猫生…?
目を開けると見慣れぬ景色が広がっていた。
どうやら無事に(?)転生したらしい。
ここはどこだろう?
とにかく薄暗く殺風景な部屋である。
物置き部屋?
とりあえず辺りを見渡してみる。
丸まった毛布が無造作に置かれたベッドと机、小さなチェストが一つ。しかもどれも薄汚れていて汚らしい。窓が一つありそこから光が差し込んでいるが、空気はどことなく淀んでおり、掃除もされていないのか床も埃だらけである。
とりあえず猫になったらしいけど、こんな汚らしい部屋にいたら私まで汚れてしまう。さっさとこんな部屋からは退散しないと。
辺りを見渡し終わり、私は自分の身体を動かし…………
……あれ?
自分の身体なのにうんともすんとも動かない。
人から転生したから、身体の動かし方が分からないのかも。
うん、うん唸ってみるが。ピクリとも身体は動かなかった。
というか感覚が全くない。
どうなってるの!!
このままじゃ善行どころか、干からびるまでこの部屋にいなくちゃならなくなる。
誰か、誰かいないの!?
『ニャ――ニャ――』
叫ぼうとして気づく。
声も出ない!?
ちょっと、本当にどうなってるの!!!
かろうじて動くのは目だけである。それも今見えている範囲しか動かない。
慌てて下をむいて自分の下半身を確認する。
うん……?
『猫……?』
白地にオレンジと黒の模様、神の御使いと同じ色合いで、腕が2本、足が2脚……。肩掛けのカバンが1つ……。どうやら座る体制で壁に寄りかかっているようである。
いや、ちょっと待って。
猫が人と同じような座る体制で壁に寄りかかれる?
本当に猫?
毛並みといい形といい猫というよりは二足歩行の猫のぬいぐるみのような……。
紛うことなく猫のぬいぐるみである。
『ちょっと神!!猫生って言ったわよね!!
ぬいぐるみなんて聞いてない!!
身体も動かないし、どうしろって言うのよ!!
ねぇ、ちょっと聞いてるの?
なんとかしなさいよ!!
せめて本物の猫に変えてよ!!』
ひとしきり叫んでみるがもちろん声は出ず、ただただ時間が過ぎていくだけである。
……いや、本当にどうしろって言うのよ。
「……良き猫生を」ってどこが猫生なのよ。
ぬいぐるみは生きてないわよ!!
……ってあれ。
確か最後になんか言ってたような……。
困ったらステータスを開けとか……。
とりあえず今困っているからやってみよう。
『ステータス!!』
なんとなくノリで叫んでみる。
目の前に半透明の画面が浮かぶ。
「美亜 30歳
呪い パペット化
善行レベル 0
善行を積めばレベルが上りスキルを獲得できます
持ち物 善行カバン レベル0 容量 見た目通り
毎日 1個カバンからリンゴがでてきます」
何これ。
この画面、前世で流行ってた異世界ゲームの仕組みにそっくり。レベルとかスキルとか、今流行の異世界転生しちゃったのかしら……。
魔法とか使えたり!?
それはちょっと楽しみである。
それにしても30歳って私の死んだ年齢じゃない!!
こういうのって若返りがマストなんじゃないの!!
って、違うところに気を取られていたけれど、呪いパペット化って、やっぱりぬいぐるみになってるじゃない!!
善行を積めばレベルが上り、スキルを獲得できるらしいけれど、ぬいぐるみで身体も動かないのにどうやって善行を積めば良いのよ!!
はー。
積んだ。
うまい話にはやはり裏があるのね。
悪女はこのまま放置ってことかしら。
とにかくどうもできないからふて寝でもするしかない。瞼は……おりる!!目は閉じられるのが分かった。
目をパチパチさせていると、ベッドの上にある毛布がかすかに動くのを目の端にとらえた。
何?
じっと毛布の方を見つめる。
もぞもぞと動く毛布の中で光る二つの金の瞳と目が合った。
そのまましばらく見つめ合う。
なんとなく目が離せない。
と、毛布から薄汚れた子どもが現れた。
年齢は不詳。とにかく痩せているし、小さい。灰色の髪に金の瞳。痩せているせいか金の瞳だけがギョロリと大きく目立っている。服ももちろん薄汚れている。
灰色の髪に金の瞳……ね。やっぱり異世界転生は確実ね。
しかもぬいぐるみとして。
カバンからコロリとリンゴが転がる。
今!?
リンゴが出てくるの今なの!?
それを見た子どもがこちらへ近づいてくる。
子どもの姿がどんどん大きくなる。
いや、巨人?というか、座っている私が子どもの半分くらいの大きさなのか。子どもは目の前まで来たかと思うと、おもむろにカバンの横のリンゴを手に取った。
一日一個の謎のリンゴである。なぜ神がそんな能力をつけたのかは不明だけど。
子どもは貪るようにリンゴにかじりついた。
あっ、私のリンゴ!!
ま、どうせぬいぐるみの私には食べられないだろうから良いけど。
子どもはあっという間にリンゴを食べ終わった。
ピロン
うん?
『何の音?』
思わず呟いた。
「……おと?」
子どもが反応する。
子どもにも聞こえたのかな?
子どもの言葉は異世界言語だろうけど、ありがたいことに私には日本語に聞こえた。異世界チート能力ね。
子どもはおもむろに私を両手で持ち上げると、金の瞳でじっと私を見つめてきた。
「……しゃべる?」
いや、それがしゃべりたいのにしゃべれません。
「しゃべる?」
『しゃべれません』
聞こえないだろうけど、とりあえず返事をしてみる。
「……しゃべってる」
えっ……もしかして意思疎通できてる?




