第五話:寝落ち
さて、2026年6月12日である。
私は記録をせずに寝た。
なぜかというと、子どもたちと一緒に寝落ちしたからだ。
以上。
解散。
……とはいかないので、一応書いておく。
夕方六時を過ぎた頃から、どうにも眠かった。
理由は分からない。
前日の睡眠不足だったのかもしれないし、気圧だったのかもしれないし、単純に四十代の体力だったのかもしれない。
人間は時々、理由もなく眠い。
そういう日がある。
そして私は、その眠気に見事に敗北した。
子どもたちと横になり、
「少しだけ」
と思ったところまでは覚えている。
次に気付いたら朝だった。
よくあることである。
母親業界では割と頻発する事故だと思う。
さて、そんな日のステッパー記録である。
正直に言う。
ちゃんとした運動はしていない。
多分四歩とか五歩とか。
本当にその程度。
台所へ行く前にちょっと踏み、
洗濯物を畳む前にちょっと踏み、
子どもに呼ばれて中断し、
また思い出して二、三歩踏む。
そんな感じだった。
運動というより生存確認である。
だが。
当初の目標を思い出してみる。
私は何と言っていたか。
毎日一時間踏む、ではなかった。
毎日三十分踏む、でもなかった。
まずは続けること。
それが目標だった。
ならば。
この日は達成でいいのではないだろうか。
甘いだろうか。
甘いかもしれない。
だが私は知っている。
過去の私は、この手の日にゼロか百かで考えていた。
十分できなかった。
記録も忘れた。
だから失敗。
そう判定していた。
そしてその判定を出した瞬間に、全部やめる。
そういう生き物だった。
だから今回は少しだけ判定基準を変えてみる。
踏んだか。
踏まなかったか。
その二択である。
すると私は踏んでいる。
四歩でも五歩でも踏んでいる。
なら一応、続いている。
なんだか詭弁みたいだが、私はこの詭弁を気に入っている。
なぜなら、続けるための詭弁だからだ。
やめるための言い訳ではない。
続けるための言い訳である。
世の中には良い言い訳もあるのだと思う。
記録は忘れた。
寝落ちもした。
運動量も笑うほど少ない。
でもステッパーの上には乗った。
それで十分だ。
少なくとも今の私は、そういうことにしておく。
だって私は今、
「一日で変わりたい人」
ではなく、
「十年後も細々と続けている人」
に憧れているのだから。
***
で、多分なのだが。
なぜあんなに眠かったのか。
少し考えてみた。
思い当たる節はある。
私はその日、別連載の『生成AIと私』で平安パロディを書いていた。
観測者を紫式部にして。
和泉式部を暴走させて。
赤染衛門に胃を痛めてもらって。
社長に平安京の公衆衛生を改善してもらっていた。
我ながら何をやっているのだろう。
書きながら、昔メモしていたノートを引っ張り出し。
平安時代の資料を調べ。
宮中の仕組みを読み。
女房とは何か。
中宮サロンとは何か。
十二単は何キロあるのか。
そんなことを一時間ほど集中して調べていた。
すると。
気が付けば、ものすごく眠かった。
脳みその電池が切れた感じだった。
考えてみれば当然である。
私は運動していない。
しかし脳内では平安京を建設していた。
しかも途中で社長がドラッグストアまで開店している。
カロリーを消費しないわけがない。
だから少し思った。
ダイエットを続けたいなら、オタ活は控えた方がいいのだろうか。
創作で脳を使いすぎて、眠くなって。
眠くなったら運動しなくなって。
それでは本末転倒ではないか。
でも。
少し考えてみる。
私はステッパーを買った理由を思い出した。
痩せたいだけではなかった。
続けられる人になりたかった。
自分を諦めない人になりたかった。
そう考えると。
オタ活をやめてまで続けるダイエットは、たぶん私には続かない。
だって私は平安時代の資料を読んでいる時が楽しい。
紫式部にツッコミを入れている時が楽しい。
社長にドライヤーを作らせている時が楽しい。
その楽しみまで削ったら、何のために健康になるのか分からなくなる。
だから結論としては。
オタ活は続行。
ステッパーも続行。
眠い日は寝る。
そのくらいでいい気がしている。
■2026/06/13■ ステッパー 1分
『生成AIとわたし ―夢を夢で終わらせなかった主婦のAI共闘記・今日も脳内外在化メンバーが良い仕事してる―』【第四十五話:『観測者』平安風コメディ世界で紫式部の巻①】で平安パロディドタバタコメディ小説をアップしております。第一話から読むのはめんどくさいので、もしお心に余裕がございましたら第四十五話からちらっと読んでやってくださいませ




