第六十九話 青春
「こんなところで突っ立ってどうかした?」
突然、シンに話しかけられて頭が機能を取り戻したことを認識した。
カーネが去ってからしばらくの間、頭があまり動いていなかったらしい。
「あ、ああ……なんでもない。」
「…………嘘を付くなって。なんでもないならそんな表情しないよ。」
「表情……?」
「ああ、酷い顔色。何というか……悲しそう?」
自覚はないがシンが言うならばそうなのだろう。
「そうか…………。」
「それで? 何が原因?」
たっぷり数秒間、もしかしたらもうちょっと長かったかもしれないがそれだけの時間悩んでから言った。
「分からない。」
「分からない?」
「お前に言われるまで自覚すらしてなかったからな。」
「ふう〜ん…………それはそれは。あんなに分かりやすいのに……。」
最後に小声で何かを言ったようだが考え込んでいたのもあって聞こえなかった。
「まあなんだ。酒でも飲んで忘れよう、ね?」
励ますような声色で言ってきたことが引っかかった。
「何をだよ。」
「……やっぱ自覚してないんだねぇ。まあ教えても否定しそうだから言わないでおくよ。」
「どういうことだよ。」
「それが分からないうちはまだまだ若いってことだとも。」
「お前も同じ歳だろうが。」
偉ぶった口調のシンにクスクスと笑いながら言う。
「……やっといつも通りになったけ。」
言われてみれば気が楽になっている気がする。
「……迷惑かけたみたいだ……。」
「親友なんだからいいっていいって。」
親友という響きが少し恥ずかしく、だが一切嫌ではなかった。
思えば直接そう言われたことも言ったことも人生で一度もなかったのではなかろうか。
「そうだ! 上官が高そうな酒くれたんだけど一緒に飲む?」
雰囲気を切り替えようとしたらしいがその新しい話題の内容に興味を引かれた。
「酒? 上官が?」
「そうそう。教官の初仕事が終わったからそのお祝いとかってさ。」
「普通、上官がただの教官にそんなもん送るのか?」
「まあ高いっていっても少し我慢してお金を貯めたら庶民でも買える程度のものらしいからそんなもんなんじゃない?」
確かにその値段なら部下の労いとしてあり得るのかもしれない。
シンが今持っている小さな瓶の中身がその酒なのだとしたら量もかなり少なめなので値段はさらに安いだろう。
他の教官たちにも送っているのだろうからまとめ買いだろう。
それなら手間もかからない。
それにしたってやや不可解だが。
「そんなもんか……。」
「それで? 飲む?」
「いやぁ……もう酒は既に飲んでるし。」
「ああ、そういえば少し飲んでたか。カルドって、今まで酒飲んだことないから分からなかったけど案外下戸なんだね……。」
「だからお前だけで飲めって。」
「ええ……少しだけでも飲むとかさぁ……。」
「分かったよ。ちょっとだけな……。」
そういったやり取りをして、酒を少し飲むだけのために食堂に戻るのもあれなのでちょうど近くにあったカルドの部屋で飲むことにした。
「それで……その瓶が?」
「その通り!!」
ややハイテンション気味に言うと用意してあったコップに入れて一口飲んだ、と思った次の瞬間にはとても嬉しそうな表情になった。
するとまだ中身の入っているコップを押し付けてきた。
飲んでみろということだと判断して試しに飲んでみる。
「おっ、これ中々良いな。」
「思った以上に好みだった!」
「シンはこれそんなに好きなのか?」
「めっちゃ好き。」
「まあ確かに美味しいな。ただ……度が強いな。」
実はついさっきの訓練兵のお祝いの時に人生で始めてカルドは酒を飲んだので知らなかったがカルドはどうも度が強い酒は苦手らしい。
あまり美味しく感じないしすぐに酔いが回ってしまうのだ。
「味は……良いんだがな。」
「そういうことなら仕方ないかぁ。全部一人で飲むかな……。」
「そうしてくれ。」
「あ……そういえば話したいことがあるんだ。」
「話?」
「ああ。実は……いや、やめとこう。今するような話じゃない。それに確証も無いし。」
「は、はあ……?」
「まあいつか話すよ。……そろそろ時間も時間だし、じゃっ!」
そう言うとシンは部屋に戻っていった。
この時、何を話そうとしたのかを彼自身の口から聞くことは永遠に無かった。




