第四話:ダイエット界の推しの方
私は、今の自分の体型がそんなに嫌いなわけじゃない。
健康診断の数値を見ても、「あー、まずいな」とは思う。でも、今すぐ生活に困っているわけではない。服も着られるし、子どもと遊べるし、日常は回っている。
なのに、なんでダイエットしたいんだろう。
たぶん理由は、「未来の自分が困る気がするから」だ。
坐骨神経痛はもともとあるし、体重が増えれば膝や腰への負担も増える。看護師をしていた頃、そういう人をたくさん見てきた。痛くなってからでは遅いことも知っている。
だから本当は、外を歩くのが一番いいのだと思う。
でも、去年から近所で熊の目撃情報が増えた。散歩コースだった場所にも普通に出る。正直、怖い。田舎の熊が出るは、ニュースの話じゃなく生活の話だ。
それで家の中でできる運動を探し始めた。
昇降台もある。ワンダーコアの小さいやつもある。でも飽きる。続かない。右10分、左10分とか考え始めると面倒になる。
そんな時に、インスタで好きなダイエッターさんの投稿を見た。
その人は100kgから始めて、何年もかけて60kg台まで落としていた。でも私が惹かれたのは体重じゃなかった。
「途中色々あっても続けていること」だった。
外食もするし、増量もするし、うまくいかない日もある。それでもまた戻ってきて、また続けている。
私はそこに憧れた。
たぶん私が欲しいのは、痩せた身体より、「続けられる自分」なんだと思う。
その人が「これだけは続いた」と言っていたのがステッパーだった。
同じものを買おうと思った。ホームセンターにはなくて、夫にAmazonで見せたら「いらないでしょ」と言われた。そこで諦めるパターンを私は何度もやってきた。
でも今回は、別のホームセンターへ行って、自分で買った。
メーカーは違うが、ステッパーはステッパー。
機能にそこまで違いはない、ヒト科ヒト属まで合ってるようなものだろう。うん、合ってる。
よし、やってみよう。
そんな感じで始まった。
今のところ、娘と息子の方が積極的に使っている気もするけど、それはそれで悪くない。
たぶん私は、「何キロ痩せたい」より先に、「十年後も自分の身体と喧嘩せずに暮らしたい」を目指している。
***
と、ここまで書いていてなんだが、思考が綺麗すぎないかね? と自分で自分に聞いてみる。
インスタグラムの投稿主さんは、ダイエット開始当初99㎏だったのに、100㎏がキリがいいからとアイスと牛乳で体重を増やしていた。
その姿が最高にロックだった。
超笑ったし、超カッコよかった。
その前から投稿は好きだったけれど、あの増量回で完全に惚れた。
私のダイエット界の最推しである。
だから正直に言おう。
私は健康だけを理由にダイエットしたいわけではない。
もちろん膝も腰も心配だ。
将来の健康も大事だ。
でも、それだけなら多分ここまで語らない。
何か私は抱えている。
脂肪と一緒に抱えている。
長年積み上げた習慣。
途中で諦めた経験。
どうせ続かないという思い込み。
失敗したら恥ずかしいという気持ち。
頑張れない自分への苛立ち。
思考の癖。
傷。
特性。
そういうものを、たぶん脂肪と一緒に抱えている。
だから私は時々、痩せたいのか、変わりたいのか、自分でもよく分からなくなる。
体重計の数字を減らしたいのか。
それとも、
「また一日坊主だった」
を減らしたいのか。
「どうせ私には無理だ」
を減らしたいのか。
「まあいっか、今日も少しやったし」
を増やしたいのか。
自分でもまだ分からない。
ただ一つだけ分かることがある。
私はあの人のように、途中で転んでもまた戻ってくる人に憧れている。
百点満点の人ではない。
失敗しない人でもない。
途中で揺れても記録をやめない人だ。
体重が増えても投稿する人だ。
格好悪い日も隠さない人だ。
私はたぶん、その強さに憧れている。
だから今のステッパーは、ダイエット器具というより実験装置に近い。
私は何になりたいんだろう。
痩せたいのか。
健康になりたいのか。
継続できる人になりたいのか。
それとも、自分を諦めない人になりたいのか。
まだよく分からない。
だから、とりあえず今日も踏む。
考えるのはその後でもいい気がしている。
■2026/06/12■ (本日21時記録予定)




