獣人
窓から差し込む光がだんだん薄れていき、部屋が夜の帷に包まれた頃、ベッドの上のランプが灯った。
それをじっと見つめる私。
果たしてランプは電気か、魔法か?
答えは……
分かるわけないでしょう。
遠くで灯るランプを見てそれが電気か魔法かは私には判断がつかなかった。電気も最近は時間でオートでつくとか普通だし。ま、前世電気のプロでもないから仕方がない。
ということで、そのままユアンとともにベッドでじっとしている。万が一ユアンに優しい侍女が来ることを考えて、動ける時間は残しておきたい。
と、ユアンが私を抱えてムクリと起き上がった。
「……くる」
どうやら夜ご飯を届けに侍女がやってくるらしい。でもまだ音も聞こえない。ユアンはどうして来るのが分かったんだろう。お腹が空き体内時計が知らせたとかかな。
『ユアンの言ってた侍女が来るの?』
「……ちがう」
いや、何で分かるの?まだ私には侍女の足音も姿も見えない。
『何で侍女が来るのが分かったの?』
「あしおときこえる」
『足音?』
私にはさっぱり聞こえない。もしかしたらユアンは耳が良いのかも。それか、人に見えるけれど獣人とか。異世界あるあるだよね。それも足音で誰がくるのか判断できるとしたらなかなかすごい能力である。スパイとか探偵とかになれそうね。
そんなことを考えているとユアンの言うようにドアが開き侍女が入ってきた。朝とは別の侍女である。
「……もう、何で今日に限って私なの。ついてないわ。この部屋掃除してないからホコリっぽくて嫌なのよね」
嫌味を言いながら机にどんとトレーを置く。
やはり夜ご飯もスープのみである。しかも置き方が乱暴だったせいか、スープがトレーに溢れている。
ユアンは何も言わずに朝と同じように直接顔をつけてスープを飲みほす。トレーの上のスープもお構いなしで飲んでいる。
「……はー本当にみすぼらしいわね。でも、毎日これだけしか食べなくても死なないって、獣人どもがどれだけしぶといかがよく分かるわ。……そういや、あんた今日は水浴びもさせるらしいから、準備しておきなさい」
ユアンはその言葉にこくりと頷く。
「あら、あんたその人形何?」
どうやらユアンが抱えている私が目に入ったらしい。
ユアンは隠すように私を後ろへとやった。
「あら、一丁前に隠すなんて……なんだか気にくわないわね。欲しくもないけどよこしなさい」
そう言って私に手を伸ばす。
「だめ!!!」
ユアンは盗られまいと私をぎゅっと握りしめた。
「こいつ、よこしなさい!!」
侍女は私の腕を引っ張るが、ユアンが一歩も力を緩めないため、今度は足でユアンを蹴りはじめた。
「この!この!よこしなさいよ!!」
侍女はガンガン足で蹴りまくる。
蹴られる中でもユアンは無言で私をぎゅっと抱きしめ続ける。
なんかできないの、なんか!!!
この状況で見ているだけは辛すぎる。ユアンのために何か侍女の気をそらさないと……。
といってもぬいぐみの私に打つ手は思いつかない。
『ユアン、私を離しても大丈夫!!』
このままではそうでなくても体力の無いユアンが、怪我で大変なことになる。侍女に持ち去られてもいざとなれば善行を積んでここに戻ってくればよいだけである。
「いや!!はなさない」
「生意気なのよ、早く寄越しなさい!!」
「いや」
侍女は遠慮なくユアンを蹴り続ける。
この女、いつか絶対に後悔させてやる。
私は歯をギリギリと噛みしめる。
なんかできないのなんか。侍女の苦手なもの……前世のゴキ○リとか出せないかしら。
『ユアン、侍女の嫌いなもの知らないの?ゴキ○リとか……』
「……ゴキ○リ?」
ユアンは私の言葉を復唱した。
「ひっ」
侍女はユアンの言葉に私の腕を離すとユアンから距離をとった。
「どこ!どこにいるの?やっぱりこんな汚らしい部屋早くでないと。そのぬいぐみもきっと虫にやられているに違いないわ。もう、いらない!!」
侍女はトレーを掴むと、捨て台詞を吐き逃げるように部屋を立ち去った。
いや、こちらの世界にもいて嫌われているのね。黒いアイツ。と言っても全く別の生き物の可能性もあるけど。
何にしろ追い払えて良かった。
ピロン
この状況に似つかわしくない音が部屋に響く。
今回はわかりやすいわね。あの侍女を追い払う手伝いをしたからレベルアップしたのだろう。
そんなことより、ユアンである。あれだけ蹴られていたのだ怪我もしているだろう。
『ユアン、怪我は?』
私は慌ててユアンの腕から抜け出るとユアンと顔を合わせた。
「ミケ、たってる」
いや、そうか今まで動いたことなかったもんね。
『短時間なら動けるの。それより背中を見せなさい。怪我してたら手当てしないと』
といってもこの何もない部屋ではろくな手当てもできないかもしれないけど。何もしないよりはましだろう。
「だいじょうぶ、けがない」
いや、あれだけ本気で蹴られていて怪我がないのはあり得ないだろう。
『とりあえず服を脱いで背中を見せて』
ユアンは素直に頷いて上の服を脱いで私に背中を見せた。
念の為ユアンの背中を触ってみる。汚れているが、確かに怪我している様子はない。
「ユアン、丈夫なのね」
ユアンは嬉しそうにこくりと頷いた。
いや丈夫にもほどがあるでしょう。怪我がなくて良かったけど。侍女が言っていた獣人の能力に関係しているのかもしれない。
『ユアンは獣人なの?』
念の為ユアンに確認してみる。ユアンは知らないかもしれないけど。
その言葉を聞いて、ユアンはビクッと肩を震わせた。
「……ミケもじゅうじんきらい?」
そして不安そうにこちらを見る。
そうか。ユアンはいろいろな侍女に獣人と蔑まれてきたから私にも嫌われないか不安なのね。
『嫌いじゃないわ。ただ、あまり良く知らないけど』
好きも嫌いもない。いろいろ気にはなるけど。
獣人がいるならお約束のエルフやドワーフもいそうだし。
その言葉を聞いてユアンの表情が一気に明るくなる。
「ユアンはんぶんじゅうじん。かあさまじゅうじん。とおさまにんげん」
ユアンも少しは自分のことを知っているようである。
つまりユアンは半分半分の血筋でおそらくここは人族至上主義の国と。で、身体は丈夫と分かった。




