第六十七話 面接
数日後、一行はケルグ要塞へと帰ってきていた。
全員が安堵のため息を漏らし、気を緩める。
始めての実戦、さらには遠征や過酷な行軍から帰ってきたばかりなので気を緩めるなと言うのはさすがに酷な話だろう。
カルド自身も割と疲れていてすぐにでも休みたい気持ちがあるのも大きな要因だ。
ふと視線を前に戻すと見覚えのある顔がこちらに手を振っていた。
「おかえり。」
「シンか……なんだかんだ言って久しぶりだな。」
「まあ確かに。何せ隊長のくせに部隊ほっぽり出してるもんね。」
そう言われては何も言い返せないので渋い表情になるしかなくなる。
「んなこと言われたってなぁ……上の命令なんだからどうしろと?」
「ハハハ! そんなの知らないよ。自分で考えろって!」
「ケッ! 分かりましたよ。……それはそれとして休ませてくれ。」
「……余程疲れてるんだな。」
そこまで言うとシンが突然咳をしだした。
「どうした風邪か?」
「最近、どうも体調が悪いんだ。長引いているし医者に診てもらっておくかな……。」
ちょうどその時、これまた見覚えのある顔が視界の端にあることに気づいた。
自分の部隊の仲間たちだ。
どうやらシンと共に来ていたらしく、今は薪に火を起こして金属製の水筒を熱して、中に葉っぱのようなものを入れている。
「……あれは?」
「カルドたちが帰ってきてるのが遠くからでも見えたからね。準備して待っとこうかなと。」
どうやら入れていた葉っぱは茶葉か薬草の類らしい。
二種類入れてるようなので恐らく茶葉も薬草もあるのだろう。
「……準備がいいことで。」
「感謝しなよ! わざわざ上に掛け合ってきたんだから!」
「えっ……そんなに良い代物なのか?」
「普通に高級品だよ。さすがに指揮官クラスが飲むようなものほどでは無いけど平民なら買うのを躊躇うくらいには高いよ。しかも人数が人数だから大量にいるし……。」
どうやらシンは面倒な手続きをしてまで労いたかったらしい。
「まあ素直に感謝しとくわ……貰ってもいいか?」
「もちろん。」
焚き火の近くにいた部下の一人にコップを貰い、中身を少しだけ飲んでみる。
「おっ。確かに良い茶葉使ってんな。美味しい。」
寒い中行軍していたために冷えた体に紅茶の熱が染み渡るようだ。
しかも体がポカポカとするので入れた薬草にきっと体を温める効果があるのだろう。
訓練兵たちも次々と飲んでいき、満ち足りた表情になっている。
「さてと。美味しい紅茶も飲んだし、面倒な報告に行くか……。」
「帰ってきてそうそう大変だねぇ。」
「兵たちは休ませてもその上の人間はさらに上の人間とかに報告しないといけないからな……。」
そして訓練兵たちはシンに任せてカルドは要塞の奥へと向かった。
巨大なケルグ要塞内をしばらく歩き続け、執務室へと着いた。
中に報告する相手がいるのは確認済みだ。
身なりは既に整えた後だし、もしあまり綺麗でなくても遠征の後なら気にされないとはいえ念のために身嗜みを確認してからドアにノックした。
間髪入れずに入っていいと返事が返ってきたので音を極力立てないようにしながらそっとドアを開けて中に入る。
「さあ、そこに座ってくれ。何、帰還直後で疲れてるだろう?」
そこにいるのはエコム騎士団長だ。
相変わらずの人当たりの良い微笑を浮かべている。
「では……。」
遠慮する理由もないので中々に値段の張りそうな椅子に座り、報告を始めた。
ちなみに、今回もまた直接報告するようにと言われていた。
報告と言ってもイレギュラーだった鰐の話以外は極々普通なのでまたもや何か話したいことがあるらしい。
「――ということで報告を終わります。」
「ご苦労さま。」
そして報告を終えると予想通りの展開になる。
「さて、予想していだろうが……君に話したいことがあってね。」
「…………。」
「まあ何、簡単な話だよ。君の担当する訓練兵の中に黒髪の……。」
「カーネでしょうか?」
「そうそう。彼女についての話だよ。」
予想外の内容に多少困惑したがこれだけでは何も判断できないため続きを聞いていく。
「彼女はどうも帝都の方でいろいろ問題を起こしていたということなのだよ。今は……どのような様子かね?」
それを聞いてそういえばカーネについてのあの資料の真相の話を思い出した。
確か教官が悪かったという話のはずだったがうまく伝えれていなかったのだろうか。
「実はあれはカーネが悪いのでは無いようなんですよ。」
「……続けたまえ。」
ニコニコとして何を考えているかが分からないエコムに緊張しながらも言われた通り話を続ける。
何度か質問を受けたが怪しまれているのだろうか。
そして最後にこう聞いた。
「彼女は信頼できるかね?」
「…………それはどういう意味ですか?」
「そのままの意味だよ。」
本当に裏の意味が無いのかと考えたが微笑を浮かべたままで表情をまったく変えておらず、表情から考えを読み取ることは不可能だ。
「……信頼できます。その実力も、人格も。」
「よろしい。」
そう言うと一枚の紙を取り出した。
無言で、だが微笑は絶やさずにその紙を突き出してきた。
見ろということだろう。
「ええっと…………推薦状?」
「もう少し期間があるとはいえ訓練兵たちも正式に騎士になるのでね。その際に誰を隊長に推薦するかを書いてくれたまえ。成績を見れば彼女が適任なのだがね、やはり教官にも聞いておかなければならないのだよ。」
「……それならそうと言ってもらえればいいのに。というかそうか……あいつらもそろそろ騎士になるのか、忘れていたな……。」
聞かれないように小さな声で呟きながら彼女の名前を書いた。
が、そこでふととあることを思った。
「そういえばあいつらはどこの騎士団に行くんですか?」
「そういえば話していなかったな。赤竜騎士団になるそうだ。」




