第八十二話 静寂
1週間後、カルドたちの部隊は帝都へと進軍していた。
カルドたちの部隊以外にもケルグ要塞にいた第四師団の大半がいる。
カルドの昇級から次の日にはケルグ要塞を出発していたのだ。
ちなみにカルドたちの部隊は列の後ろのほうだ。
「大隊長、そろそろ先頭の部隊では帝都が見えてくる頃だと思われます。」
「ああ、そうだな。」
部下に適当に相づちを打ちつつ何となく周囲を見渡した。
現在、街道を行軍中なのだがここらは周囲を森で囲まれている。
なので警戒は必須だ。
こんな些細な警戒でも近づく敵に運良く気付けることはある。
そして少し前に反乱軍は帝都に集結したという情報がカルドたちに届いていた。
なので帝都に向かっている以上、いつ反乱軍が来てもおかしくはない。
だからこそ余計に周りを見渡すことを心がけている。
尚、敵部隊以外にも魔物の可能性も考えての行動なので帝都周辺以外でもよくしている。
さすがの魔物でも人間の軍隊に突っ込んでくることは極一部を除いてほとんどないが念のためだ。
事実、夜中に隊列を遠巻きに見る魔物がいたりする。
手出しはしてこないが。
ケルグ山脈のような危険地帯の魔物ならともかくそこらの雑魚では人間が弱るまで待つ執念も人間を襲う強さや勇気も人間を罠にはめる知恵もないのだから仕方ない。
それでも人間が少人数で動いていてしかも油断してたら襲うが。
「いつ敵が奇襲してくるかな……。」
黒曜騎士団の騎士は基本的に重装だがアンデレヴェルト共和国がまだロッド王国だった頃の戦争でカルドが偵察任務に向かった時のように軽装での任務行動をすることはある。
奇襲などとなれば隠密性のために軽装で動くだろう。
ちなみにカルドたちも現在は重装ではない。
さすがに遠距離行軍中に重装を着てれば疲労がたまるだけだ。
奇襲に備えて頭や胸当てなどの重要な部位を守るための装備だけは付けているがそれだけだ。
「大隊長、いい加減休んではいかがですか?」
「ん? どういう意味だ? ちゃんと休憩は取ってるが。」
「……最近、大隊長はあまり寝ていないそうですね。大隊長が中隊長だった頃の部下に聞いたところ元はそうでもなかったそうですが。」
「確かにあまり睡眠はとっていないかもしれないな。だが…………それで? 何か問題が? ……話は終わりだ。警戒に意識を向けてろ。」
「っ!」
カルドの冷たい感情のこもった声に部下が一瞬怯んだような表情になった。
だがすぐに話し始めた。
それほどに心配しているのだろうか。
「ですがこのままでは倒れてしまいます! 死ぬ気ですか!?」
普段は丁寧な口調で話すのに珍しく声を荒げている。
「気にするな。戦闘中に倒れたりはしないから問題ないし支障もない。」
「……大隊長、死ぬ気なのは否定しないんですか?」
「……最近、よく似たようなことを言われるな。」
「…………。」
「大丈夫さ。死にはしない……当分はな。」
「……分かりました。ですがそれはそれとして一度休憩を取るそうなのでひとまず休んでください。」
「分かってるよ。」
部下が小さくため息をついたのは見なかったことにした。




