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哀しいどこにでもある物語  作者: サン
第六章 転換時代

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第七十話 偶然


それから少し時が経った頃、それは唐突に起きた。


「隊長! 隊長!」


教える訓練兵がいないためいつものように書類仕事をしていると突然、部下の一人が慌てた様子で入ってきた。


「どうした?」

「大変なんです! 副隊長が……!」


嫌な予感がした。

すぐに部下に案内してもらう。

行き先は医療室だ。


そこのベッドでシンは寝ていた。


「大丈夫か!?」


つい声を荒げながら呼びかける。

それを聞いて緩慢な動きで起きたのでひとまず動けないほどではないようだが何の異常も無いというわけでは無さそうだ。


「カルドか……迷惑かけたみたいだな……。」


その後聞いたところ、シンが仕事中に突然倒れたのだそうだ。

軍医に診てもらったところ、何かの病気のようでかなり危険なのだそうだ。


「容態は?」

「軍医によるとひとまずは安定しているって。」

「一体全体何があったんだ……。」


シンもカルドも今まで病気になったことなんてなく、健康そのものだったので何で突然病気にかかったのかと思った。

だが、専門家でもなければ心当たりがあるわけでもないので考えても何も分からない。


「軍医によるとかなり珍しい病気……らしい。」

「……いつ治りそうなんだ?」

「分からない。」


その淡々とした短い言葉を聞いて体がビクリとしてしまったことを自覚した。


「どうも薬が無いらしい。薬の作り方は判明しているそうなんだけど材料が無いんだってさ。」


言いたくないがどうしても気になった事があった。

嫌でもどうしても言わずにはいられなかった。


「……その病気、どうなるんだ?」

「……放置しておくと一ヶ月以内に死ぬ。」


頭の中で死ぬという単語が何度も響いた。

どういう意味かはかりかねた。

もちろん、理解はしている。

だが理解したくなかった。


しかしシンは他人事かのように淡々と話を続ける。

本当は何か感情がこもっていたのかもしれないが極度の混乱に襲われていたカルドには分からなかった。


「しかもその材料がいつ手に入るかは分からないだって。かなり珍しい植物だから当分は手に入らないだろうとも。」


その後、何を話していたかは覚えていなかった。

気づいた時には自室のベッドの上でうつ伏せになって倒れていた。


「なんで……なんでなんだ……。」


その日は何も考えたくなかった。






その次の日、何とか切り替えて、あるいは切り替えたふりをしてベッドから起き上がった。

そしてすぐさま軍医のもとに向かった。




薬の材料を聞くために。




そして詳しく話を聞いた。

薬の材料で無いのは1つだけなのだそうだ。


名前はリチーチ草。

人の手の入らない場所に極稀に生えてくる珍しい薬草なのだそうだ。

薬草といっても傷や毒にはほとんど効果が無い。

効果があるのはとある病気に対してのみ。

その病気は体の中を長い時間をかけて毒で冒していき、最後には死に至る病気だ。

そしてその病気にシンがかかっている。


このリチーチ草が生えている地域はある程度決まっている。

この草は比較的いろいろな環境で育つことができるが繁殖能力が低く、害虫や病気にも弱いので生息域が広がりにくいのだ。

そしてそんな各地に点々としている狭い生息域の1つにはケルグ山脈の深部も含まれていた。


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