第九十四話 剣戟
闇魔法の剣で敵兵の首を跳ね飛ばした後、カルドは他の生き残りたちも無傷で殺戮し終えていた。
部下たち、それも特に人数的に大多数を占める大隊長になった時から部下になった者たちの視線は今までとは確実に変わっていた。
到底、尊敬とは程遠い視線へと。
カルドはそのことには無反応、無関心、無感情でさらに奥へと進んでいった。
呆気に取られていた部下たちが慌ててついてくるのを確認すると敵兵がいそうな場所を求めてさらに移動を始めた。
その時、少し遠くから爆発音が聞こえた。
普通、爆発音が町中でするわけがない。
炎魔法使いでもいるのだろう。
熟練の魔法使いが一人いるだけでほとんどの人間は手が出せまい。
すぐに向かった。
明らかに危険だと分かる地帯に行くカルドを部下たちは正気を疑うような目で見てきたが無視である。
辿り着くとどうやら炎魔法使い率いる敵部隊が味方側の部隊が帝都中央に行くために大通りを奪取しようとしているのを妨害しているらしいと分かった。
味方側もかなりの数がいるようだが中々攻めきれていない。
そう考えていると敵の魔法使いが土魔法も使っていることに気付いた。
さては前に会った重装弓騎兵隊と一緒にいた魔法使いだろうか。
確かにあの魔法使いはかなりの手練れだった。
だがそれだけで足止めされているわけではないらしい。
味方側にも雰囲気からも装備からも明らかに実力者と分かるような―恐らくは連隊長レベル、あるいは師団長レベルかもしれない―人間が二名おり、戦っているがどうにも苦戦している。
敵の隊長と思わしき剣士と例の魔法使いが奮闘しているようだ。
敵剣士には斧と大盾を持って堅実な戦いをしている騎士が、魔法使いの方には明らかにスキルか魔法で強化されていると分かる矢を乱れ撃ちしている弓使いが相手している。
その時、敵の隊長の武器が大剣だということに気付いた。
奇襲部隊にいた敵の隊長だ。
前回はつけられなかった決着ここでつけてやろうとカルドもその敵の隊長との戦闘へと半ば割り込むようにして身を投じた。
「ちっ!」
さすがの反応速度でこちらに気がつくと押し合いをしていた相手を蹴り飛ばして距離を離すなり視線も向けずに大剣を振ってきた。
どうやら実力も立浜もわきまえない雑兵が横槍を入れてきたとでも思ったのだろう。
そうでないなら舐めすぎだ。
カルドは大剣をいとも簡単に受け流した。
敵が斬った感触が無いことに驚きながら視線をこちらに向けてきたがもう遅い。
この距離、この体勢、この状況で敵の防御など間に合わないし避けれもしない。
だがなんと敵は篭手でギリギリで防いだ。
普通なら篭手を切り裂いてもおかしくないのだが角度が悪かったのか敵の防具の質が良いのか、篭手の表面を滑るようにして外れてしまった。
そこにもう来た大剣の戻る刃で二撃目。
それは盾で防ぎながらバックステップで衝撃をいなす。
そこに追撃を入れようとしてきたがカルドが来る前に戦っていた斧使いが斬りかかったため、やむなく中断したようだ。
すぐにカルドも援護へと入った。
―敵視点―
敵将は声にこそ出していないが内心ではかなりの焦燥感に襲われていた。
(くそっ。また新しい部隊が合流したか……。しかも隊長は手練れ……って、前の奇襲の時の騎士か!? 既にかなりの手練れを相手にしている時なのにそれはマズイ……。一対一ならいけるから他の奴らに相手してもらいたいが……。)
かなりの手練れが相手だ。
部下たちでは複数人で囲んでも厳しいものがあるだろう。
そもそも既に多数に無勢で防戦一方なのだ。
手が足りてない。
こちらの手練れである魔法使いは敵の弓使いに釘付けにされていて手一杯のようだ。
変にこちらに援護しにくれば矢で撃ち殺されかねない。
(これは終わったかもな……いや、まだ俺にはやらなければならないことがある。そう簡単には死ねん……! 防御に専念すれば十分粘れるはずだ。それどころかこちらはスタミナのステータスがかなり高い。敵のほうが早く疲れが来るはず……それまで粘れればあるいは……。)
―カルド視点―
段々と戦闘は泥沼の様相を呈してきていた。
それにつれて疲労も溜まってきていることも自覚していた。
このままでは集中の途切れたタイミングでやられかねない。
もう一人の味方と連携できれば良いのだが何せ初対面だ。
作戦を立てる余裕もない以上、とてもだが連携はできない。
後は味方が切り札でも持っていることを願うくらいだがさすがに無いだろう。
なのでカルドが何とか挽回するしかないのだ。




