第九十五話 死際
まず最初にカルドが考えたのは長期戦は不利になるだろうということだ。
既にこの敵はスタミナのステータスがかなり高いことを見抜いていたのだ。
だから長期戦になって疲労が溜まったところを狙われるのだけはマズイ。
理想は短期での決着だ。
相手もそれを理解しているため防戦に徹している。
とはいえ、この場だけを見ればそれでも構わないが全体を見ればそれはあまり良くないということを相手もカルドも理解していた。
何せこの戦闘は数人ではなく軍隊の戦闘なのだ。
しかも全体で見ればカルドたち側が有利。
この場でいつまでも戦っていては敵側も不利となっていくのだ。
お互いがそのようにできるだけ早く決着をつけたいと思っているがために、自然と戦闘は苛烈になっていく。
カルドが剣先で突けば相手は距離をとり躱す。
相手が大剣を薙ぎ払ってくればカルドは盾で受け流す。
カルドが回し蹴りをしようとすれば相手は篭手で簡単に防ぐ。
相手が大剣を大きく振り被って振り下ろそうとすればカウンターを狙う。
カルドが盾で殴りつけようとすれば敵は大剣で防ぐ。
敵がタックルしてくればカルドは投げナイフで牽制する。
そういったことの繰り返しだ。
技量ではほぼ互角、単純なフィジカルなら相手が、手札の多さならカルドが勝っているもののお互いが決め手にかけていることには変わらない。
だがここで重要なことが一つ。
カルドはまだ魔法を使っていない。
強化された今の魔法は強力だ。
だが強化されたのは破壊力と貫通力のみ。
当たれば即死させれるだろうが攻撃範囲や弾速などは強化されてないため命中率は前と同じだ。
そしてこの敵の反応速度なら初見でも避けられかねない。
近距離で隙をつけなければどうしようもあるまい。
幸いなことにこちらは2人だ。
どちらかが相手の隙を作ればいい。
そこからカルドは氷のような冷静さで、鋼のような集中力で、機会を伺いつづけ、しばらくしてついにチャンスは訪れた。
相手が小さな、本当に小さな段差につまずいた。
疲労が溜まっていたのだろう。
2人の手練れ相手に単独で立ち回り続けたのだから当然だ。
だがフェイントだったらしい。
つまずくことを予め分かっていた、というよりもわざとつまずいたのでないと考えられない速度で体勢を戻すと下から上へと大剣を振り抜いた。
鋭い痛みが走り、視界が半分赤色に染まった。
目をやられたか。
感触的には、瞼を斬ったくらいだろう。
それなら回復魔法で治る。
まあ、治らなくたって、復讐さえやり遂げればどうでもいいことだ。
血が垂れて見えないのは致命的だが、この距離で見逃すわけがない。
カルドは、興奮してるからかスローモーションに見える世界で、ゆっくりと右手の掌を敵へと向けた。
その動作だけでカルドが何をしようとしているか勘づいたのかすぐに逃げようとして、同じくカルドの様子に気付いた仲間の大盾に逃げ道を防がれた。
味方の援護に感謝しつつ、カルドは闇魔法を撃った。
「ごふっ……。」
敵の体には、大きな風穴が空いていた。
大量に吐血している。
回復魔法で何とかなるような怪我ではない。
これでこの敵は直に死ぬ。
だがまだ死んではない。
とどめを刺すために、首を刎ねようとカルドは剣を振り上げた。
その時、敵の唇が僅かに動いた。
何を言うつもりなのだろうか。
恨みの言葉か、はたまた命乞いか、親しい者の名か。
どっちにせよ振り下ろして勢いのついた剣は止められないし止めるつもりもない。
だがほんの一抹の興味だけは浮かんだ。
だがすぐにカルドの心の中の感情はシンのことと、その復讐に塗り潰された。
復讐という過去のことに。
敵はシンの仇のエコム元騎士団長の配下の中でもかなりの手練れだ。
復讐心をぶつける相手の一人としては十分であった。
最後にこの剛剣を操る手練れの敵はたった一言だけを発した。
「帝国万歳!」




