第八十六話 喊声
カルドたちの部隊は追跡を始めて、というよりも森の中からの観察を試みてからすぐに敵部隊を捕捉していた。
「あれが報告の騎兵隊で間違いないな?」
「間違いありません。」
「よし、このまま距離を取りながら追うぞ。」
幸い、騎兵隊は走らずにゆっくりと行軍している。
歩兵でも多少早足で簡単に追いつける程度だ。
戦闘中からともかく行軍中ならゆっくりでいいという判断だろうか。
現在は森の外周付近にいるため
「……変わった見た目だな。」
兜も鎧も何故だか形が普通とは違っている。
そして背中には長弓と矢筒を背負っている。
「弓騎兵か? しかも……弓騎兵で重装備は見たことないな。」
弓騎兵自体、かなり珍しい兵科だが彼らは重装備を着込んでおり、重装の弓騎兵はかなり珍しい。
というかそんものがこの世にあることすら知らなかった。
何せそもそも弓騎兵の時点で高速の馬上から弓を撃って当てるという技術と弓を引いている間は手を使わないで馬を操る技術、この二つの高い技術が求められる。
そして重装備になるとさらに問題が出る。
剣を振る動作を阻害しないように工夫されているが弓を引く動作を阻害しないようには作られていないのだ。
なので弓を引くだけでも普通よりも面倒なことになる。
鎧を弓を引くのに邪魔になりにくいように改造でもしたのだろうか。
それなら他と鎧が微妙に違うのも納得だ。
騎兵の苦手な森の中からの観察なので安心してみれるが平地ではとても相手にしたくない。
整然とした隊列からは練度不足をまったく感じさせないのでそいったところから攻めるのも無理だろう。
しばらくすると彼らは帝都から少し離れた丘の上で何かを作り始めた。
しかもみるみる土で壁ができていくところを見るに優秀な土魔法使いを連れてきているらしい。
「……今何人動ける。」
「はっ……? まさか攻めるつもりですか!?」
部下が素っ頓狂な声を出したが咎める気は起きない。
そもそもそんなことを意識する余裕すらないほどカルドは内心焦っていた。
「ああ。早く攻めないとあんなところに砦を建設されたら帝都攻略の際に大きな障害になる。土魔法があるなら本隊を呼んでも来る前に砦の建設が終わってしまう。…………それで? どれほど動ける。」
「…………一個中隊です。今から呼んで夕方まで待てばもう一個分集めれます。」
敵は一個中隊分の重装弓騎兵。
これがもしただの騎兵隊だったとしても騎兵相手に同じ数の歩兵で挑むなど無謀なことだ。
もう一個中隊いれば相手の二倍となるためそれでなら歩兵側は騎兵に相性のいい槍兵で固めて尚且つ陣形をガチガチに組めばなんとか勝てる希望も出る。
だが今回、相手は長弓という圧倒的なリーチの武器がある。
陣形を固めても遠くから一方的にやられかねない。
盾で防げるかどうかだ。
「……夕方まで待とう。さすがに一個中隊では敵と同等の数だ。質で既に負けているのに数でも負けてては大した妨害にもならない。せめて砦を妨害できる分くらいは必要だ。…………嫌な任務だな。」
この時、どうしても絶望感が少なからずしたのはどうしようもないだろう。
何せこの任務で死ぬ者はかなり出るだろうから。
それだけ敵は強く、そしてそれだけの被害を負ってでもやらなければならない任務なのだ。
そして予定より若干遅れて日が落ちた頃、部隊は砦のすぐ横の森の中で集結していた。
二個中隊、総勢二百人。
大抵の任務の場合は十分だが今回ばかりは少ない。
勝てる可能性は低い。
目的が勝利でなく妨害なので無意味ではないがそれでも大勢死ぬことは間違いない。
「総員よく聞け。我々はこれからあの砦に攻め込む! 本隊が来るまでに砦が完成されなければ問題ない! ……行くぞ!!」
「おおおおぉぉぉぉーーー!!」
部隊の皆もこの任務の危険性は理解していた。
それでも、その声に躊躇いは感じられなかった。




