外出 1
「人があまりいない時間ですか?」
リリが訝しげな声をあげた。
『ええ』
ユアンがこくりと頷く。
いろいろ考えていたけど、正直このままこの部屋と隣の部屋の往復だけでは手詰まり感がつよいのよね。
ユアンが側を離れたがらないし、部屋だけで過ごすのは精神衛生的にもよくない。
というわけで……
一緒に行ったら良いんじゃない?
という結論に達した。
善行は積めないかもしれないけれど、現状は打破できる。
ユアンは部屋を出るなと言われているけれど、隔日の朝とたまの夕方しか侍女は来ないし。
人目につく朝には戻って来れば何とかなる気がする。
「……そうですね……逃げたりしませんよね?」
リリがこちらを伺うように確認する。
ユアンはもう一度こくりと頷いた。
「それでしたら……深夜であれば人通りはほとんど無いかと。私たち使用人は二交代制なので、朝からよるまで勤務と夜から朝まで勤務のどちらかで動いています。交代時間は人の行き来が多いですが、それ以外は基本的にこちらの宿舎には戻ってきません。…ただ、人に会わない保証はありません」
へぇ。二交代制か。
夜勤みたいなのがたまにある感じかな。
深夜なら人の行き来は少なそうだけど、何か急用で深夜に出歩く人がいないわけではないし。
やっぱりリスキーか……。
どうしよう。
「本当に逃げたりしないですよね!!もしこれで私のせいになったら……」
リリが顔色を変える。
いや、情報をしゃべる前に聞きなさいよ。
『ミケを信じなさい』
「ミケをしんじなさい」
「はい!ミケ様を信じます!!」
リリは私を見つめて頷いた
リリ……。
本気で逃げる気だったらどうするの。
相変わらずリリはチョロい。
チョロすぎて少し心配になる。
『最近何か困ったことが無いか聞いて』
リリに去られたら困るので一応聞いておこう。
「こまったことある?」
「私ですか?特にありません。あの件もその後音沙汰無しですし……でも同室の子が第2王女付の侍女に選ばれて困っています」
うん?
第2王女はまだ真っ当そうだから良さそうだけど。
給料もなんとなく上がりそうだし。
私はユアンに続けるように促す。
「なぜこまってるの?」
「その子はお茶を淹れるのが上手なことを見込まれて、第2王女付の侍女に選ばれたんですが、この間みたいに誰かに何か入れられて自分のせいにされたらどうしようと怯えてるみたいなんです」
確かに。ずっとポットを見張ることもできないし難しい問題である。
ただ、この間も第2王女は一瞬で毒があるのを見抜いたから、スキルか何かで毒を判別できる力があるのかもしれない。もしくは経験則か。そう考えるとそこまで気にしなくても良さそうだけど。
ただ、平民の命は軽いから何かあれば確かに首が飛ぶ可能性は高い。
『銀のスプーンを使いなさい。毒が入っていたら黒く変色するわ』
「ぎんのスプーンをつかいなさい。どくがはいっていたらくろくへんしょくする」
「そうなんですか!!いいことを聞きました。さっそく教えてあげます」
全部の毒に対応しているかは分からないけれど。
気休めにはなるでしょう。
どの道、私の話を聞かなくても毒を入れられたら罰せられるのは変わらないし。
リリはトレーを持ち上げて、部屋から出て行こうとする。
『ちょっと待って』
ユアンがリリの腕を握る。
『いつものやつやっていって』
「いつもの……」
「はっ……忘れてました。すみません。クリーン。では私は仕事に行きます。早く行かないと朝食食べ損ねる」
そう言うとトレーを持ち上げ、慌てて部屋を出て行った。
最近リリには必ず帰る前にクリーンをかけてもらっている。
ぬいぐるみの私にもかかるのか、何とも言えずスッキリした感じになるのよね。
それはユアンも一緒で、ここ最近はどことなく小綺麗な感じがキープできている。
さて、どうしよう。
正面突破は避けるべき?
ならば道は一つ。
『ユアンは窓から下に飛び降りれる?』
何言ってんのと言うなかれ。
天井まで届くジャンプ力なら行けるんじゃない?
廊下が使えないなら、窓から出ればいい。←極論
「わからない」
いや、ま、そうよね。
『一緒に外出できたらと思って』
「できる!!」
目がキランと輝き、大きく頷いた。
いや、行きたいのは分かる。分かるから返事がすぐに変わったんだけど、本当に怪我なく降りられるかが問題よね。
試そうにも、試し方が無いし……。
ま、やってみますか。
何とか現状を打破したい。
ちょっとやそっとじゃ傷つかないユアンなら多分大丈夫なはず。
『決行は深夜ね……とりあえず深夜まで寝ましょう』
ユアンは頷くと、私を抱えてベッドに寝転んだ。
『そういえばユアン。今さらだけど、もし外に出て行ったのが見つかたらどうなるの?』
「わからない」
ふむ。ダメと言われているけれど、出たことが無いから罰も分からない感じね。
ただ、ユアンを殺す気なら既にそうしているだろうから、何とかなるかしら。
私が考え込んでいると、ユアンが笑顔を向けてくる。
「ミケとがいしゅつ」
いや、本気でユアンは可愛い。
こざっぱりして、肉付きも少しマシで美少年感が出てきた。
私じゃなくてもおそらくころっといきそうでる。
ただ、この調子でいくといつか誰かに何かバレそうだから、そういう意味でも何とかしなければいけない。
『ええ、頑張りましょう』
とにかくやってみましょう。
「うん!!」
体力温存。
私はユアンとともに眠りについた。




