3日目
転生(?)して3日目。
いよいよ今日あたり優しい侍女が来るだろうか。
目を開けると微笑むユアンと目が合う。
「ミケおはよう」
『ユアン、おはよう』
とりあえずユアンに朝ご飯を食べてもらう。
『ユアン。今日くらいに来そうじゃない?』
「……わからない」
ユアンはどことなく不安そうである。
『もし来たら、リンゴ6個分私はいないから、ちゃんとご飯を食べるのよ。あと運動と読み聞かせもね』
ユアンはこくりと頷く。
「……ミケかえってくる、やくそく」
『ええ、帰って来るわ。約束』
今のところユアンとしか意思疎通できないから、ユアンに何かあれば私もジエンドである。
何とかユアンには大きく成長してもらい、私の善行を手伝ってもらわないと。そのためには死亡フラグの立ちそうなこの場所から早く脱出したい。
「……くる」
どうやら朝ご飯を届けに侍女がやってくるらしい。
「優しい侍女?」
ユアンはこくりと頷いた。
やっぱり私には足音が聞こえない。ユアンは耳が良い獣人、ウサギとかの血を引いてるのかな。
『ユアン、私が言う言葉を繰り返してね』
ユアンは私をぎゅっと抱きしめる。
「ミケ、やくそく」
『ええ、じゃあ作戦開始よ!!』
トントンとドアをノックする音が響き、侍女が入ってきた。
確かに今までの侍女はノックも無しに入ってきたから、その辺はまともである。(まともの基準が低いけど)
「ユアン様、朝食をお持ちしました」
侍女が持ってきたトレーには、スープがのっていたが、具がたくさん入っておりまだマシに見える。
「あと、こちらのパンもお召し上がり下さい」
服からパンを取り出してトレーにのせる。
ユアンは相変わらずの犬食いである。ここを出られたらカラトラリーの使い方も教えないと。
「おいしかった」
ユアンのその言葉をどこか痛ましげな表情で侍女は見つめている。
『侍女さん、お願いがあるの』
「じじょさんおねがいがあるの」
『このぬいぐるみ1週間預かってほしい』
「このぬいぐるみいっしゅうかんあずかってほしい」
『1週間後に返しに来て』
「いっしゅうかんごにかえしにきて」
侍女さんは私を見て小さく頷いた。
「……お預かりいたします。1週間後に返しに参りますね」
『あリがとう』
「あリがとう」
『ユアンここからは言わないで良いわよ。1週間留守にするけど、できることを続けること。必ず帰ってくるから』
「……やくそく」
「はい、お約束します。何かご事情があるんですね。必ず1週間後にお返しに参ります」
ユアンは少しためらった後、私を侍女さんに渡した。どことなく目元が潤んでいる。
侍女さんはユアンから私を受け取ると、トレーの上にのせた。
「では、失礼いたします」
『ユアン、行ってきます』
ユアンは私の姿が見えなくなるまでずっと私の方を見つめていた。
ドアを空け、侍女さんは昨日とは逆の方向に歩く。
出勤時間なのか、昨日はほとんど会わなかった人がたくさん行き交っている。
2分程歩き、同じ階の突き当たりの部屋の前で侍女さんは立ち止まり、ドアを開けた。
侍女さんの部屋はユアンの部屋の倍程の大きさで、ベッドが4つ、その横にチェストがそれぞれ置かれていた。
「ここでいてね」
侍女さんはぬいぐるみの私に語りかけるとちチェストの上に私を置き、トレーを持ち直すと部屋を出て行った。
ふむふむ。4人部屋なのね。
探検はもう少し後が良いかな。とりあえずこの部屋の住人が帰ってきて、部屋の状況が分かってからの方が良い。
それまでは私も昼寝かな。
うとうとまどろんでいると、ガチャと音がして、誰かが部屋に入ってきた。
「……ヤバいわ……早く隠さないと……」
ユアンの部屋に2番目に来たあのヤバい(いたいけなユアンをさんざん蹴っていた)侍女が焦った様子で部屋を行ったり来たりしている。
「……窓から捨てる…でも誰かに見られていたら……どこか別の所にに隠すしか……何で急に部屋点検なんか……今まで1度も無かったのに……」
チェストを次々と開けてブツブツと呟く。
「……まさか……バレたのかしら……だったらあの女の……」
チェストを慌てて元に戻すと、くるりと向きを変えてこちらにやって来る。
もろに侍女と目が合った。
「この不細工な人形……あの獣人の……何でここに……あの女が取り上げたのかしら……と、この人形巾着を持ってるわね」
女は巾着を受け私から奪うと慌てて何かを入れてまた私に持たせる。
「……これなら万が一バレても私じゃないと突き通せるわね……そもそもあの女、良い子ぶって私はあなたとは違いますって態度、本当に気にいらないのよ。……あとは早く仕事に帰らないと」
ブツブツ独り言を言いながら、慌ててドアから出て行った。
しばらくじっと様子を見ていたが、先ほどの女が戻ってくる様子は無さそうである。
『それなら今やることは一択ね……』
私を不細工と呼んだこと許すまじ。
おまけにユアンをいじめたのも罪が重い
『ギルティ——』
目にもの見せてやる。
私は巾着をぎゅっと握りしめた。




