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3.獰狼の章-3

 アルバキースは、メンチシュケ森林にいた。ここは、アリートレイの北に広がるドルニンケス樹海の一区域だ。もう陽は落ち、闇のどこかからはフクロウの鳴き声が聞こえる。アルバキースの真剣な願いに、あの男は応えてくれた。立ち合いを承知してくれたのだ。男と男が、命をかけて、剣を交える。それも、子供の頃から憧れていた男と。その期待に、アルバキースの胸は高鳴った。光国がどうの、傭兵団がどうのという雑念はもはやない。自分の全身全霊をこめた剣技で、あの男と立ち合うだけだ。

 遠くの闇の中に光が見えた。あの男だろう。それほど待つこともなく、マイアノルテの声が聞こえた。

「待たせたな」

 昼間、聖堂で会った時とは、まるで別人のような口調と声色だった。いや、聖職者の方が別人なのか。その冷たい声は、アルバキースに子供の頃に聞いた告死人形の声を思い出させた。よく見ると、ボロボロのローブに、両手剣を背負っている。それもまた、告死人形を思い出させる。

「ああ、ずいぶんと長く待ったぜ」

 あれから26年。ついにその時が来た。アルバキースは、右手にロングソードを、左手にヘヴィシールドを持って、盾を前面に出すように構えた。マイアノルテは、両手剣グレートソードを持ち、切っ先を下に向け柄を顔の横に位置するように構えた。

「どこからでも、来い」

 マイアノルテの声を合図に、空気が張り詰めていく。アルバキースは、肚の底から声を上げた。地面を蹴る。馳せ違う。思っていた通りの男だ。小柄な体のどこにそんな力があるのか、と思うほどの剣圧だった。数回、馳せ違った。マイアノルテの両手剣とアルバキースの剣や盾がぶつかるたびに、足の先にまで衝撃が走る。斬られる隙は与えていないが、こちらも隙は見出せない。

 やはり魔法による剣技を叩きこむしかない。盾を前面にし剣を刺突の体勢で引いて構える。マイアノルテは、静かに構えていた。微塵も気を乱していなかった。マイアノルテの汗が一筋流れている。アルバキースも、顎の先から汗が滴り落ちるのを感じていた。心は歓喜に震えている。こういう戦いをしたかったのだ。やがて、視界からマイアノルテ以外のものがすべて消えた。地面を蹴っていた。魔法を詠唱して発動する。アルバキースの足元に天立星の魔法陣が浮かぶ。

「神樹より生まれし建々たる天立の気よ、角賢樹々せし蒼霄の下、ここに萃まり一閃と為せ。第ニ層、清終一閃魔法(ヴィエルコルト)

 マイアノルテも応じるように詠唱していた。

「神樹より生まれし躍々たる天退の気よ、太守却々せし炎霄の下、ここに萃まり斬撃と為せ。第ニ層、浄浪斬撃魔法(ティゲランデル)

 マイアノルテの胴を狙って渦巻く刺突を放った。貫いた、と思ったが、マイアノルテは立っている。逆に、首筋のあたりに、痺れたような感覚があった。両手剣がそこを掠めたのだ。

 アルバキースは大きく口を開けて息をした。位置が入れ替わっただけで、対峙の形は変わっていない。マイアノルテも、肩で息をしていた。

 相討ちなら、倒せるかもしれない。アルバキースは、そう思った。それでもいい。今アルバキースの頭にあるのは、マイアノルテを倒すということだけだった。マイアノルテが跳躍した。魔法を詠唱して発動している。

「神樹より生まれし抽々たる天軸の気よ、咸黄振々せし昊霄の下、ここに萃まり斬撃と為せ。第一層、枢環斬撃魔法(ピヴォルテロ)

 打ち下ろされる斬撃を迎え撃つように、アルバキースも詠唱して魔法を発動する。足元に天壮星の魔法陣が浮かぶ。

「神樹より生まれし奏々たる天壮の気よ、津奚荘々せし黒霄の下、ここに萃まり一閃と為せ。第四層、焉寞一閃魔法(ウルスクイ)

 マイアノルテの両手剣を盾で弾いた。勝てる。渾身の突きを叩きこんだ。剣が飛ぶ。なぜだ。そう思った瞬間、マイアノルテが詠唱して魔法を発動した。

「茫洋たる無窮の穹、翔破するは九の光芒。その光を剣に宿し、斬と為せ。第大層、穹翔光斬魔法(セウルラー)

 マイアノルテの足元に天魁星の魔法陣が浮かび上がり、両手剣が煌めく。盾が飛ばされ、四肢が斬り飛ばされる。この男は強い。痛みより歓喜の方が勝っていた。そして、首になにかが当たる感触。それだけだった。

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