アンデッド
目の前にはアンデッド。
古びたローブをまとい、見えている部分はもちろん骨である。ゲームの世界でしか見たことが無い存在が目の前にいた。
ユアンは震えもせず、じっとアンデッドの様子を伺っている。
アンデッドは私たちの5メートルくらい前に来るとピタリと立ち止まった。
「あ……あ……ああ……」
こちらを見て何か訴えかけるように呟く。
こんな時こそチートな異世界言語を理解する私の能力を発揮する時!!
アンデッドの言葉が……
もちろん分からない!!
いや、言葉ではなくただのうめき声なのかもしれない。
ユアンは無言でアンデッドを見つめる。
「あ……あ……ああ……」
どうやらこちらを襲ってくる雰囲気は無い。
今のところだけど。
膠着状態が続く。
「あ……あ……あ……」
いや、訴えかけられても何を言っているか分かりません。……もしやパペットの私もモンスターの一種で、何か私に訴えているのかしら。
ただ、全く意思疎通はできません。
このままこうしていても時間が過ぎるだけね。
『ユアンとりあえず、今日のところは部屋に戻りましょう。アンデッドを振り切って逃げるわよ』
ダッ
ユアンは私の言葉に頷くと、一気にアンデッドの横を走り抜けた。
速い速い速い!!
いや、車と変わらない位の速さじゃない?
時速は分からないけれど、体感では100キロ近く出ているように感じる。
キツく抱きしめられているので、後ろは振り返れないけれど、アンデッドがついてきている気配はない。
あっという間に宿舎の前に着いた。
行きは10分くらいかかったけれど、帰りは3分くらいで着いたわね。
ユアンは息一つ切らしていない。
『ユアンとりあえず部屋に戻りましょう。来たベランダに登れる?』
ユアンはこくりと頷くと、一気に飛び上がりベランダの上に立った。
そして一緒に窓から部屋へと入る。
『お疲れ様』
いや。いろいろあった外出になったわね。
「おつかれさま」
ユアンは私に微笑んでくる。
『楽しかった?』
ユアンは大きく頷いた。
最後にイレギュラーはあったけれどなかなか実りの多い外出になったようで何よりね。
『また行きたいわね。でも今はとりあえずは寝ましょう』
ユアンはもう一度大きく頷くと、素直にベッドに横になった。そしてすぐに寝息を立てて寝始める。
ユアンも初めての外出で、疲れたのね。
ふぁー—。
私も何だか疲れた。
やっぱり初めての外出で気を張っていたのかもしれない。
アンデッドのことは気になるけれど、今考えても仕方が無いし。
ゆっくりと瞼を閉じると、そのまま深い眠りについた。
朝いつものように起きて朝食をとる。
「……くる」
この声の感じ、嫌な侍女がやって来る日ね。
ガチャ
いきなり扉のドアが開いて、つかつかとトレーを持った女が入ってくる。
「今日の食事よ。さっさと食べなさい」
ドンとテーブルにトレーが置かれる。
中には水っぽいスープが一つだけ置かれていた。見るからに栄養が無さそうな食事。この侍と無口な侍女の日はハズレである。
ユアンは私を横に置くと女に言われるがまま皿のスープを犬飲みした。
「……あんた、最近何だか小綺麗になった?まさか、勝手に外に出てるんじゃないでしょうね。」
侍女は訝しげにユアンを見つめる。
ヤバい。
最近食事もマシになったし、クリーンもかけてもらってるから以前よりは外見もマシになっている。
やっぱりバレる可能性が高くなって来ているわよね。
……早く、何とかしないと。
「水浴びの次の日なのかしら。とにかく、余計な真似はするんじゃないわよ。何かあったら罰せられるのは私なんだから。それに最近外はアンデッドが出るらしいから、あんたなんて即のろわれて死ぬわよ」
侍女はそれ以上外見について触れなかったので、ほっと胸をなでおろす。
「アンデッド?」
「外に出たことのないあんたは知らないだろうけど、外の世界にはうじゃうじゃモンスターがいるの。アンデッドは恨みを持ったまま死んだ人がなるモンスターよ。恨みが深ければ深いほど、モンスターも強くなるらしいからかなり強いアンデッドなんじゃない」
なんで強いと分かるのかしら。
ユアンに聞いてもらうよう促す。
「なんでつよいの?」
「あのアンデッドは殺された第一王子なんじゃないかって話よ。ま、噂だから本当かどうかは分からないけどね。第一王子ならかなり武力も魔力も強かったから、今王城はその対応に追われてる……って、何こんなやつ相手に話してるのかしら。とにかく勝手な真似はするんじゃないわよ」
そう捨て台詞を吐くと女はトレーを持ち上げ来た時と同じドアから去っていった。
アンデッドが第一王子……?
あれが……?
ま、所詮は噂だしね。
それにしてもこの侍女やっぱり気にくわない。
いつも高圧的だし。
前に私のことブサイクって言ったし。
ユアンにとって有益でもないし、来ないようにしむける方法は何かないかしら……。




