第七十五話 凶鳥
龍が死んだことを確認してから、カルドは小さくため息をついた。
これでようやく気を張り詰めなくてすむ。
そう、気を抜いた直後、すぐに傷の手当てをすることにした。
戦闘中だと邪魔なので離れた位置に置いてあったバックから包帯を取り出して傷口に巻いていった。
かなり深い傷だったので念のために回復薬も使っていく。
回復薬といっても魔法のように回復するわけではない。
回復を早めるだけだ。
とは言っても普通の数倍以上早くするほどの効果なので戦闘に関わる仕事をする人間には必須なのだが。
念のために止血用の薬も飲んでおく。
そこそこの傷でない限りはすぐに止血される便利な代物だ。
ちなみにこの二つの薬はどちらもかなり高い。
そしてどちらも自腹で買っている。
任務ならともかく休暇中のことなので仕方ない。
中々の値段だったため貯金が吹き飛んだがシンのためなので躊躇はしなかった。
最低限の手当てを施すとすぐさま移動し始めた。
ここに来た目標は龍の討伐ではなくリチーチ草の採取なのだ。
素材を売れば一生遊んで暮らせる龍の死体に目もくれず数十分ほど歩き続けた。
その時はちょうど深夜らしく、真上に月が昇ったことで谷底にも光が届き、明るくなってきた。
その淡い光に照らされてその植物はあった。
「これが……!」
明らかにそこらの雑草とは違うとよく分かる見た目をしている。
生命力で溢れているかのようにキラキラと輝いている。
事前に調べておいた情報によると特殊な採取方法や注意点などがあるわけではないらしいが慎重に根っこごと掘り出した。
それをあらかじめ大金払って用意しておいた保存の魔法がかかっている容器にそっと入れる。
これでケルグ要塞に帰るまでは保つだろう。
そう安心しながら来た道を戻ろうとして――
倒れた。
混乱しながらも必死に立とうとしたが力が入らない。
さらには先程まではあまり気にならなかった痛みが段々と増してきている。
激痛で動く気力すら削り取られていく。
視界はチカチカとする。
さらには景色が段々と暗くなってきた。
痛みに堪えるような声が思わず口から漏れたが何故か音が遠い。
耳鳴りもしだした。
その時、人間というのは興奮状態だと痛みを感じないということをどこかで聞いたことをふと思い出した。
先程まではその状態だったのかもしれない。
激痛の出どころを見ると包帯が真っ赤に染まっていた。
止血薬も包帯も意味を成さない程の
「畜生……! なんで……なんで!!」
視界が端からどんどん暗くなってきている。
それと同時に意識も遠のいていっている。
そしてこんなところで気を失えば死ぬことは確実だ。
「死ねない……薬草を届けないと……まだ……死ね、な……い……。」
その時、カルドは視界の端に黒い物体を捉えた。
岩などとも違う色合いだ。
半自動的にそちらに目を向けた。
そこには一匹のカラスがいた。
真っ黒だ。
艶のない全てを飲み込むような深淵の闇の色だ。
カラスはその暗い色と屍を啄む様子から不吉な鳥と呼ばれているがその理由がよく分かる。
凶鳥という言葉をふと思い浮かべ、次の瞬間には意識を手放していた。
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「…………この騎士……幾ら弱っているとはいえ地龍に単独で打ち勝つなんて。さすがに重傷は負ったみたいだけども……普通は一撃も与えられずに死ぬし相討ちでも上出来ね。にしても何故こんな場所に……まあ、そんなことよりも都合のいいことに闇魔法に適正があるようだし……目的のためにも使わせてもらいましょう……予想以上の適正ね。闇魔法はあまり使ってなかったようだけど……これだけの適正があるのになぜかしら。まあ利用させてもらうだけだしこの人の考えなんて関係ないわね。よろしく……ね?」
カルドの運命の歯車はズレ始めていた。




