第九十三話 鮮血
帝都での市街地戦は大規模な乱戦となった。
あちこちの建物の屋根から矢や魔法が飛び交い、通路では白兵戦が頻繁した。
火矢や炎魔法が飛び火したのか、松明などで故意にしたのかは分からないが、あちこちで黒煙が立ち上っている。
目標は反乱軍の将、つまりはエコム元騎士団長だがどこにいるかが判明していないため現在は帝城に立て籠もる白薔薇騎士団との合流を目指している。
彼らならもしかしたら敵の本拠地が分かるかもしれない。
だが敵は街中に展開していた。
少し進むたびにすぐ敵部隊と接敵するくらいなので余程街中に広がっているらしい。
今もまた、敵と接敵していた。
長物中心の隊だ。
ぱっと見三十人程なので小隊行動中らしい。
「敵だ!!」
「大隊長格がいるぞ!!」
「殺せ!」
「囲めぇーーー!!」
一斉に武器を構え突き進み始めた。
カルドは前に出てこようとした部下たちを手で制し、後ろへ下がらせると剣をゆっくりと抜いた。
「大隊長?」
「……一人でいい。」
そして敵兵が間合いに入ったカルドへ槍を突き出した。
それを盾で逸らすと剣を音も無く振った。
次の瞬間には敵兵は血を流しながら倒れていた。
だが敵は怯むことなくすぐに次の兵が攻撃してきた。
グレイブで首狙いの薙ぎ払いだ。
だが遠心力を利用して威力を高めようとしたのか大振りだ。
振られる前に脇の下辺りにある前と後ろの装甲の繋ぎ目へと斜め下からの突き。
位置的に心臓に刺さっただろう。
間髪入れずに盾を持っている手を敵に向けると闇魔法を放った。
詠唱もしてないので普通なら槍が1本だけ出てくるくらいだがカルドは魔法に改良を入れていた。
カルドはネロに言われたとおりに闇魔法についてのイメージをしていた。
カルドにとって闇とは何か。
その中でしっくり来たのはたった一つのみ。
確固たるもの。
カルドが幼い時には使えこそしなかったが既に闇魔法の存在はあった。
常に身近にあったものだ。
そして闇とはこの世界のどこにでもある。
闇が無い場所は存在せず、闇は確固としてある。
このイメージがカルドの闇魔法に与えた影響はシンプルだ。
破壊力と貫通力の圧倒的な増大。
そしてカルドはサイズをわざと小さくして数を増やして手数を増やすという工夫をした
。
ナイフサイズだと貫通力がいくら高くても殺傷力が低いため当たった場所が急所でもないと死なないだろう。
五本の闇のナイフは高速で飛んでいくと先頭あたりにいた敵五人を貫いた。
一人は鳩尾に命中したので直に死ぬ。
もう一人は脇腹に命中してかなり出血しているがすぐに止血されれば動けるようになるだろう。
残り三人は腕や足に命中しているから止血を急がなくてもいい。
とはいえ痛みで少しくらいは怯んだろうし足にナイフが命中した者は動きがかなり鈍るだろう。
そしてなにより、一度に五人やられたことで敵がほんの少し浮き足立った。
そしてそれを見逃さず、カルドは一気に突っ込んだ。
敵が迎撃しようと構えた時にら敵兵の一人の喉が切り裂かれていた。
そしてこの間にかなり距離を詰めたため槍のような長物は取り回しにくいためこちらが有利だ
槍の間合いに持ち込むために飛び退こうとした敵兵をあっさりと三人始末すると囲もうと動き出した敵兵たちを確認し、包囲が完成する前に脆そうな部分に突貫。
突貫しながら敵兵一人を刺殺。
敵兵が大斧を振り下ろしてきたため敵に突き刺した剣を力が抜けきった敵の体から引き抜きながら敵の大斧を受け流す。
そして隙だらけになった顔面目掛けて盾で殴り撲殺。
そしてそばにいた大盾を持った敵二人がこちらを抑え込もうとこちらに近づいてきたため片方は盾目掛けて思いっきり蹴る。
盾で斬撃を防げても衝撃は防げないので吹き飛ばされていった。
もう一人には闇魔法の槍を放つ。
ドラゴンですら貫通できる槍をそこらの盾では防げない。
ほんの一瞬だけ火花が散った後、盾には風穴が空き、盾で見えこそしないが位置的に敵兵の体にも風穴が空いただろう。
即死、あるいは出血死は確実だ。
だが盾に視界を占領されていたからかいつの間にか敵兵に囲まれていたことに気づいていなかった。
阿吽の呼吸と言わんばかりの連携で敵兵数人が一斉に槍を突いた。
だが槍がカルドに届く直前で槍はピタリと止まった。
闇魔法で真っ黒な盾を作り出したのだ。
しかも、その盾は変形すると剣のような形になった。
その剣によって敵兵数人の首は跳ね飛ばされていた。
その時、敵兵や味方がカルドを見る目には全員がまったく同じ感情が込められていた。
味方からは畏怖、敵からは恐怖、それならばどれだけ良かったのだろうか。
現実は両方からの恐怖だった。
そしてカルドは敏感にそれを感じ取っていた。
感じ取ってしまっていた。




