第七十七話 失意
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シンが死んでから数日間、カルドはこの世の全てが白黒になったかのような感覚に陥っていた。
シンは訓練兵の時からの同期だった。
訓練兵の時から一番気が合う仲間だった。
騎士になった後はお互いを助け合った。
戦場では戦友として共に戦った。
出世した後は副官として働いてくれた。
立場が少し離れても敬語は使わないでくれた。
隊長と副官としてではなく戦友として接してくれた。
間違いなく、彼はカルドの一番の仲間だった。
彼の葬式の時、涙は流さなかった。
ただただ虚しかった。
これは本当に現実だろうかとも思った。
シンは一ヶ月前までは普通に仕事をしていたのだ。
立場や仕事もあって機会は減ったがたまに模擬戦もするくらいには元気だった。
しかも今は戦時中ではない。
いつ戦争が始まってもおかしくない仮初めの平和だとしてもそれでもここは戦場では無かった。
病魔の蔓延る地方でもなかった。
魔物が闊歩する場所でもなかった。
人間の安全で強力で堅固な要塞の中だ。
シンがかかったという病はシン以外は誰もかからなかった。
シンだけが運悪くかかったのだ。
だが運が悪かったとは言えない。
そんなことを言ってはならない。
なぜ、よりによってシンだけが。
だが国や周りの人間はカルドを悲しませてはくれない。
カルドは中隊長だ。
教官時代ならともかく今は教え子もいないのでちゃんと中隊長の職務をこなさなければならない。
シンが今までやっていた仕事を自分や小隊長、新しく任命した副官などに割り振る時は嫌でもシンは死んだと、いなくなったのだと意識させられた。
部下たちも頼れる副官を失ったことを悲しんでいた。
特にカルドが小隊長だった頃からの部下たちはカルドほどではないにしても共に戦場に行き、指示に従った相手。
赤の他人ではない。
そのためかシンの死後少しの間は仕事がおろそかになることがたまにあった。
死んだことを悔やまれ、惜しまれ、悲しまれる上官などあまりいないだろう。
だが部下たちはシンではなくカルドのことを気にしていて、親友を失ったカルドが何かしないかと気を揉んでいた。
シン亡き今、中隊長を支えられるのは自分たちなのだと思いながら。
一ヶ月後になってもそれは変わらなかったため。
「中隊長……最近調子はどうですか?」
シンの後任の副官がすぐ横で書類仕事をしているカルドに聞いた。
「ん? まあ……特には。問題は無い。」
「本当ですか?」
「…………ああ。」
肯定はしているがとても信じられない。
明らかに憔悴していた。
「少しは休んでは?」
「大丈夫だ。……仕事をしている間は……。」
その後は何も言わなかったが『嫌なことを忘れられるから』と言おうとしたことは容易に分かった。
「まあだから気にするな。最近は仕事が楽しい。」
「仕事が楽しいって……前は嫌だ嫌だと言ってたじゃないですか。」
「俺も変わったんだよ。」
「…………。」
前の副官が死んだから変わったんですかともこのまま働いて精神を削れば前の副官と同じ場所に行ってしまうとも言えなかった。
「いいから休んでください。そうですね……酒でも飲んで寝てください。」
「……酒は飲まんが……分かった。少し休もう。」
どうやら少し休んだらまた働くつもりらしい。
最近、カルドは他の人間の仕事を半ば奪うようにして取り組んでいる。
それは助かるのだがそれよりもカルドの体調の不安をしてしまうのでまったく嬉しくはない。
いっそのこと酒を飲んでさっさと酔いつぶれてそのまま寝ろとも思うがそうはしないのだから始末に負えない。
のろのろと部屋を出ていくカルドの後ろ姿を見て新しい副官は重いため息をついていた。




