第九十話 魔導
「まず最初に……魔法で一番大事なのは何だと思う?」
講習最初の一言はこれだった。
「……魔力?」
「そんなベタな返答されたら失望しちゃうわね。」
「そんなこと言われても……。」
「まあ師匠がいないのなら仕方ないわね。普通は師匠がいないと魔法は使うことすらできないものなのよ。」
「そんなものなのか?」
「そんなものよ。……それで魔法で一番大事なのは……師によるわね。」
「はぁ……。」
「そんな拍子抜けしたみたいな声出されても……まあ剣とかにもある流派みたいなものよ。魔力っていう人もいるしスキルっていう人もいる。それぞれ利点も違うわね。」
完全な初耳だなと思いながら耳を傾ける。
「それでお前は何を第一にしてるんだ?」
「お前って言わないでちゃんと師と、呼びなさい……って言いたいところだけどまあいいわ。……私には……。」
目を俯けながら言った私には、から続く言葉は聞こえなかった。
何を言ったのかは気になるがわざわざ聞くことでもなければそんなことを気にしてやるような関係でもない。
ネロはすぐに気を取り直して続きを話し始めた。
「それで私の流派はイメージ第一よ。」
「イメージ?」
「そう。魔法についてをよくよく理解していて構造を頭の中でイメージすることができる人間ならかなり強くなれる流派でもあるの。」
「いまひとつ分からないな……。」
「まあそうでしょうね。そうねえ……貴方、そこらへんにある土をひたすら削り続けてどれだけ目を凝らしても見えないほど小さくなった状態を想像できる? そしてそれがどんな特性なのかも。」
「……いや、まったく。」
「それじゃあ貴方はこの流派で土魔法は使えないわね。……まあそういうことよ。その人の理解力とか想像力とかそういう目に映りにくい能力、感覚とかに依存するから難しいのよ、この流派。逆にそういうのができる人には簡単よ。」
確かに難しそうな流派だ。
少なくとも大衆向きでは無い。
「それで闇魔法はどうイメージするのがいいんだ?」
「それはね、あまり聞かないほうがいいわ。人によって解釈が違ったりするから。しかも解釈の仕方によって性能も変わるしね。攻撃力は高いけど耐久力は低くなる……みたいなことになるの。あと人に聞いただけじゃイメージしにくいから自力でイメージするほうが強くなれるわ。」
「は、はあ…………。」
「期待外れみたいな声を言われても困るのよねぇ……。」
「そりゃあ……それを教えれないなら何を教えてくれるんだよ。一番大事なことでは?」
「まあそれはそうね。貴方が自分でしっかりイメージできるようになれば他の人のイメージを聞いてもいいのよ? あくまで先入観が無いようにっていう理由で教えれないだけだから自分のものを掴めたら他の人の良い部分を取ったりするために聞くことがあるし。」
「ってことはそれまで何もできないと?」
「そう、何にも教えられないからあとは自力で頑張ってね。」
その時の自分の顔はそれはそれは間抜けな顔だったろうと後に思った。
「……そろそろ時間ね。」
「時間?」
「そろそろ貴方が目覚めるのよ。夢の中だから時間の流れが違うの。」
「なるほど……というかその自分のイメージとやらができたらまた会えるものなのか?」
「こっちが自由に呼べるわよ。会いたいって貴方が思ったら来てあげる。」
「便利なものだな……。」
その時、視界が段々白くなってきた。
どうやら目覚めが近づくとこうなるらしい。
「じゃあまたね。」
目を覚ます直前に視界の端でティーカップ片手に手を小さく振るネロの表情だけが見えていた。
それは、虚ろで、昏くて、哀しそうな表情だった。




