第七十二話 不屈
探索の期限はシンが死ぬまでの時間である約一ヶ月。
その間に数十年前を最後に一度も発見されたことのない幻の薬草を見つけなければならない。
幸い、数十年前の地図が残っており、発見された場所がかなり細かく書かれているので一直線に向かえば1週間程度でつく予想だ。
往復でも2週間。
間に合うはずだ。
だが奥に行けば行くほど人間が数を間引いていないため魔物は増える。
数も質も。
カルドはケルグ山脈に入って初日から魔物に遭遇していた。
どうやら雪に紛れていたらしい。
真っ白な狼の魔物がウヨウヨと近寄ってきている。
慎重な性格の魔物なので一人でなければ襲われなかったのだろうがそんなことを言っても仕方のないことだ。
思わず舌打ちをしながら無造作に剣を抜く。
剣を抜いただけで構えもせず、力を抜いた状態だ。
なので隙だらけだと判断したのか背後に隠れていた魔物が飛び掛ってきた。
そして次の瞬間には一瞬で振り向き、ダランとぶら下げていた剣を反応する間すら与えないほどの速度で振り抜き、魔物の首は跳ね飛ばされていた。
悲鳴を上げることすらできなかった。
どうやら仇を討つつもりらしい。
怒りに身を任せ、今度は四方から襲いかかってきた。
前にいるやつには投げナイフを投げつけ、左のやつは剣でスルリと首を切り落とす。
そしてすぐに振り向き、振り向きざまに片方を盾で殴打。
ゴキッという嫌な音を尻目に最後の一匹の首に剣を突き刺した。
最初に投げナイフを投げつけたやつがまだ生きていたのでとどめを刺して終わりだ。
ここまで、数秒しか経っていない。
周りにいた生き残りたちは一斉に逃げ出していった。
全員で襲いかかっても勝てない、あるいは勝てたとしても被害が多すぎて割に合わないと判断したのだろう。
カルドはリチーチ草を手に入れることが目標なので追い討ちはしない。
剣についた血を拭い、投げナイフを回収してからすぐに進み始めた。
遠目に様子見している魔物がいるようだが先程の戦闘を見てたのか手は出してこない。
だが、戦闘を見ていなかった魔物やそもそも先程の狼の魔物よりも圧倒的に強い魔物はその限りで
はない。
しばらくすると変な魔物が現れた。
蟹のような見た目の魔物の群れだ。
群れといっても狼たちと比べると断然少なく、五匹しかいない。
蟹といっても人よりも一回り大きいので当然、魔物だ。
大きいせいですごく気持ち悪い。
ついでに何故だか個体によって見た目が違うので不気味だ。
真っ赤な個体もいれば緑や白の斑模様の個体もいる。
よく見ると蟹なのに毛皮や鱗が付いている。
どうやら他の魔物の部位のようだ。
死体から剥ぎ取ったのだろうか。
大きな鋏をカチカチと鳴らしながら近づいてくる。
あちらのほうがリーチが長い。
なのでカルドは剣を構えると一気に距離を詰めた。
中々の反射速度で蟹は鋏をすぐさま動かしだしたが動き自体は緩慢で、簡単にその鋏を回避すると剣を力強く叩きつけた。
が、叩きつける直前でもう片方の鋏に掴まれてしまった。
舌打ちしつつ剣を手放すとすぐさまナイフを取り出し甲殻の隙間目掛けて突き刺した。
あまり怯んでいないのはこの魔物のスキルで痛覚が軽減でもされているからなのかそもそもうまく刺さっていなかっただけなのか。
後者だと想定して念のためにもう何度か刺すことにした。
ナイフを抜くのは手間なので予備のナイフを素早く取り出して突き刺していく。
3、4本刺すとそのうちの一撃が急所に刺さったらしい。
バタリと倒れ込んだ。
そして仲間が殺されている間に背後に回ったらしい個体がこちらに鋏を近づけてきた。
さすがに武器は欲しいので片手で死体から剣を抜きつつ、もう片方の手で振り返りもせずに無造作に闇魔法を放った。
見てもないので当たらなかったが牽制目的なので問題はない。
闇魔法の威力に怯んでいる間にさっさと剣を抜き、構えた。
先程倒した時に急所は分かった。
なのでその後は急所に剣や魔法を叩き込むだけの作業なのだった。




