第七十六話 逆光
まず最初に自分の意識がまだあることに驚いた。
まさか天国だろうか。
あるいは地獄だろうか。
あまりあの世を信じているたちではないのだがもしあるならその方がいい。
そう思いながら瞼を持ち上げると光が飛び込んできた。
どうやら太陽が昇っているらしい。
そして、目の前には無惨な死体があった。
少なくとも天国に無惨な死体なんてあるわけがないので天国でないのは確定らしい。
少ししてようやく頭が回り始めてこの死体は自分が倒した地龍だと気づいた。
つまりは自分はまだ生きているらしい。
力が入りにくく、ふらふらと立ち上がると自分の腹に目をやった。
そこにはある程度時間が経過したからか真っ赤に染まっていた包帯がやや黒っぽくなっている。
その包帯を見ると気を失う寸前のことを思い出し、それと同時に痛みが無いことを不思議に思った。
そしてとある予測が立ち、それを確かめるためにそっと包帯を取った。
気を失う前まではあったはずの傷はそこに存在していなかった。
痛みが無いからまさかとは思ったがそれにしたって何故傷が無くなったのか。
そこまで考えてふとバックの中を確認する。
ちゃんと記憶通りの中身だ。
使った分はちゃんと減ってるし数の辻褄は合っている。
リチーチ草もしっかりある。
幻覚魔法というのはこういう細かいところで記憶と違うことが多いと聞いたことがあったので確認してみたが大丈夫らしい。
そしてカルドは念のために異常が無いかを体中くまなく探したが何一つ無かった。
それどころか絶好調だ。
これなら休憩も必要無さそうである。
なのでカルドはその場をすぐに立ち去り、帰還していった。
気絶する寸前に何かを見た気がするのだが何を見たのかはどうしても思い出せなかった。
そこから1週間後、カルドは予定通りに帰ってきた。
なんなら一ヶ月の猶予がある状態だったのに出発からたったの2週間で帰ってきたのだ。
余裕で間に合う、はずだった。
門あたりで部下の数人が目元辺りを真っ赤にして泣きじゃくっていたのを見つけた時から胸騒ぎがした。
嫌な予感がした。
いつもはカルドにもう少し休めばと言っていた部下の一人が帰ってきたばかりで明らかに疲れているカルドに休めとは言わずに早く来てと言った時も、いつも噂話ばっかりしてて小隊長にうるさいから黙れと言われて頭を殴られて言い返してまた殴られていた部下の一人がショックを受けたように何も喋らずに黙り込んでいた時も、よく武器を率先して整備していて身なりに厳しくて常に服装を整えていた小隊長の一人が身なりを整えることも忘れて放心状態になっていることに気づいた時も。
悲壮に満ちた表情の部下たちが案内した部屋はここ最近、一度も使われていない部屋だった。
そこにあるたくさんの台の内の一つの上でシンは寝ていた。
そしてこの部屋の名前は霊安室だった。
その時、カルドは自分がどのような表情をしていたかを、どのようなことを言ったのかを、何一つ覚えていない。
なぜなのかとひたすら言い続けていたとその場にいな部下に時間がしばらく経った後に聞いた。
なぜ助けられなかったのかと、なぜ間に合わなかったのかと、なぜいなくなってしまったのかと、なぜ何も言わないのかと、なぜ目を覚まさないのかと。
これはこのあとすぐ聞いた話だがカルドが帰るほんの二日前にシンは容態が急変したのだそうだ。
あまりにも突然の別れだった。




