第119話 ドットス商会?
アケオメー!! (^O^)/
「ムカつく奴ら?」
怪訝な顔で慎也が聞き返した。
「ドットス商会って連中なんだけどさ。知ってる?」
「いや、初耳だ」
名前からして商人なんだろうが、慎也は聞いたことが無かった。どうもシアーシャは本格的にその商会が嫌いらしく、不機嫌さを隠そうともしていない。
「最近この街に進出してきた商会です。結構大手で、武器や防具、魔法薬や食料品、果ては魔導具まで、主に冒険者向けの武具類を幅広く取り扱っているそうです。どうもこの街に新たに店を構えるつもりみたいで」
と、今度はフェルナが説明してくれたが、表情から察するに彼女もその商会のことを嫌っているらしい。
「大手の商会が来てくれるなら、冒険者にとっては良いことじゃないの?」
不思議そうに結衣が首を傾げる。
彼女の言う通り、冒険者向けの道具を幅広く扱っている大手の商店が来ることは、自分たちに取ってプラスでこそあれ、マイナスにはならないはずだ。
「結構黒い噂が多いんですよ」
フェルナ曰く――
自分たちと同じエリアにあるライバル店を、露骨な営業妨害の末に閉店に追い込んだ――
違法な薬物や魔導具の製造、密輸を手掛けている――
ドットス商会の契約冒険者は非常に態度が悪く、依頼者を脅したり、護衛対象の荷をくすねることもしばしば――
とある有力貴族と繋がりがあり、そのコネを持ちいてそれらの犯罪行為をもみ消してもらっている――
「……なにそれ?」
「犯罪集団なんだよ!」
フェルナの説明を一通り聞いた後、結衣とセリシエルがドン引きしていた。
「でも、あくまで噂なんですよね?」
「それがそうでもないのよ」
ユフィアの問いに、シアーシャが腕組みして答える。
「エリーム魔法店は知ってるでしょ?」
「ああ、それなら知ってる」
エリーム魔法店はキアナの街で主に魔法薬を取り扱っている商店だ。
だが、慎也たちはほとんど行ったことが無かった。というのも、彼らは回復魔法が使えるユフィアがいてくれるお蔭で、他の冒険者パーティに比べて魔法薬に依存する割合が低い為でもある。実は回復魔法が使える魔法使いというのは意外と少なく、大半の冒険者パーティは怪我をした時の治療は魔法薬に頼っている。
加えて魔法薬も食品と同様、保存期間が存在しており、それが過ぎると効能が落ちる。なので、仮に使わなかったとしても定期的に買い直す必要があるのだが、慎也たちの場合は<共有無限収納>という、時間停止した収納空間に物を仕舞うことが出来るので、保存期間を心配しなくて良いというのもかなりの利点となっている。
それらの理由から、慎也たちは魔法薬の購入量が他の冒険者パーティに比べて非常に少なくて済んでいる。必要な場合は大抵ギルドで買い付け、それを<共有無限収納>に仕舞っておけば保存期間切れで買い直す必要も無い訳だ。
他の冒険者たちは、大抵は専門の商店に買い付ける。冒険者ギルドの経営する店でも魔法薬は売っているのだが、専門店ではないので如何せん量が少ないのだ。
「私たちも以前からお世話になってる店なんですけど、ドットス商会が来てから、妙な嫌がらせや営業妨害未行為が何度も起こっているらしいんです」
シアーシャの言葉をフェルナが受け継いだ。
なんでも、複数の冒険者が、エリーム魔法店で購入した魔法薬が不良品だった、と店まで文句を言いに来たのを皮切りに、夜に店の扉や備品が壊されたり、店員が街中でチンピラに恫喝される、という出来事が何度も起こっているそうだ。
「でさ、この前、たまたま店員が脅されてるとこに出くわしたのよ。私らが注意したらそのチンピラたちはすぐに逃げたんだけど、気になって後を尾けてみたら、人気の無い裏路地でドットス商会の連中と話し込んでたのよ」
怒り心頭、といった感じでシアーシャが声を荒げた。
「つまり、そのドットス商会が、チンピラを雇ってライバル店であるエリーム魔法店に嫌がらせをしている、というのか?」
ここまで黙って話を聞いていた龍平が口を開いた。
「私たちはそう考えています」
フェルナは迷わず答えた。
「実は私たち、エリーム魔法店の常連なんですが、それ以前に個人的な付き合いもあるので、なんとかしてあげられないか、と考えてたんですが……」
「あ!」
フェルナの言葉の途中で、シアーシャがなにかを思い出したように手を打った。
「リョウヘイさん、シンヤも――覚えてるでしょ? 2人が私たちと出会った時、私たちが商隊の護衛をしていたこと」
「そういえば、そうだったな」
「ああ、オレも覚えとるよ」
慎也と龍平は揃って頷いた。
慎也たちが初めてフェルナとシアーシャの《槍穹の翼》と出会ったのは、ゴブリン遺跡での戦いの少し前だ。
ゴブリン退治の依頼を熟している最中、ワイバーンに襲われている商隊を見つけたので助太刀したことがあった。その甲斐あって商隊は無事は難を逃れ、慎也たちもどうにかワイバーンを仕留め、共に九死に一生を得たのだが、その時、商隊の護衛に当たっていたのが《槍穹の翼》――フェルナとシアーシャだと知ったのは、その後のことだった。
「あの時、自己紹介する前に2人まとめてワイバーンに吹っ飛ばされたんだったな」
「あうっ……」
「シンヤさん、それは言わないで下さい」
「あ、悪い悪い」
どうやらそのことは2人にとっても苦い経験だったらしく、苦言を言われて慎也も素直に謝った。
「確か、あの時は隣のキリスタ領へ商品を送った帰りで、向かう途中に盗賊に襲われたところを龍平さんに助けられたんだったよな?」
「そうそう、その通り」
ゴブリン遺跡での一件の後、ウィルの家を訪れた2人が話してくれた内容を慎也は覚えていた。
行きと帰りで2度も危機に陥り、それぞれ別の異世界人に救われるという稀有な出来事だったので、慎也も良く覚えていた。
「あの時、私たちが護衛していた商隊がエリーム魔法店のものだったんですよ」
「そうだったのか……」
フェルナに言われてふと思い返してみれば、あのすぐ後にゴブリンの大量発生事件とゴブリン遺跡での討伐作戦が起こった為、商隊のその後のことをまったく気にしていなかった。
「エリーム魔法店の店長の娘さん、シャリアさんという方なんですが、私たちの幼馴染で、私やシアにとってはお姉さんみたいな存在なんです。その好で何度か依頼を引き受けたりしてたんです」
「なるほどね」
慎也は納得して頷いた。
友達の実家が謂れも無い中傷や嫌がらせの的にされてたんじゃ、良い気分にはならないだろう。
「うーん」
とそこへ、なにやら腕を組んで思案していたセリシエルの声が割り込んで来た。
「どうしたの、セリスちゃん?」
「えっと、そのヒョットコ商会だっけ?」
「ドットス商会ですよ、セリスさん」
セリシエルの言い間違いを、ユフィアがやや呆れ顔で注意した。
「その人たちとリョウヘイさんの追いかけてる人と、なにか関係あるのかな?」
「あ、そう言えばその話だったな」
そもそも会話の趣旨はKの企みを暴くことだったはずなのに、いつの間にか違う方向へ脱線してしまっていた。
「取りあえず、そのドットス商会がこの街に来たのは、例の人造魔獣騒動と同時期だった、ってことだ」
慎也がやや強引に話をまとめた。
偶然と言えばそれまでだが……
「……匂う。匂うぞ」
龍平の直感は違う、と告げているらしい。
「なにが匂うんですか?」
「いまの話からは事件の匂いがする」
真剣な顔で龍平は言いきった。
これが他人なら慎也は疑っただろうが、元刑事で<刑事の勘>などと言うスキルを持った龍平の直感は無視できないものがあるので、慎也も真面目に尋ねた。
「そのドットス商会が例の男と関わっている、と?」
「それはまだ判らん。だが、オレの勘は「調べてみた方が良い」と告げている」
そう告げると、龍平はフェルナとシアーシャに言った。
「お嬢さんたち。一度そのエリーム魔法店へ案内してもらえないか?」
「それは良いけど、もしかして、おっちゃんがドットス商会をなんとかしてくれるの?」
期待を込めた目でシアーシャが尋ね返した。
「出来るかどうかは判らんが、オレも元刑事として、そういう卑劣な嫌がらせを見て見ぬ振りは出来ないたちだからな。やれることはやってみよう。その為にも、当人から詳しく話を聞きたい」
「そう言うことでしたら、すぐ案内します!」
龍平の申し出に、フェルナも嬉々として承諾した。
「異論を唱える訳じゃないんだが――趣旨を忘れてないだろうな?」
念の為に慎也は龍平に尋ねた。
Kの捜索からドットス商会対策に趣旨が変わっているのではないか、と不安になったらしい。
「判っとるさ」
だが、龍平は心配無用、とばかりに笑って答えた。
「だが、どうもそのドットス商会というのはキナ臭い。この街にあって犯罪に関わってそうな組織であるなら、調べておいた方が良い。捜査の目を煙に巻く為、他の犯罪者や犯罪組織を利用する、というのは、Kがよく用いていた手段だ」
「……とことんたち(性 質)が悪いな、そいつ」
自分が逃れる為に他の犯罪者を利用する。確かに有効だろうが、実際にやるとなると正気の沙汰ではない。
(そんな常軌を逸した狂人が、この街でいったいなにを企んでいる、っていうんだ?)
嫌な予感と胸騒ぎを抱えつつ、慎也は龍平たちの後を追った。
◇◇◇
エリーム魔法店はキアナの街の大通り沿いにある。2階建ての比較的大きな建物で、玄関の上には「エリーム魔法店」という看板が飾ってある。
「ここがその店か?」
「そう、エリーム魔法店。私たちも冒険者に成りたての頃からとってもお世話になってるんだから」
龍平の問いに、我が事のように得意げにシアーシャが説明した。
魔法薬を取り扱っている店は、キアナの街にはここしかなく、後は冒険者ギルドが少量取り扱っているだけだ。怪我が付き物の冒険者にとってはまさに生命線と言えるだろう。特にこの街では……
なにしろ、街唯一の医療院がアレなので、誰も好き好んで行きたがらない。なので、間違っても医療院の世話にならないよう、冒険者の大半が万が一に備えて大量の魔法薬を買い込む傾向があるそうだ。
その話をフェルナから聞いた時、その場にいる全員が深く頷いていた。
「困ります!」
そんな冒険者の生命を支えていると言っても過言ではないエリーム魔法店から、緊迫した女性の声が聞こえてきた。
「困ってるのはこっちの方だ!」
「てめぇらのせいで、店にどれほどの損害が出たと思ってやがる!?」
それに続いてガラの悪い感じの男の怒鳴り声が聞こえてきた。
どうやらエリーム魔法店の中で、女性と男たちが言い合いをしているらしい。すぐに一行は店の中へと足を向けた。
玄関を開けると、店の中に客はおらず、奥のカウンターの方で、店員らしき年の若い女性に冒険者風の男が2人詰め寄っていた。
「ですから、私たちは知らないと申し上げているじゃないですか!?」
「しらばっくれるな!」
「てめえら以外に考えられないんだよ!」
男たちの剣幕に、女性店員は遠目にも青い顔をしていて酷く怯えている様子だった。
詳しい内容は判らないが、だからと言って許されるようなことではない。元刑事である龍平にとっても、慎也にとっても断じて見て見ぬ振りの出来ぬ蛮行だ。
「いったいなんの騒ぎかね?」
「白昼堂々強盗か?」
龍平と慎也が声を掛けると、男たちが揃ってこちらを振り返った。
「なんだお前ら? 部外者は引っ込んでろ!」
「こっちは取り込み中だ。邪魔すんじゃねぇよ!」
どすを利かせた声で男たちが凄むが、当然2人は動じない。
その向こうで、女性店員が龍平の顔を見てはっとした表情になる。
「どう見ても君らがそちらの女性を脅しているようにしか見えないんだがな。だとしたら、関係無くとも見ていることなど出来ないだろう?」
「良い年した大人が2人揃って女の人を脅すとか、男として恥ずかしくないのか?」
至極当たり前な龍平の言い分だが、男たちに取っては酷く癇に障る態度だったらしい。2人揃って額に血管を浮かべてこちらへ向き直った。
「てめぇら、オレらが誰だか判って言ってんのか?」
「知るか。盗賊か強盗か、良いとこチンピラってとこだろう?」
冷めた顔で慎也は男たちの怒りに油を注ぐ言葉を放った。
「オレらはドットス商会の契約冒険者だ!」
「ドットス商会?」
男の口から出た名前に慎也は驚いた。
まさかこうも早く、問題の商会の関係者に出くわすとは思わなかった。
「話だけは聞いたことあるな。で、それがなんだ?」
「知らねぇのなら教えてやる! うちはな、上級貴族とも取引のある由緒ある大商会だ! お前らみたいな若造が楯突いて良い相手じゃないんだよ!」
「オレらに楯突くってことは、上級貴族に喧嘩売るのと同じだぞ? 判ってんのか!?」
男たちの主張を聞いて、慎也は呆れた。
つまりこの2人は、上級貴族と取引のあるドットス商会の契約冒険者――言い換えれば、虎の威を借りる狐の威を借りる鼠、と言っても良い存在だ。
(よくも恥ずかし気も無くそんなことが口に出来るな)
それ自体が悪いという訳では無いのだが、それを理由に他者を脅し、見下しても情けなさが際立つだけだろう、と慎也は心底あきれ果てた。
己の実力を旨とする冒険者に取って、上級者の威を借りて他者を見下す行為は恥でしかない。
「ほう? それは奇遇だな」
だが、慎也がなにかを言う前に龍平が口を開いた。
「オレも契約冒険者だ。ただし、ドットス商会ではなくクローディン公爵家のな」
「「公爵家!?」」
龍平の言葉を聞いて男たちの顔色が青に変わった。
それはそうだろう。公爵と言えば、貴族階級の最上位に位置する、実質国王に次ぐ階級と言って良い。
虎の威を借りる狐の威を借りる鼠だけに、より上位の存在に対しては酷く敏感で臆病らしい。
さらに龍平が証拠としてクローディン公爵家の紋章の刻まれた短剣を見せると、男たちの顔色は青から土気色になった。
「オレは公爵家の命を受け、ある犯罪者の捜索の為にここへ来た。このことは騎士団も了承済みだし、騎士団長より上級憲兵と同等の権限を与えられている。これがその証明書だ」
さらにイアンからもらった、龍平に上級憲兵と同等の権限を認める、という直筆の証明書を見せると、男たちは大量の脂汗を流し始めた。
その様子を後ろで見ていたフェルナとシアーシャが、笑みを隠しきれなくなっていた。エリーム魔法店に対するドットス商会の横暴な行為に腹を立てていた2人にとって、目の前の光景は痛快としか言えないものだった。
「つまり、なんの罪もない店員に横暴な行為を行っている君らを、この場でしょっ引くことも出来る、という訳だ。理解してもらえたかな?」
真綿で首を締めるような龍平の優し気な問いかけに、男たちは頷くしかない。
なまじ権力者の威を借りていた者たちだけに、より大きな権力を前にすればなにも出来なくなるのは自明の理だ。
「それじゃあ、君らがこのような真似をした理由を聞かせてもらおうか」
龍平が2人を交互に見ながら尋ねると、彼らは思っても見なかった言葉を放った。
「オレらはなにも悪いことはしてない! むしろこっちが被害者だ!」
「そうだ! 本当の犯罪者はこの女の方なんだ! オレたちは犯罪者を問い詰めてただけなんだ!」
彼らの言葉に、慎也と龍平は思わず目を丸くして顔を見合わせた。
2019年最初の投稿です! 旧年中は大変お世話になりました。「異界の刀銃使い」を今年もよろしくお願いします! m(__)m




