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異界の刀銃使い  作者: 太公望姜子牙
異世界刑事の章
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第121話 ご用件をお伺いいたしましょう

主人公不在!(´-ω-`)

「クローディン公爵家の契約冒険者!?」


 キアナの街の一角にあるドットス商会の店舗の一角で、神経質そうな顔つきの男が怒声を撒き散らしていた。


 ドットス商会のキアナ支店の責任者であるアザイルだ。

 年の頃50前後に見えるが、実は40代半ばで、痩せた体格のせいで実際年齢より老けて見える。短い金髪に貴族のような金の刺繍の入った上物の衣服を身に付けているが、お世辞にも似あっているとは言えない。


「クローディン公爵家の者がこんな辺境の街に来るはずがないだろう!? 馬鹿も休み休み言え!」


 彼の怒声の矛先にいるのは、つい先程、エリーム魔法店へやらせたドットス商会の契約冒険者の2人だった。


 3階建ての店舗の最上階に位置する彼の執務室には、現在4人の人間が詰めていた。


 アザイル自身。契約冒険者の2人。そしてもう1人、副店長であり、アザイルの右腕とも言うべき初老の男だ。


「お待ちください、アザイル様」

「なんだ、ゲルグ!?」


 ゲルグと呼ばれた初老の男は、アザイルの怒声を浴びても表情を変えることも無く言った。


「この者たちは仮にもうちの契約冒険者です。クローディン公爵家の契約冒険者、と言われて、根拠も無しに信じるほど愚かではないはずです。事の真偽の結論を出すのは、仔細を伺ってからでも遅くはありません」

「ぬぅ……」


 冷静な口調で正論を返され、アザイルは二の句を失った。


 ドットス商会の現会長の甥にあたるアザイルは、ドットス商会の創始者の血縁ではあったが、取り分け有能という訳ではなく、本来であれば辺境とはいえ、支店長を任せられるほどの器量は持ち合わせていなかった。だが、アザイルの父――現会長の弟が我が子を思い、兄に頼み込んだ結果、渋々ながら新しく出店するキアナ支店の責任者を任せてみることにした、という経緯でこの場所にいる。

 それに当たって現会長が、アザイルの補佐役として送り込んで来たのがゲルグだ。

 そう言う経緯もあり、アザイルは、自分に対して物おじせずに意見を述べるゲルグの態度に苛立ちを覚えながらも沈黙するしかなかった。


(やれやれ。そのように短絡的に結論を下す性格のせいでいまの地位に留まっていることに、まるで気付いかないとは、困ったお方だ)


 キアナ支店の責任者という現在の立場に、アザイルが不満を抱いていることをゲルグは知っている。優遇ではなくむしろ、不遇な扱いを受けた、と思っていることも。


 本来であれば商会内でもっと上の立場であるべきなのに、なぜこのような辺境の支店長――左遷とさえ言える立場に回されたのか、と。


 それもこれも、アザイルが自身の器の無さを認識していないが為だった。それに加え、自身に対する過剰な自己評価。


 知識。経験。器――なにからなにまで十人並みでしかないアザイルは、自身が他者よりも遥かに優れた人間である、と信じ切っていた。その歪んだ自己分析と、それに反する現在の立場が、短絡的で神経質とも言うべき現在の性格を作り出していた。


 無論、そのことを当人は認識していないし、指摘したとしても認めようとはしないだろうが。


「それで、お前たち。その場でなにがあったのか、詳しく話してみなさい」

「は、はい」


 ゲルグに促され、男たちはエリーム魔法店で起こったことを出来るだけ詳しく説明した。


「……なるほど。確かにその者が持っていた短剣に刻まれていたのは、クローディン公爵家の紋章に間違いありませんな」


 報告を聞き終えたゲルグは、参謀らしい的確な判断力と知識で持って、部下たちの報告が真実であると即座に断定した。報告を終えた部下たちを退出させる。これで部屋にいるのはアザイルとゲルグの2人だけになった。


「何故クローディン公爵家の契約冒険者が、こんな田舎町の貧乏商店の味方なんかするんだ!?」


 自身の思い通りにならない現実に、ますますアザイルの苛立ちは酷くなる。


「それはこの際、問題ではありません」


 だが、ゲルグはあくまで冷静に、アザイルを嗜めるように言葉を紡いだ。


「問題は、その冒険者がどうしてこの街を訪れたのか、です」

「まさか勘付かれたか!?」


 最悪の展開を想像して、アザイルは赤かった顔色を一瞬で蒼白にするという珍芸をやってのけた。


 そう、ドットス商会がキアナの街に店舗を構えたのは、なにも商売の規模拡大の為だけではない。


 有体に言えば、最大の目的は密輸。


 相手は隣国ヴァードナー王国に存在するさる裏組織であり、ドットス商会は以前から秘密裏にその組織と武具類の取引を行っていた。

 そして昨今、件の組織の規模拡大によって取引の規模も大きくなった為、武器密輸の為の中継基地を、ヴァードナー王国にほど近いスアード伯爵領の領府であるキアナの街に作ることになったのだ。


 もちろん、表向きは新たな店舗の出店、という名目で。


 もちろんこれらは完全な犯罪であり、国の許可なく他国に武器を売り渡すことは厳しく禁じられている為、バレれば即捕らえられ、場合によっては死刑すらありうる。


 クローディン公爵家の契約冒険者にこれらの事情を知られれば、アザイルに待つのは破滅のみだ。


「その可能性は低いでしょう」


 だが、ゲルグは懐疑的な意見を述べた。


「そもそも、我々の行動を察知して寄越した密偵だとすれば、少々目立ち過ぎです。わざわざクローディン公爵家の名前を出すなど愚の骨頂。そんなことをしても我々を警戒させるだけで、意味がありません」

「そ、そうだな」


 常識的なゲルグの説明を聞いて、アザイルも少し落ち着きを取り戻した。


「恐らくですが、件の冒険者の目的は我々ではなく、この街へ来たのは別の目的か、もしくは道中に立ち寄っただけ、と思われます。そこでたまたまエリーム魔法店の者に詰め寄る部下たちを目にし、仲裁の為に割って入ったのではないかと」

「なるほど……」


 ゲルグにの推測はアザイルにしても充分に納得できるものだった。


 そして実際にその推測は当たっているのだが、その後の展開までは彼にとっても埒外だった。


「とんだ時にとんだ邪魔が入ったものだ!」


 安心して苛立ちがぶり返したのか、再びアザイルの口調が荒くなる。


「盗難の件については、なにか判ったか?」

「そちらは依然、手掛かりは掴めておりません」


 2人が話しているのは、先日、この店に入った泥棒のことだ。犯人はあろうことか、深夜の店舗に誰にも気取られることなく侵入し、奥の倉庫の扉を破壊し、中に保管されていた、とある曰く付きの魔導具を盗んでいったのだ。他にも武具や貴金属もいくつか。


「ですが、短時間で店内に侵入し、目的の物を奪った後、誰にも気づかれずに立ち去っているところを見るに、かなり隠形系のスキルに長けた者の仕業か、あるいは――」

「……まさか、内部に手引きした者がいる、と言いたいのか!?」

「可能性は捨てきれません」


 荒い口調のアザイルに、ゲルグは静かに頷いた。


「貴重品を倉庫に保管していたことは関係者全員が知っていました。奴隷を除外したとしても、30人以上」


 奴隷となった者は契約魔法によって、身体のどこかに奴隷紋と呼ばれる印を付けられる。それにより、主の命令に逆らったり逃亡しようとしたりすると、激痛が走る仕掛けになっている。

 つまり、基本的に絶対服従で主に仇なす行動は取れないのだ。


「とはいえ、いまの所は可能性の1つにすぎません。身内をあまり疑い過ぎれば要らぬ混乱も招きかねません。いまは辛抱が肝要かと」

「ちっ……だが、何故あんな物を盗んだのだ? あれは確かに強力ではあるが、使い勝手が酷く悪い魔導具だぞ?」

「そもそも使う為に盗んだとは限りません。使うことは出来なくとも、売ればかなりの金額になります」

「金目当てか……くそっ! 叔父への報告を思うと頭が痛い」


 泥棒に入られ、高価な魔導具を奪われたことは明らかなアザイルの失態である。無論、総責任者である叔父へ報告しなければならず、それを思うとアザイルは頭痛に加えて胃までキリキリと痛み出した。


 だがそこへ、彼に更なるストレスを与える報せが飛び込んで来た。


 入口のドアがコンコン、とノックされる。


「入れ」

「失礼します」


 アザイルが促すと、ドットス商会の従業員の1人が部屋に入って来た。


「何事だ?」

「はっ、クローディン公爵家の契約冒険者と名乗る者が、支店長にお会いしたいと参っておりまして……」

「なんだと!?」


 声を上げたのはアザイルだったが、ゲルグもまた、噂をすれば、と言わんばかりのタイミングで現れた珍客に驚きを隠せない様子だ。


「……向こうの用件は?」


 すぐに落ち着きを取り戻したゲルグが部下に尋ねた。


「それが、先日うちに入った魔導具泥棒に付いて話を聞きたい、と。なんでも、いま自分が追いかけている犯罪者と関係があるかもしれない、と言っております」


 答えを聞いてアザイルがあからさまに胸を撫で下ろした。

 少なくとも密輸の件を嗅ぎつけられた訳ではない、と――

 だが、逆にゲルグは懐疑的な思いを抱いた。

 口実は建前で、実際はなんらかの探りを入れに来た可能性もある。


(なら、アザイル様と会せる訳にはいかない)


 交渉や話術と言った才能を欠片も持ち合わせていない、この暗愚な主を表に出せば、どんなボロを出すか判ったものではない。追い返すか? と一瞬考えたが、露骨に面会拒否すれば、かえって怪しまれるかもしれない……


「……判りました。客間にお通ししなさい。くれぐれも丁重にお持て成しするように」


 ゲルグの言葉にぎょっとするアザイルだったが――


「かしこまりました」


 言葉を発する前に部下は出て行ってしまった。


「どういうつもりだ、ゲルグ!? オレに冒険者風情と話をしろと――」

「いえ。クローディン公爵家の冒険者とは私が会いましょう」

「お前が? だが、何故会う必要がある? 追い返してしまえば良いではないか!」


 どこまでも浅はかで短絡的なアザイルの思考能力に、ゲルグはいまさながら呆れながらもそれを表に出すことなく言った。


「下手に追い返せば、逆に疑いを深める結果になりかねません。ならばむしろ、堂々と招き入れた方が良いでしょう。我々には後ろめたい事情などなにも無い、と態度で示すのです。それに、向こうの思惑を探る為にも話をしておいた方が良いかと思われます。それによって、後の対策にも選択肢が増えます」

「う、うむ。そう言うことなら、お前に任せよう。ただし――」

「判っております。下手なボロを出すような真似はいたしません」


 そう言ってゲルグは頭を下げ、アザイルは満足げに頷いた。


 ◇◇◇


 豪勢な装飾の施されたドットス商会の待合室。庶民にはとても手が出せないであろう高価なソファーに、物怖じすること無く腰かけて待つこと5分ほど。待合室のドアがカチャリ、と音を立てると同時に龍平はソファーから立ち上がり、待合室に入って来た男に向き直った。


「どうぞ、座ったままで楽にしてください」


 男――ゲルグに促されて龍平は再度席に付いた。やや遅れてゲルグも向かいのソファーに腰を下ろす。


「お初にお目にかかります。クローディン公爵家の契約冒険者をしております、龍平と申します」

「これはご丁寧に。(わたくし)、この店の副店長を務めております、ゲルグと申します。本日は店長であるアザイルへの面会をご希望と伺いましたが、生憎、当人は都合が付かなかった為、僭越ながら私が代わってまいりました。どうぞ、ご了承ください」

「いやいや、こちらこそ突然、前触れも無く押しかけてしまったにも拘わらず、こうして面会に応じて下さったこと、感謝しております」


 互いに敬語と礼を尽くした挨拶を交わすと同時に――腹の探り合いは始まった。


「では、時間を取らせるのも御迷惑になりますので、早速本題に入りたいと思いますが……」

「その前に、リョウヘイ殿。貴殿が真にクローディン公爵家の関係者である証しを確認させていただきたいのですが」

「おお、これは失礼! 私としたことが、うっかりしていました!」


 いかにも、つい忘れていた――と言わんばかりの口調で謝罪する龍平だったが――


(当然、証拠も無しに言葉を鵜呑みにする馬鹿ではない、か。この男、手強いぞ)


 相手の観察眼を試す、いわば小手調べを往なされたことや、その言動から、リョウヘイはこのゲルグと言う男がかなりの弁士であることを直感した。


「こちらです」

「失礼」


 龍平が取り出した、クローディン公爵家の家紋の入ったナイフを手に取ったゲルグは、じっと家紋を睨みつけるように観察する。


(本物、か。加えて敬語や礼を尽くした言葉遣い――明らかに一朝一夕で身に付けたものではない。相当、この手の交渉に慣れているとみた。冒険者という肩書に捉われぬ方が良いな。心してかからねば)


<鑑定>を持ちいた結果、ナイフの家紋は本物という結果がでた。さらに龍平の言葉遣いや所作もまた、本物だとゲルグは判断した。

 下手に侮れば墓穴を掘りかねない難敵である、と認めた。


「確かに、クローディン公爵家のものであると確認させていただきました」


 だがそんな内心など欠片も表に出すことなく、にこやかな表情のままゲルグはナイフを龍平に返却した。


「では改めまして、ご用件をお伺いいたしましょう」

「それでは率直に申し上げます。私はこの街に、とある犯罪者を追ってまいりました」

「犯罪者、ですか? それが我々となんの関係が?」

「実はその男、ただの犯罪者とは訳が違いまして。簡単に申し上げると、なんの罪も無い無辜の民を言葉巧みに洗脳して犯罪者に堕とし、同じく無辜の民を傷付け、殺めさせてそれを愉しむ、という手口で、これまで多くの犯罪を扇動してきたのです」

「それはなんとも……私の理解の範疇を超える、恐ろしい人間がいたものですな」


 演技ではなく、本心からゲルグは言った。

 そういう理解の及ばない存在とは、出来るだけ関わりたくない、と。

 龍平もまた、同意する様に頷いた。


「いまは騎士団長の許可を頂き、地元の冒険者の助けを借りて街を捜索していた最中に、こちらで魔導具を初めとした武具が盗み出される事件が起きたと聞きまして。もしや件の犯人と関係があるのではないか、と考えて、伺わせていただいた次第です」

「なるほど……」


 龍平の話を聞いて、ゲルグは神妙に頷いた。


(少なくとも嘘は言っていない。つまり、理由を付けて我々を探りに来た訳ではなく、純粋に話を聞きに来ただけ、ということか。ならば下手に誤魔化すのは悪手だな。私と同様、<虚偽看破>を持っている可能性もある。そして、実際にこの男の言っている犯罪者と例の泥棒が関係している可能性もある。ならば、事件に関しては素直に話すのが得だな。上手くすれば、犯人を見つけて盗まれた物を取り返してくれるかもしれん)


 参謀らしい迅速な判断力で持って脳内で決断を下したゲルグは、意を決して口を開いた。


「確かにその通りです。先日この店に盗賊が入り、倉庫に保管してあった魔導具と武具を盗まれてしまいました。すぐに憲兵に通報したのですが、いまだ賊は捕まっておらず、盗まれた物の行方も知れぬ始末」

「なるほど、事実でしたか」


 真顔で頷く一方で――


(憲兵には通報していたのか)


 エリーム魔法店に押しかけた冒険者たちは、その辺りの事情は知らされていなかったのだろう。龍平の<虚偽看破>もまた、ゲルグの言葉が真実だと伝えている。


(となると、盗まれたのは公にしても問題の無い物。ならば聞かない手は無いな)


 一瞬の判断で龍平は決断した。


「宜しければ、なにを盗まれたのか伺っても?」

「構いません」


 案の定、ゲルグはすぐに了承した。


「盗まれたのは魔法銃の一種で、『ライフル』という魔導具です」


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