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第16話 僕は強くなる

 今日も僕は朝早くに新人ルーキーダンジョンへとやってきた。

 小さな洞窟の入り口から地下へと降りる階段を進んでいく。次第に魔光石を多量に含む壁がダンジョン内と僕の横顔を照らし出す。


 肩にはお嬢様方が不器用ながらも縫ってくれた、パッチワークのついた鞄。破れた箇所はお世辞にも綺麗にとは言えないが、一応ちゃんと直っている。


 昨日の商業区での買い物から帰った後、すぐお嬢様方が修理してくれた。

 最初はルーシェ様が鞄とにらめっこをしながら直してくれていたが、その危なかっしい手つきにアリシア様がたまらず取り上げたのだ。


 とはいえ、箱入りのお嬢様であるが故、お二人共お裁縫の経験は断然少ない。

 アリシア様はルーシェ様より経験があるのか多少はましな手つきだったが、結局修理が完了した鞄は、不格好な縫い目の目立つパッチワークの鞄となった。


 その間に僕はミリヤ様との約束の料理を作っていた。そんな僕にお二人で鞄を持ち、こっちに乾いた笑いを浮かべ、がくっと項垂れるルーシェ様とアリシア様。


 僕の隣で何を作るのか、目を輝かせ興味深そうに見入っていたミリヤ様もそれを見て、「姉様たち、下手くそ~」と指を差しながらお腹を抱えて笑っていた。そんなに笑っちゃうとフォローが大変になるのに、ミリヤ様はお構い無しだ。その後、僕は落ち込むルーシェ様とアリシア様を励ますのに必死だった。


 そんなこともあったが、鞄は一応直ったのだ。予定通り、今日からまたダンジョンでの魔物狩りにやってきている僕は、一階層の入り口まで降りてきた。


「よしっ、今日も頑張るぞ!」


 一階入り口の通路で拳を握り、気合を入れる。何といってもレベルアップ後、初の魔物狩りだ。自分がどこまでやれるのか、戦ってみたい。胸の奥で自然と気持ちが昂る。

 

 腰のロングソードに手をかけながらも、慎重に魔光石で照らし出されるダンジョンを進む。


 時折、何人かの新人ルーキー冒険者パーティーとすれ違う。駆け出しの簡素な装備に、腰には冒険者が必ず身に付けることになっている冒険者ギルドカード。冒険者ギルドに所属するものは皆、このギルドカードを見える場所に付けることになっているのだ。

 

 カードサイズよりやや大きめの、ギルドカード。所謂いわゆる、冒険者の身分証だ。その使われる材質によって冒険者のランクが別けられているらしい。詳しくは知らないが、ギルド長のエルドさんが冒険者のことについて教えてくれた時にそう聴いた。

 

 このダンジョンが新人ルーキーダンジョンと言われる通り、皆一様に新人が最初に身につけると謂われている、焦げ茶のレザー製のギルドカードを下げている。腰に紐で下げている者が一番多いが、首から下げている者も目に付く。


 僕も本格的に冒険者としてやっていくのならば、彼らと同じようにギルドカードを腰なりに身に付けることになるだろう。脳裏にエルドさんの勧誘の言葉が浮かぶ。


 そういえば冒険者ギルドに所属するか、お嬢様方にまだきちんと相談してなかったな。今夜辺り、帰ったら相談してみよう。


 やや広めの通路で、ギルドカードを腰や首から下げる彼らを横目に、僕はダンジョンを進んでいく。先日と同じように最弱のグリーンラビッドの姿は……、ない。

 最近、新人ダンジョンで他の駆け出し冒険者を見かけることが多くなっていたし、お手軽なグリーンラビッドは良く狩られているみたいだ。


 まずはグリーンラビッドで、レベルの上がった力を試してみたかったのだが、今の状況を見ると探し出す方が一苦労だ。


 仕方なく、一階層の中域までやってくる。中域辺りまで来ると、幾つかの広めの部屋が目立つようになる。同時にすれ違う駆け出し冒険者も少ない。

 

 そんな中域の部屋を廻っているところで、前方に影を捉えた。


 下顎から突き出た牙の生えた猪型の魔物、ワイルドボアだ。それも二体。じゃれ合っているのか、互いに牙と牙をぶつけ合い、低い唸り声をあげながら力比べをしているようだった。


 夢中になっているのか、僕の方にはまだ気づいていない。そのワイルドボアに狙いをつけた。

 剣に手を掛け、体は今にも飛び出しそうに臨戦態勢を取る。足に力を込め、軋む筋肉を感じながら地面を一気に蹴り飛ばす。蹴り飛ばした地面が、ぴきりと音を立てて僕の足型を作り、蹴られた土が宙に舞う。瞬時に風切音を自身の耳に捉えながら、視界は一気にワイルドボアまで迫った。


「~~ッ!!」


 自身でも信じられない程の速さに、僕は驚愕していた。だがその速さに目も、体の反応も、しっかりと着いて来ている。僕はその感覚に一瞬戸惑いながらも、駆けながら素早く抜刀一閃。ワイルドボアを切り伏せた。


「ブオオォォォォォォォッ!!」


 倒れたワイルドボアと力比べをしていたもう一匹は、急に現れた僕に敵意の雄叫び上げながら、突っ込もうとしてくる。


 だが―遅い。見るからに遅かった。

 

 僕は走り出そうとするワイルドボアに素早く突きを放つ。その突きはワイルドボアの一歩目を許さず、骨を砕き、その額を穿った。急所を穿たれたことでワイルドボアは断末魔を上げること無く、絶命した。


「……これが本当に、僕、なのか」


 数日前にこの猪の魔物に苦戦して、お腹に痣を貰い、なんとか勝ったものの、まだ早いと諦めてグリーンラビッド狩りに戻った時を思い起こす。一体ですら、僕にはきつかった相手だったはずなのに。今の僕は二体を軽々と狩れた。


 あの頃の苦戦がまるで嘘のようにすら思えてくる、自身の成長に僕は、見開いていた手を拳の形に強く握り締めた。


 僕は強くなれている―。


 これまでに無い、明らかに実感できた成長の跡に僕は高揚した。だが握りしめた拳の先、視線が捉えるのは薄暗く、魔光石で照らし出されるダンジョンの奥底。ダンジョンはまだ続いている。


 僕はその奥底を見据えると、昂る高揚感を抑え、その先へと進むことを決める。


「今の僕なら……」


 確かな確信が僕を突き動かす。もっとやれる、間違いなく。

 力の脈動をその身に感じながら、瞳に映るダンジョンの奥底を目指す。


 魔物の死体に触れた瞬間に始まる『簒奪』を手早く行い、ドロップアイテムである魔石と牙を鞄に仕舞うと僕は更に奥へと足を踏み入れた。


 


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