第八十一話 冷淡
反乱の報が届いた2日後、カルドは上官に呼び出されていた。
「急ですまないが大隊長に任命する。」
「大隊長ですか……?」
確かにあまりにも急すぎる話で怪訝そうな表情になるのは仕方ないだろう。
「上層部がかなりの数消えたからな。それに伴って繰り上げとなった。」
「……上官がいなくなったから階級の繰り上げですか。不名誉な話ですね。」
上官の戦死とかではないだけまだマシだろうか。
それならば上官を守ることもできなかった無能と思われるのだから。
「まあ、階級が上がる話自体は前々から来てたんだから気にするな。……そうは言っても気にするのは仕方ないだろうがな。こう言ってる自分も大隊長から旅団長に繰り上げだと言われた時は嫌な気分だった。」
「……そうですか。自分は戦えるなら何でも構いません。」
そう言うカルドの顔は見るからに昏い表情だった。
本人は自覚していない、されど他人から見れば一目見ればすぐに分かる。
「……なあ。」
「はい、なんでしょうか。」
「実はな、俺はお前の昇級に反対したんだ。」
「……?」
「昔な、今のお前みたいな表情の騎士を見たことがあったよ。」
「…………。」
話の行方が分からず黙り込むカルドを尻目に上官は話を続ける。
「俺がまだ新兵だった頃に同じ部隊に所属している騎士ってだけで大した関係は無かった。……強かったよ。八面六臂の活躍とでもいうか、剣でも槍でも弓でも優秀で、長いこと騎士団に所属していた古株だった。そんな人材なのに隊長じゃないのが不思議だった……。」
昔の記憶を探っているのか煙草を吸いながら目を細めた。
「その騎士はな、前々回の戦争で戦死したんだ。敵将と相討ちでな。見ていて……恐ろしかったよ。敵将もかなりの腕だった。けどその騎士はどれだけ傷を受けても痛みなんて感じないかのように殺すことだけを考えて戦っていた。しかも敵の取り巻きに矢を何本も受けても戦っていた。明らかに急所に当たっているものもあるのにだ。……だいぶ後になってしったよ。その敵将はその騎士の家族の仇だったんだとさ。復讐心に突き動かされていたんだよ……。」
「……なぜ復讐と?」
カルドに向き直ってから上官は言った。
「偶然、俺の直属の部下がお前が落とした遺書のようなものを拾ったらしくてな。それで知ってるのさ。お前の相棒が毒殺されたことはな。……ああ、安心しろ。その拾った部下と俺以外の人間はこのことを知らない。きっと周りに知られたくないだろう? あと、忘れないうちに返しておこう、ほれ。……さて、話を戻そう。その時の上官は復讐心に突き動かされているだけの……狂った人間には部隊を任せられないと判断したんだ。狂って、自分の命すらも無駄にする人間に部下の命は任せられないのだと。だからお前にも任せたくはない。」
「…………連隊長は不思議なことを言いますね。」
「?」
「俺は命を無駄になんてしませんよ。」
その時、上官の肩がビクリと震えたのは視線から予測するに恐らく、カルドの表情を見たからだろう。
「ただ……仇をとるためならどんな手段も選ばず、その手段の、手札の中の一つに自分の命があるだけです。」
その時のカルドは笑っていた。
どこまでも冷酷で無感情で自虐的で、そんな表情だった。
カルドは自身の表情について気づいていない。
だが上官の様子から何となく察してはいた。
だが改善しようとは欠片ほども思わなかった。
「では。」
そう言うとカルドは扉から静かに出ていった。




