第八十三話 剛剣
―夜―
テントで休んでいると外が突然騒がしくなってきた。
すぐに自身のすぐ横に置いていた武器を取り、外に飛び出ると既に戦闘が始まっていた。
どうやら反乱軍の奇襲らしい。
あちこちに見知らぬ鎧を着た騎士がいるので恐らく彼らが反乱軍だ。
ちなみに黒曜騎士団は全員、基本は似た意匠の装備だが反乱軍は装備をわざわざドス黒い赤色に染め抜いている。
何故その色にしたのかはさっぱりだが明るい理由でないのは間違いない。
「状況は!?」
「野営地の三箇所から奇襲! 混乱が酷くて詳細は不明! うちの部隊だけは何とかまとめれました!」
運良く近場にいた副官に加勢しつつ話しかけるとすぐに簡潔に状況を説明してくれたあたり、頭の回転が早いらしい。
「なら混乱が酷い部隊の援護に回るぞ!」
「了解!」
だがさすがにベテランの騎士たちを相手に無謀な攻撃はできない。
個人の技術や連携はもちろん、一人一人が簡単な魔法すら使えるのが中々に面倒だ。
不可視の風の斬撃を音を聞いただけで避けながら魔法を放った相手に投げナイフを投げつけたがあっさり防がれてしまった。
やはり精鋭の騎士相手はやりづらいと再認識しつつ戦闘を続行する。
「勝負ゥ!!」
しばらくすると他よりも明らかに上質な装備を着ていて、大剣を持った騎士が出てきた。
隊長格だろうか。
だが大隊長であるカルドよりも装備の質が良さそうだ。
だがそんなことを考える暇もなくすぐに攻撃がきた。
初撃は大剣とは思えぬ速度での突きだった。
すぐに盾で防ぐが盾を持つ手に伝わる感触はかなり重い。
速いくせに威力もあるらしい。
とはいえ速いとは言っても片手剣よりは遅いはずだ。
攻撃の合間を縫って素早い突きを入れてみるが高品質な鎧を使っているらしく硬い感触しかしない。
さすがに敵の連撃の合間に装甲の隙間を狙うのは難しいだろう。
せめて距離を取って仕切り直しにしないと連撃で押し込まれてしまうため、目以外完全に覆っている兜を付けているこの敵相手では防がれると分かりつつ投げナイフを投擲する。
顔目掛けて投げナイフが飛んでいき、防がれたのは完璧に予想通りだった。
だがそれで一切怯まなかったのには想定していた中でもかなり確率が低い行動だと判断していたばかりにかなり驚いた。
防御しようとすることも回避しようとすることもせずに攻撃を絶え間なく続けているのだ。
思わず舌打ちしたくなる衝動を抑えながら敵の攻撃を防いでいく。
このまま防御に徹していては先にこちらが力尽きる。
ここで詠唱どころか集中すらほとんどしないで即座に撃つことを優先した闇魔法を放った。
だが剣で受け流されてしまった。
受け流されたというよりも咄嗟に防ごうとしたが思った以上の威力で押し負けかけた結果、運良く受け流されたという感じだろうか。
とはいえ二度は通用しないだろう。
いきなり切り札を失った痛手を考えながら剣に集中する。
だがそこで痺れを切らしたのかカルドが疲れて次の攻撃は当てれると判断してとどめを刺そうとしたのかは分からないが大きく振り上げると一気に袈裟懸けに振り下ろしてきた。
まともに受け止めたら剣が折れかねないほどの勢いだ。
盾でいなそうとするのはありだがいなすのに失敗したらあの威力の剣戟相手では手が痺れてその隙を狙われかもしれない。
なのでほんの少し後ろに飛び退く。
大剣の剣先がわずかに届いたのか鎧の装甲が切り裂かれる嫌な音と小さな痛みが走ったが地龍との戦いと比べれば痛みなど無いようなものだ。
それに、後ろに飛び退いたため傷は浅い。
薄皮一枚斬られた程度だろう。
そして大剣を振り切った体勢で隙だらけの敵目掛けて剣先を向けながら突進。
鎧と兜の隙間で守るための装甲が無い首目掛けて一撃の殺傷力と速度を重視して払いではなく突きをくりだした。
だがギリギリで避けられてしまった。
素早い反射神経だ。
すぐに反撃の剣が横から風切音を鳴らしながらとんできた。
しゃがんでも跳んでも避けられない絶妙な高さと軌道だ。
盾を構えたが次の瞬間にはとてつもない衝撃に襲われ、バキッという音が聞こえた。
咄嗟に衝撃に逆らわないようにして跳ぶことでいなしたおかげで命拾いしたようだ。
それでも盾は砕け散ってしまったのでやはり恐ろしい威力だ。
ふと目を向けると敵の首から血が流れていることに気づいた。
感触はほとんど無かったがかすかに当たっていたらしい。
あの量の血ならかなりの重傷だがあれで反撃してきたのだろうか。
とても重傷とは思わせない一撃だった。
そう思った次の瞬間、敵の騎士が手を首の傷あたりに当てたかと思うと淡い光が出てきた。
回復魔法の光だ。
そんなものまで使えるらしい。
手が痺れてカルドが追撃できないでいる間に応急処置程度は終わらせてしまったらしい。
血が止まっている。
だが距離は取れている。
そのわずかな余裕の間に周囲を一瞬確認した。
隊長である以上切り合っている時ならまだしも部隊の様子は確認しなければならない。
戦況はこちらが若干有利のようだ。
奇襲なので隠密性を重視したのか敵騎士が軽装ばかりなのと人数差が幸いした形だ。
数人で囲めばさすがの精鋭でも厳しいのだ。
相手の騎士も同じことを考えたらしい。
騎士としてだけでなく指揮官としても優秀らしくカルドよりも早く。
そしてこちらに剣先は向けて警戒したまま声を張り上げた。
「全部隊撤退しろ!」
それを聞くや否や敵奇襲部隊は撤退していった。
撤退する時もお互いを援護しながら素晴らしい連携で一瞬で撤退していった。
奇襲からたったの1時間後のことだった。
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「だいぶやられましたね。」
「まあな。……部隊もそうだが俺もあやうく返り討ちにあうところだった。」
「ああ、あの騎士のことですか? 貴方があそこまで追い詰められているのは始めてみましたよ。」
「回復魔法が使えなかったら死ぬところだったな。だが…………。」
「どうしました? 師団長。」
「あの騎士の顔が気になってな。あれはまるで……いや、そんなことはいいか。それよりもそろそろ帰投するぞ。」
その時、脳裏には装備からして敵部隊の大隊長だと思われる騎士の顔があった。
まるで戦いを楽しむかのような顔が。




