女に集まり、気付いたウィニアは慌てて自分の口を塞いだ。
「し、失礼ですが、証しをお見せいただけますか?」
「勿論だとも。ついでにライセンス・カードも」
龍平は懐から取り出した短剣と自分のライセンス・カードをウィニアに示した。
「……確かにクローディン公爵家の紋章であることを確認しました。2級冒険者のリョウヘイさん。それで、どういったご用件でしょう?」
確認した短剣とカードを返却した後、ウィニアがいつもの営業スマイルとは違う真剣な表情で龍平に尋ねた。そんな彼女に、龍平は自身の目的を掻い摘んで説明する。
とある犯罪者を追ってこの街に来たこと――
慎也たちには行き倒れているところを救われ、その流れで案内を頼んでいること――
最近、この付近で魔物が何者かに殺され、死体が放置される、という出来事が起こっていると聞き、冒険者ギルドを訪れたこと――
「確かにそういう報告がいくつか上がって来ていますね」
と、ウィニアもあっさり頷いた。
「詳しく聞かせていただけますか?」
「少々お待ちください」
ウィニアはそう言っていったん奥へ引っ込んだ後、書類を手に戻って来た。
「ええっと、最初に報告が来たのは2週間ほど前です。小規模なゴブリンの群れが斬殺されていた、と」
(2週間前、って言ったら、ドットス商会がこの街に来た頃だよな?)
偶然か必然か判らないが、魔物の死体が放置され始めた時期とドットス商会がこの街に来た時期が一致する。
嫌な予感を胸に慎也は、ちらり、と龍平の方を伺うと、彼は相変わらず真剣な表情でウィニアの話に聞き入っていた。
「最初の内はゴブリンを初めとしたレベル一桁台の弱い魔物ばかりだったんですが、今週に入ってレベル10を超える強めの魔物の死骸も見つかるようになったそうです。今日も2件、同様の死骸が見つかっています。1つはラージ・モアというレベル20~30の魔物が2匹と、クイーン・マンティスというレベル30の魔物が1匹、殺されて放置されているのが見つかった、と」
今日見つかったやつの1件目は、先程マクレーンたちが報告していたやつだ。
「他にもあるかもな」
慎也が言うと、ウィニアも頷いた。
「そうですね。こちらで把握しているのは、あくまで見つかって報告が上がっているものだけですので、他にも起こっている可能性はあります」
可能性というか、まず間違いなく他にも起こっているだろう、と慎也は確信していた。
「使用された武器に関してはどうでしょう?」
今度は龍平が尋ねた。
「ええっと、ほとんどは剣かなにかで斬り殺されていたそうです」
「ほとんど?」
「何匹か殴り殺されていた魔物もいたそうです。いずれも魔晶核を初めとした素材となる部位には一切手を付けず、殺した後はその場に死体を放置していることから、同一人物、あるいはグループの仕業である、というのがギルドの見解です」
ふむ、と考え込む龍平に倣うようにして慎也も考えた。
いまの所、そいつの目的がなんなのかは見当もつかない。そもそも、魔物を殺して死体に手を付けない理由が見当もつかない。
(殺しを愉しむ為? それとも単なる腕試しか? けどそれにしたって、魔物の死骸を放置する理由にはならないはずだ)
慎也たちも冒険者になる前、ウィルとの修行の合間に何度も魔物を殺しているが、いずれも死骸は解体して素材を回収した後は、焼却している。魔素の濃い場所で死骸を放置したままにすればアンデッド化する場合がある、というのはこの世界では常識なのだ。
「……それで、その件に関してギルドはなんらかの対策を執っているのでしょうか?」
「いえ、具体的には……なにぶん被害が出た訳でもないですし、取りあえず冒険者の方々に注意を呼びかける、くらいしか……」
少し申し訳なさそうな顔でウィニアが答えた。
確かに殺されているのは魔物であって人ではない。街や住民に被害が出ていない以上、ギルドが積極的に対策に乗り出す理由は無い。
「……判りました。お時間を取らせて申し訳ない」
「いいえ、こちらこそ」
龍平の丁寧な礼にウィニアも慌てて礼を返した。
◇◇◇
「どう思う?」
冒険者ギルドを出た後、龍平は改めて慎也たちに尋ねた。
「どう、というのは?」
もう少し具体的に言ってくれ、と慎也は眉を顰める。
「魔物を殺して死体を放置する理由だ。現地の冒険者である君らに率直な意見を聞かせてほしい」
「はい!」
龍平の率直な質問に、真っ先に手を上げたのは以外にも結衣だった。
「グロ耐性が無いから! あいたっ!」
元気よく馬鹿なことを言い放った結衣の頭に、慎也は軽めの拳骨を見舞った。
「そもそも死体を放置する理由が無いです」
「だよねー? その為に狩ってるんだもん」
《槍穹の翼》の2人も困惑顔だ。
2人の言う通り、魔物という存在はほとんどの冒険者からすれば、自分たちの生命を脅かす害獣であると同時に、魔晶核を初めとした様々な素材を齎してくれる益獣でもある。
狩った後、解体して魔晶核を回収しない理由など無いはずだ。
(後は経験値だが……ん? 経験値?)
思考を巡らせていた慎也が、ふとあることに気付いた。
魔物がもたらしてくれるもうひとつの利益――
レベルアップの為の経験値。
「経験値稼ぎの為に魔物を狩っている? 欲しいのは経験値だけで、素材には興味が無い?」
無意識のうちに漏れていた慎也の呟きに、全員がはっとした顔になった。
「確かにそれなら狩った後で死骸を放置するのも頷けますけど……」
「でもでも、魔晶核と素材を取らないと、お金稼げないんだよ!」
ユフィアが神妙な顔で頷く一方で、セリシエルは異を唱えた。
「冒険者なら、な」
「どういうこと?」
可愛らしく首を傾げるセリシエル。
「そいつが冒険者じゃなかったとしたら? オレたち冒険者は魔晶核や素材は報酬を得る為に必要な物だが、手間をかけて魔晶核や素材を回収しなくても喰うに困らない立場の人間なら?」
「なるほど……魔晶核を回収しなくとも喰うに困らない人物、か……」
慎也の意見を聞いて龍平は顎に手を当てて思案顔になる。
「魔物を狩れる技量があって、食べるに困らない人となると、騎士とか?」
「イアン様たちがそんなことするとは思えません」
シアーシャの意見に、ユフィアが異を唱えた。
「素材を売却するする際、オレは決まって冒険者ギルドに卸していたが、それ以外に魔物の部位や素材の買取を行っている店はこの街にあるのか?」
「あるにはありますが、ギルド以外だと日によって価格が変わったり、買い取り自体を行わないこともあります。常に安定した価格で買い取ってくれるのはギルドだけですから、冒険者だと大抵はギルドに持ち込みますね」
と、フェルナが説明した。
「だが、ギルドは冒険者資格を持たない者からの買取は行わない、だったな」
「そうですね。冒険者を支援する為の組織ですから……」
龍平とフェルナのやり取りを聞いて、慎也も思案してみる。
(つまり、冒険者以外で魔物の部位を売却して金を得るのは難しい、ということか……)
実際、慎也たちが冒険者になる前、修行中に倒した魔物の素材は、ウィルが知り合いの業者に買い取ってもらっていた。そう言った独自のパイプでも無い限り、冒険者以外の人間が魔物討伐で利益を得るのは難しい。
「じゃあやっぱり、経験値を稼ぐ為に魔物を狩ってる、ってことかな?」
「それが一番可能性が高いんじゃない?」
セリシエルの意見にシアーシャが同意した。
魔物を狩っているのが誰なのか、何人なのかは判らないが、それくらいしか思い当たることが無い、というのが慎也たちの相違だったが……
「………………あ」
そこで不意に結衣が声を漏らした。
「そういえば、私たちも一度だけ、魔物を殺して死体を放置したことがあった」
結衣の言葉に真っ先に眉を顰めたのは、この世界に来て彼女とずっと一緒に行動していた慎也だ。
「あったか、そんなこと?」
少なくとも慎也が知る限り、魔物の死体をそのまま放置したことなど無かったはずだ。そんなことをしたらアンデッド化すると、ウィルに厳しく言われて……
「一番最初。私たちがこの世界に来たすぐ後、ゴブリンに襲われたでしょ? 慎也君がやっつけたけど」
「あ」
言われて慎也も思い出した。ユフィアやウィルと出会う前、この世界に飛ばされた直後、確かにゴブリンの群れに襲われた。自分たちが異世界に来てしまったのだ、と否応なく確信させられた出来事だ。
「あの時、倒したゴブリンの死体をそのままにしたでしょ? だって私たち、その時は魔晶核の存在自体、知らなかったから」
確かにその通りだった。あの時の2人はこの世界に来た直後で魔晶核など知らなかった。異世界の常識がまったく無かったから。なので仕留めたゴブリンの死体をそのまま放置したのだ。
「……まさか、な」
呟くように吐き出された慎也の声は、街の喧騒に紛れて虚空へと消えた。




