第九話:なんとか続いてる
■ 2026/07/08■
現在の体重、60.5kg。
おお、減ってきた。多分水分だろうけど一応記録として残しておこうと思う。
ダイエットって体重だけじゃない。
本当は見た目の変化とか、写真とか、そういうのも大事なんだろうなと思う。
でも私は写真を貼る予定もないし、ウエストを毎回測りたくない。めんどくさい。
なので、とりあえず数字だけは置いておくことにした。
ただし。
この数字に振り回されてはいけない。
そう自分に言い聞かせながら、今日も現実からほんの少し目をそらした。
さて。
6月8日にステッパーを買ったので、気がつけばちょうど一か月が経っていた。
これが自分でも意外だった。
なんだかんだで、毎日何かしら踏んでいる。
もちろん、お腹が痛い日もあった。
眠くてどうしようもない日もあった。
そんな日は、
「一回だけ乗ろう」
と決めた。
ポン、とステッパーに乗る。
踏く。
終わり。
以上。
解散。
そして残りの時間は寝る。
それでいいことにした。
その日の自分に合わせて、ちょこちょこ形を変えていた。
すると不思議なことに、完全にやめることがなかった。
一分だったり、五分だったり。
気がついたらまた少し踏んでいた。
なんだこれ。
人間って案外、適当でも続くものなのかもしれない。
最初の頃は三十分踏くなんて、とんでもない話だった。
十分で十分頑張った。シャレになる。
三十分踏けた日は、コメントをいただいて嬉しくなっていた日だった。
やっぱり人はガソリンが入ると動く。
単純である。
そんなこんなで、一か月。
体重だけ見ると、劇的な変化はない。
でも、「運動する」が生活の中に少し入り込んできた。
これは結構、大きな変化なんじゃないかと思っている。
そして私は、相変わらずAIとおしゃべりをしていた。
ChatGPT。
Gemini。
Copilot。
もう、しょっちゅう話しかけている。
創作のこと。
子どものこと。
考えごとの整理。
そして自己分析。
夫と子どもたちへの愛と惚気と葛藤。
私はどういう人間なのか。
何ならできて、何が苦手なのか。
どうすると動けて、どうすると止まるのか。
そんなことを延々と話していた。
そこで、ふと思った。
「あれ?じゃあ、私がステッパーを続けるには、何を足せばいいんだ?」
「私の脳って、何があると喜んで動くんだ?」
「今回ステッパーが続かないからやーめたにならなかったのは、目標を地面から1センチ上の超ベイビーステップならぬマクロステップにしたから達成できた」
「私に特化した脳の報酬のステッパー長時間バージョンはなんだ?」
そう思った私は、いつものようにAIたちに相談してみることにしたのだった。
そこで私は、スマートフォンを片手にChatGPTに聞いてみた。
「私、K-POPとかJ-POP聴きながらだとステッパー踏けるんですよ。」
「でも、5分とか10分ならいいんですけど、20分、30分になってくると、なんかダメなんですよね。」
「なんででしょう?」
するとChatGPTは、私のこれまでの自己分析データを引っ張り出してきて、こう言った。
「たぶん音楽そのものが悪いわけじゃないです。」
「ただ、あなたの場合、脳の暇が耐えられないタイプかもしれません。」
なるほど。
確かに。
私の脳、めちゃくちゃ暇が苦手である。
放っておくと勝手に考え事を始める。
そして気づく。
あと二十分もある。
長い。
帰りたい。
まだ五分しか経ってない。
帰りたい。
するとChatGPTは続けた。
「オーディオブックとかどうですか?」
「しかも続きが気になりすぎないもの。」
「脳科学とか心理学とか、発達障害とか、スピリチュアルとか。」
「YouTubeには10分、20分、30分、40分くらいの聞き流し動画がたくさんありますよ。」
「あるいは、自分で書いた小説を音声読み上げして聞くのも面白いかもしれません。」
「創作の見直しもできますし。」
なるほど。
なるほどなるほど。
確かに私は、「これしかダメ」と決められると苦しくなるタイプだった。
今日は音楽。
今日は勉強動画。
今日はオーディオブック。
今日は自分の小説。
そうやって選択肢がたくさんある方が楽だった。
これがASDなのかADHDなのか、それとも単なる私の性格なのかは分からない。
でも、とにかく私はそういう生き物らしい。
じゃあ試してみるか。
私はスマートフォンを開いた。
YouTubeを起動した。
さて、今日は何を聞こう。
脳科学にするか。
心理学にするか。
発達障害の話にするか。
結局その日は、脳科学とADHDとASDの解説動画を選んだ。
そして再生。
ステッパー開始。
踏む。
踏む。
踏む。
話を聞く。
踏む。
「あー、これ分かる。」
踏む。
「へえ、そういう研究あるんだ。」
踏む。
「なるほど、扁桃体ね。」
踏む。
「学習障害って知的障害とは別なんだ、この先生の解説わかりやすいな」
踏む。
気づいた。
三十分過ぎていた。
しかも。
そんなに苦しくなかった。
むしろ、いい感じの速度で踏けていた。
「おお、これか。」
と思った。
私に足りなかったのは、やる気でも根性でもなかった。
たぶん、脳のエサだった。
足だけ動かしていると暇になる脳に、
「はい、どうぞ。」
と知的好奇心を放り込んでやる。
すると脳が勝手に食いつく。
その間に足が動く。
「頑張れ!」
「根性だ!」
「気合だ!」
よりは、
「ほら、新しい知識あるよ。」
の方が、私の脳には効くらしい。
四十年近く付き合ってきたのに、また新しい取扱説明書が見つかった気分だった。
先週からChatGPTで小説を書くとセリフの最後に「。」が付くようになりました。またバージョンアップしたようです。サイクル速いなあ。




