雨降って地固まる
「持って参りました!!」
息を切らせてリリが部屋へ入ってくる。
「先ほどは大変申し訳ありませんでした」
レアルの前にトレーを置くとリリは土下座をする。
不敬罪に問われないかと身体が少し震えている。
「いや、気にしなくとも良い。少なくとも私には先ほどの食事は必要なかった。身体も起こせ」
頭をあげたリリは意味が分からずに困惑している。
「そなた、先日の件で部屋にいた侍女だな」
レアルに問われると、リリはビクッと大きく身体を震わせた。
「……はい……いいえ……私は、私は……」
恐怖からか答えが支離滅裂である。
「心配せずとも罪に問う気はない。安心しろ。ただ、単にお前の運が悪かっただけだ。いや、助かったのだから運が良いのか……何にしろ、この話はこれで終わりだ」
レアルは素早く食事を終えると、皆に他言無用と告げ第2王女の元へと戻った。
「……何だったの?」
どことなく重苦しい雰囲気が残る中、リリだけが状況が分からずに困惑している。
「そう言えば2人……」
「……知らないほうが良いです」
セリンがぼそっと呟き話はそこで打ち切られた。
ちなみに溢れた食事はトレーごと騎士が回収して行った。
私は……再びセリンに拾われてポケットの中に隠されている。
良かった。
セリンがすぐに気がついて拾ってくれて。
リリの件も犯人が捕まったし、とりあえず一件落着ね。
「あの……私ここで猫のマスコットを見た気がするんですが……」
リリが怯えたように呟く。
こっちの問題は現在進行系でした。
「見ませんでしたよ」
さらりとセリンが嘘をつく。
「でも……確かに……」
「あの、詳しくは分かりませんがお疲れなのでは?疲れついると見てないのに見てしまうことが起こるらしいです」
……セリン、意外とさらっと誤魔化せる人のようである。
なんか思ってた人物と違うかも……。
「そう……そうですよね。私やっぱり疲れてるんですね……」
リリは上手くセリンに丸め込まれている。
そうこうしているうちに、侍女長が現れ今日の仕事の終わりを告げられた。
皆足早に宿舎へと戻る。
私もセリンとともに宿舎へと戻ってきた。
セリンは私をチェストの上に戻す。
「……あなたは魔道具ですか?」
セリンは私の目を見つめて言った。
「ポケットから飛び出していました」
セリンにバレた。
いや、別にバレても良いのか……。
でもどうすべきかしら……。
「答える必要はありません……ただ、明日には元の大きさに戻ってくれていると助かります。ユアン様との約束だから」
そう言うと、セリンは部屋から出て行った。
ふ——。
濃い1週間だった。
最後の最後でセリンに動くことがバレたけど、問題になるなら既にセリンが問題にしているはず。
とりあえず、大きさだけ戻そう。
『元に戻れ』
それにしても人捕まりすぎじゃない?
おまけにすぐ殺されるし。
早いところここを出ないと、いつ同じ目にあうか分からない。
まぁ、その分私がレベルアップしたのはありがたいけれど。
そうレベルアップ!!
いろいろありすぎてまだ確認してなかったのよね。
『ステータス』
「美亜 30歳
呪い パペット化
善行レベル 6
スキル 1日4時間だけ動ける
ミニマム
持ち物 善行カバン レベル6 容量 見た目の10倍
毎日カバンからリンゴ2個とパン2個と牛乳2本、ベーコンがでてきます」
新しいスキルは無しか……でも活動時間4時間!これだけあればほぼ何でもできる。
明日はいよいよユアンのところに帰る日ね。
元気だといいのだけど。
次の日同室の皆がまだ寝静まっている頃、私はセリンにそっと抱えられた。
セリンは暗い廊下を歩き、ドアをノックする。
「ユアン様、ぬいぐるみをお持ちしました」
ユアンはドアが開くやいなやセリンから私を受け取るとぎゅっと抱きしめた。
見た所ユアンに大きな変化はない。
いや、少しだけだけど肉付きが良くなった気がする。
『ユアン、ただいま』
ユアンは私を見て嬉しそうに微笑んだ。
「ミケ、かえってきた」
「ユアン様、そのぬいぐるみですが……」
セリンが何かを言いかける。
「ミケ!」
「そうミケと言うのですか……良いぬいぐるみですね」
セリンは私について触れることなく、お辞儀をしてそのまま部屋を退室した。
「ミケ、ミケ、ミケ!!」
ユアンは私をぎゅうぎゅうに抱きしめる。
ぎゅうぎゅう過ぎて私の形が変わりそう……。
痛みはないけれど、ユアンは意外と力が強いから、このままいけば口から綿がでそうである。
壊れるのはマズイ。
『ユアン、ストップ。ストップ。力を緩めて』
その言葉を聞いてユアンは力を緩めた。
「ミケ」
私に頬ずりするとユアンは私と目線を合わせた。
「ミケやくそく」
『ええ、ちゃんと帰ってきたでしょ』
「ユアンもまもった」
『ちゃんとご飯を食べて、運動して、本を読んだ?』
「ぜんぶやった。ミケによみきかせする」
ユアンは私を横に置き、本を手に取った。
「アーサー王の伝説……」
いや、アーサー王はもうお腹いっぱいです。
次は別の本にしよう……。
嬉しそうなユアンの声を聞きながら、私はニッコリと微笑んだ。




