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哀しいどこにでもある物語  作者: サン
第五章 教官時代

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第六十八話 岐路


エコムと話して、部屋に戻る途中のことだった。


「あの……。」

「ん?」


後ろから話しかけられたので振り向くとカーネがいた。

ふと違和感を覚えて髪型が変わっているからだと気づいた。

いつもと違って結んでおらず、長い髪が風に揺られている。


「カーネか。どうした。」

「その……シンさんから教官が騎士団長と話していると聞きまして……。」

「……それで?」

「私って何処の所属になるんでしょうか。」


普通ならば興味、不安、自分がこれから出世できるか、そういったことを考えながら聞く訓練兵ならよくあるセリフだろう。

だが何故だか彼女はそのどれにも当てはまらない何か別のことを考えている気がした。

とはいえどうすることもできないため端的に事実だけを伝えた。


「赤竜騎士団だ。」


カーネがピクリとわずかに震えたのをカルドは見逃さなかった。

それからしばらくの間カーネは黙り込み、その後世間話をし始めてからも何処か上の空だった。






それから一ヶ月後、予定よりも少々遅れたもののついに訓練兵たちが正式に騎士になることが決まり、任地に向かうこととなった。

今日は出発の前日だ。


今頃、騎士の正式な装備が渡されたりする式典が行われている頃だろうか。

せっかく騎士団長がいるので式典をしてもらうのだとか。


それからその日の夜、式典が終わったのか訓練兵たち、いや元訓練兵たちが挨拶に来ていた。


「「「今までありがとうございました!!」」」


一斉に頭を下げて感謝の言葉を言われたので何ともむず痒い。


「まあなんだ。今日からは教官と訓練兵じゃなくて同じ騎士同士だ。楽にしろ。」

「分かりました!」

「そういえば、シンがお祝いしてあげたいって言っていろいろ食材買ってきてたぞ。」


ちなみにカルドも資金提供をした。

しかも半分以上はカルドが出したお金で買ったものである。


「えっ!」

「やったあ!」

「食べるぞーーー!」


全員がウキウキとした様子でシンが準備している食堂へと駆け込んでいった。

その後、夜遅くまで宴会が開かれた。

上の人間からも許可は取ってあるので多少ハメを外しても問題ないだろう。

ちなみにメニューはかなり豪華で高級な酒まで用意されている。

量が少ないので速いもの勝ちだったようだ。




しばらくして、ぼちぼちと寝室へ戻っていく者が出始めたところで宴会はお開きになり、カルドも寝室へと戻っていた。

カルドも酒をちょっとだけ飲んでいるのでほんの少しふらふらしながら歩いていたそんな時だった。


「すいません。」


後ろから話しかけられた。

振り向けばカーネがいた。


「改めてありがとうございました。」


そう言うと何故か深呼吸してから、次の言葉を言った。


「私は教官のことを尊敬しています。また……いつかきっと会いましょう。」


そう言うと彼女は立ち去っていった。

人の感情を読むなどカルドにはあまりできないのだが何故か彼女が何か感情を隠していることには気づけた。

その感情が何なのかはもっと考え続ければわかったのかもしれない。


だが残念ながら彼女とは最早二度と会うことはないだろう。

彼女とカルドでは任地が遠すぎるしそもそも騎士団自体からして別だ。


そして彼女とはあくまでも教官とその教え子の関係でしかないはずなのだから何の感情も普通は感じないはずなのだ。

感じたとしても教え子が巣立ったことの喜びや安心感であるはずだ。


だがそれなら無性に悲しくなったのはなぜだろうか。

そして何故自分の胸は苦しくなるのだろうか。

そんなことを今のカルドには考えられる余裕は無かった。


訓練兵たちの出発の前日、綺麗な満月の夜にひそかに起きていたことだった。






挿絵(By みてみん)




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