初めてのゴブリン討伐依頼
冒険者登録の翌日。
レイは朝から上機嫌だった。
宿屋の食堂で、机の上に並んだあんぱんとクリームパンを見つめながら尻尾をぶんぶん振っている。
「いただきます!」
そう言うと、あんぱんを一口。
「おいしい!」
続いてクリームパン。
「こっちもおいしい!」
セリナ・フィアは呆れたように言った。
「朝からよく食べるな」
「だっておいしいもん!」
アリサ・リリーが笑う。
「昨日も六個食べてただろ!」
「今日はクエストだから!」
「理由になってないぞ!」
レミナ・サリは微笑む。
「たくさん食べるのは良いことですよ」
アイリス・ノエルは短く言う。
「食費が心配」
「むっ!」
レイは頬を膨らませた。
みんなが笑う。
こうして朝食を終えた五人は冒険者ギルドへ向かった。
ギルドへ入ると、昨日の騒動を知る冒険者達が声を掛けてくる。
「お、パン坊主!」
「測定器壊した子だ!」
「今日もパン持ってるのか?」
レイは首を傾げた。
「パン坊主?」
「お前のことだよ!」
ギルド中が笑う。
レイは少し考えたあと、
「かっこいい!」
と笑顔になった。
「違うだろ!」
アリサが思わず叫んだ。
受付ではミリアが待っていた。
「おはようございます!」
「おはよう!」
レイも元気よく返事をする。
ミリアは依頼書を取り出した。
「今日は初クエストですね」
その言葉にレイの目が輝いた。
「クエスト!」
ミリアは依頼書を見せる。
【ゴブリン討伐】
討伐数:1体
危険度:Eランク
「これが今回の依頼です」
レイは紙をじっと見つめた。
「ゴブリン?」
セリナが説明する。
「一番弱い魔物だ」
「弱いの?」
「Eランクだ」
「じゃあ安心!」
レミナが笑う。
「油断は禁物ですよ」
アリサも頷く。
「でも初心者にはちょうどいいな!」
アイリスも一言。
「最初の一歩」
レイは拳を握った。
「頑張る!」
すると近くで聞いていた冒険者達が声を掛けてくる。
「初クエスト頑張れよ!」
「ゴブリンなら大丈夫だ!」
「怖くなったら逃げろよ!」
レイは胸を張った。
「逃げない!」
その姿に冒険者達は笑った。
「元気だなぁ」
「可愛いな」
「本当に男の子なのか?」
レイは即座に反応する。
「男の子!」
また笑い声が起こった。
その様子を少し離れた場所から見ている人物がいた。
ギルドマスターのガルドだ。
腕を組みながら静かにレイを見る。
昨日のことを思い出していた。
測定器。
壊れた水晶。
そして一瞬だけ見えた文字。
S。
世界には五人しか存在しない伝説のランク。
だが。
「考えすぎか」
ガルドは小さく呟いた。
どこからどう見てもレイは普通の子供だ。
パンを見つければ喜び。
褒められれば笑い。
怒られればしょんぼりする。
そんな子供だった。
「行ってきます!」
レイの元気な声で我に返る。
セリナ達は森へ向かって歩き出した。
街を出てしばらく進む。
レイは初めてのクエストが嬉しくて仕方なかった。
「あれ何?」
「鳥だ」
「じゃああれは?」
「リス」
「おおー!」
何もかもが新鮮だった。
アリサが笑う。
「本当に初めてなんだな」
レイは頷いた。
「森は知ってるけど街の外は初めて!」
レミナは少し驚く。
「洞窟の周りだけだったんですね」
「うん!」
その言葉に四人は少しだけ切ない気持ちになった。
しかしレイ本人は気にしていない。
今が楽しいからだ。
森へ入ってしばらく歩く。
アイリスが立ち止まった。
「いた」
全員が視線を向ける。
草むらの向こう。
小さな緑色の影。
ゴブリンだった。
身長はレイより少し大きい程度。
棍棒を持っている。
レイは初めて見る魔物に目を丸くした。
「あれがゴブリン?」
「そうだ」
セリナが答える。
「弱そう」
「まあ弱いな」
アリサも頷く。
すると。
ゴブリンがこちらに気付いた。
「ギギィ!」
棍棒を振り上げながら走ってくる。
レミナが声を上げた。
「レイくん!」
しかし。
レイは逃げなかった。
「危ない!」
そう言って前に出る。
次の瞬間。
反射的に拳を振った。
ドゴン!!
鈍い音が森に響く。
ゴブリンの体が吹き飛んだ。
数メートル先の木に激突する。
そして。
そのまま動かなくなった。
静寂。
レイは首を傾げた。
「倒れた」
セリナ達は固まる。
アリサが最初に口を開いた。
「え?」
レミナも目を丸くする。
「え?」
アイリス。
「え?」
レイだけが不思議そうだった。
「どうしたの?」
セリナは額を押さえた。
「いや……」
アリサが苦笑する。
「思ったより強かったな」
「ゴブリン弱かった!」
レイは嬉しそうだった。
実際、ゴブリンはEランクの弱い魔物だ。
だから四人もそこまで深くは考えなかった。
ただ。
少しだけ。
「力強いな」
とは思った。
その後、討伐証明のためにゴブリンの耳を回収し、街へ戻ることになった。
帰り道。
レイは上機嫌だった。
「クエスト楽しい!」
「そうか」
セリナが微笑む。
「またやりたい!」
「次も頑張ろうな!」
アリサが笑う。
その時。
レイがポケットをごそごそし始めた。
レミナが嫌な予感を覚える。
「まさか……」
あんぱん。
クリームパン。
あんぱん。
全員が止まる。
「いつ入れたんだ!?」
レイは得意そうに言った。
「非常食!」
アイリスが小さく呟く。
「もはや主食」
そして五人の笑い声が森に響いた。
こうしてレイの初クエストは無事成功した。
まだ誰も知らない。
この小さな少年が世界の運命を変える存在だということを。
そしてレイ自身もまた、自分の本当の正体を知らないままだった。




