第八十八話 赫々
次の日の昼、部隊は騎兵ではこれない森の奥まで逃げ延びていた。
「……何人死んだ。」
聞きたくはないが隊長として聞かねばならないことを部下に聞く。
「…………行方不明含めて3割です。残りもほとんどが負傷、無傷は一割しかいません。」
「酷いものだな……。」
二個中隊計四百人の3割ということは百二十人が死んだということだ。
無事なのはたったの四十人。
既に撤退から時間が経っている以上、ここにいない人間がここに戻る可能性は少ない。
「負傷者が多すぎる……本隊まで引くぞ。偵察は作戦に参加しなかった部隊に任せる。引き継ぎ作業をさせとけ。」
「了解です。…………一応戦果はあります。犬死にではありません。なので……。」
「分かってる。……すぐに切り替えるさ……。」
何故だか部下がため息をついたがどうせ分からないからと聞いても教えてはくれなかったのだった。
「大隊長、戦果確認が終了しました。」
「どうだった。」
「砦に何とか火を放てたものの、そこまで広がりませんでした。」
「油も撒いたのにか?」
「水魔法使いまでいたようです……。一応、戦闘に人数を割いた分、作業は遅れたようですが。あと、隊長の魔法で敵兵を数十人削ったようです。」
歩兵二個中隊で一個中隊の重装弓騎兵相手にこの戦果と考えればまだマシなのかもしれないがそれでもボロボロになった部隊とその空気は最悪の状態だろう。
カルド自身も矢を肩に一発、腹に一発喰らっている。
激痛に耐えながら魔法を撃っていたが我慢したことで痛みが余計に増したらしい。
歯を食いしばって包帯を巻き、吐き気すら催すほどの恐ろしい苦さの回復薬を飲み込む。
吐き気を感じたのはその味だけが理由ではなく、その時の感情が原因なのは間違いない。
何せ前に飲んだ時には吐き気などしなかったのだから。
そして足元には重傷を負い何とかここまで逃れたものの力尽きてしまった部下の死体が幾つもあった。
その姿がシンと重なった。
それも、毒殺だったシンと違い矢や魔法で死んだため、遺体は余計に凄惨だ。
そしてそれらの死体が、シンに重なって見えた。
しばらくして、部下が纏めた死亡者・行方不明者名簿に目を通し、その中に名前を知ってる者を見つけるたびに視界が暗くなっていく。
それが戦闘後の疲労によるものではないのは確実だ。
今までの任務などと違い、自分の勝手な判断で動かし、死なせた。
判断に後悔はしてない。
攻めなければ帝都攻略に支障がでる。
隊長として、部隊を指揮するものとして、当然の判断だ。
そう、頭の論理的な部分は言っている。
論理的でない部分は逆のことを言っている。
板挟みだった。
そして名簿に書かれている知っている人間の名前が十を数えた時、何かが割れるような音が聞こえた。
その後しばらくして本隊と合流して妨害のおかげでまだ未完成の敵の砦を攻め落とした記憶がかすかに残っているがなぜかはっきり思い出すことはできない。
はっきり思い出せるのはその炎上する砦の炎の光が雲を照らしていたこと。
そして地獄とはこんなものだろうと思うような、そしてどこか血と似たような雰囲気のする赤色に染まった空だった。
その日の夜は懊悩に苛まれながら眠りについた。




