水浴び
「それじゃあ寒いだろうけど、さっさと水浴びするぞ」
そう言うと、カバンから石鹸とタオルを出した。
あら、思ったよりきちんとユアンを洗ってくれるらしい。
ユアンは服を脱がずにそのままためてある水に入る。
「いつものように服ごと洗うけどいいか?」
なるほど、服ごと身体も一気に洗えて一石二鳥なのか。
青年は石鹸を泡立てるとゴシゴシ遠慮なくユアンを洗っていく。
「お前、本当に綺麗な顔してるのにもったいないよな……でも俺達平民の世界にきたらすぐさらわれそうだし……汚いくらいがいいのかもな」
青年は慣れているのか手ぎわがよい。
「俺の弟も生きてたらお前くらいなんだ……貧しくて病気で亡くなったけど」
ふむ。平民の世界は貧富の差が激しそうだな。
何も知らずに飛び込んだらユアンなんかいい鴨にされそう。いろいろ分かったうえで行動しないと。
「髪も洗うぞ。……染め粉が落ちてきてるな。また洗い終わったらくすんだ色に染め直すぞ」
青年はテキパキとユアンを洗っていく。
「よし。終わり」
そこには見窄らしい服でも隠しきれない高貴なオーラを放つ絶世の美少年がいた。銀髪が月明かりに照らされて宝石のように輝いて見える。
『ユアン……?』
いや、顔がいいとは思ってたけどここまでだとは……。
劇的ビフォアーアフターね。
「うん」
同一人物には見えない変わり方である。
「じゃあ、髪を染めるぞ」
そう言うと青年はユアンの髪に何かを塗り込んだ。
「せっかくの綺麗な髪を汚すのは残念だが、これもお前が目立たずに生きて行くためだ。我慢しろよ」
ユアンは全く気にらないのか素直にされるがままである。
白銀だった髪はどことなく薄汚れた灰色に変わった。それでもこざっぱりして昼までの姿とは別人である。
「よし。完了。タオルでふいて風邪をひかないように古い服を脱いで新しい服に着替えろ」
ユアンは言葉に従い、古い服を脱いでいく。胸の宝石はと少しハラハラして見ていたが、なぜか今は見えない。
出し入れ可能な宝石?または自分の意思で見えないようにできるとか……。また謎が一つ増えた。
服を着替える間に、古い服は青年が絞ってくれている。
ちなみに水浴びの間私は堂々と地面に置かれていた。私も洗いたい……。
「お、なんだそのぬいぐるみ。猫の獣人か?行きは見なかったから服に挟んで持って来たのか?」
ユアンはこくりと頷く。
「うーん。このままだと濡れるな……あの部屋で濡れたままにしておくとカビがきそうだし……よし、このタオルやるよ」
カビ!?考えただけでゾッとする。水浴びはこっそり後でできるけど乾かすのが難しいか。
青年はユアンに古いけど乾いたタオルを渡す。
「あリがとう」
ユアンは嬉しそうに微笑んだ。
「お前も笑えたんだな……このくらいしかできないけどな」
このくらいが大切なのだよ青年。
私も身体がカビるのは勘弁したい。
ユアンも上手にあリがとうが言えてるし、なかなかに収穫の多い外出になった。
「戻ろう」
そして月明かりのなか来た道を戻る。月が二つ出ているため思っているより明るく感じる。そのまま調理場へと戻りかけた時、青年の足が止まった。そしてこっそりユアンに伝える。
「あっちの奥、かすかに明るいほうは墓地がある。アンデッドが出る噂もあるから夜は近づくなよ。反対の暗い方は畑や果樹園がある。……と言ってもお前は自由に出られないか……ま、覚えておくといい」
ふむ。墓地にアンデッドか……。アンデッドは怖いけど墓地はもしかしたら使えるかも。後は畑に果樹園ね。良いことを教えてくれた。
「料理長戻りました」
「忙しいんださっさと犬っころを部屋まで送ってこい!!」
「はい!」
青年と共に部屋まで戻る。
「服は机かチェストの上に広げて乾かすといい。じゃあまたな」
そう言い残すと部屋を出て行った。
ここから調理場まで約5分。往復だと10分か……この小さな身体で歩くことを考えると倍はかかるかも。何にしろユアンの食事が足りないようならこっそり夜中に忍び込めそうね。
ユアンは服を広げると疲れたのかそのままベッドへ直行した。
「ねる……」
そして私を抱きしめたままくうくう寝息を立て始めた。
ま、そりゃあ疲れたわよね。
『おやすみなさい』
明日は寝るときの言葉も教えないと。
ユアンが寝入ったの見届けると私は目を見開いた。
さて!まだ私の活動時間は残っているはず。せっかくだから少し動いてみたい。可能なら隣の部屋くらいに侵入できたら……今ならみんな働きに出かけているから人もいなさそうだし。
よし。とりあえずはユアンの腕から抜け出し……せない!!
ユアン、どんだけきつく抱きしめてるのよ!!
ぬいぐるみの手を使って脱出を試みるが、全くユアンの腕から抜け出せない。
ふぬぬぬぬぬぬ
……無理ね。
じゃあ逆に小さくなって抜け出したら?
とりあえず試そうと思うが、ユアンの締め付けがキツくて1ミリも動かない。
ユアン!!!!
結局、抜け出そうともがいているうちにリミットの30分が経ち、身体が動かなくなった。
ユアン——!!!!
当のユアンは幸せそうな顔をして寝ていた。




