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哀しいどこにでもある物語  作者: サン
第五章 教官時代

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第六十七話 実習 〜鰐狩〜


剣だけでなくナイフなどの補助の武器や盾の手入れすらも終わった頃、ようやく魔物の解体が終わったらしく、ついにケルグ要塞へ帰還し始めるのだった。


「う〜〜。」


唸り声のような声が聞こえてきたので振り返るとカーネがまるでゾンビかのように手を前に突きだしていた。


「……どうした?」

「……血がべっとりしてて気持ち悪いです……。」

「グローブはあったろうに……。」


付け忘れだろうか。

それくらい作業中に普通は気づくと思うのだが。


「もうちょっとしたら川によって昼食とるからその時にでも洗うんだな。」

「はい…………。」

「戦場で手が血油で汚れてたら剣が滑る。次からは気をつけろ。」

「そんなこと言われてもグローブを付けてても血が入ってきたんです……どうしろと……。」


ちなみにグローブは水が入ってきやすい布製ではなく防水性の高い革製なのでそれこそ水の入ったバケツの中に沈めでもしないと中々滲み出てきたりはしない。

余程、血が大量に出たのだろうか。


「ってまさか、血抜きしなかったな!?」

「…………あ。」

「はぁ〜。」


思わず溜息をついた。


「料理をつくる店の人間の娘ならそれくらいできるだろうが……ってそうか。もう解体されてる肉だから血抜きもしてあるのか。」

「…………。」


何故かカーネが目を逸らした。

ジッと見つめてみるが目が泳いでいる。


「どういうことか聞いても?」

「…………。」

「…………。」

「…………。」


少しの間、気まずい沈黙があったがしばらくすると根負けしたらしく、口を開いた。


「実は、あまり調理を手伝ってなかったんです。」

「…………。」

「うっ……いや、一応、手伝いはしてたんですよ? ただ…………皿洗いとかですけど……。」

「…………。」

「接客とか清掃とか仕入れもしてましたよ!? そんな目しないでくださいよ!!」


ちなみにそんな目というのは呆れ顔のことである。


「料理が苦手なんだな、と思っただけだ。気にするな。」

「失礼ですね!? 私だって料理できますよ! お金を取るほどのものではないってだけです!」

「つまり下手なのか。」

「ううっ……絶対、いつか食わせてやりますからね!」


カルドはカーネの様子を微笑ましく思うだけなのだった。






「カーネと教官、恥ずかしくないのかな。あんなふうに話して。」

「いや、あれ多分意識してないよ?」

「…………無自覚ってやつ? にしても最近、あの二人仲いいけど……まさか……ね。」

「それはさすがに無いだろ。まあそれはそれとして……仲いいな。」

「二人に聞かれたら殺されるぞお前ら。」




それからしばらくすると話していた川が見えてきた。

だが川というよりは河と言ったほうがいいだろう。

それくらいには横幅が広い。


「全員、その場で休憩! ちゃんと見張り立っとけよ〜。」


周囲を見渡すとカーネが河へと向かっているのが見えた。

どうやら手を洗うつもりらしい。


もちろん、洗ったまま放置するとすぐに凍傷になるほどの寒さなので器にでも入れて昼食をとるために起こした火で少し温めるのだろう。

濡れたままにならないように拭くための布も用意している。


そして視線を他の訓練兵たちに向けようとして、ふと視界の端のものに目が止まった。


河のちょうど中央ほどの辺りが若干影で暗くなっている。

水中に何かがいるようだ。

だが魚にしては大きい。

ケルグ山脈に生息する魚の種類にはあまり詳しくないので確実ではないが魚では無さそうだ。


すると突如、影がかなりの速度で泳ぎ始めた。

それに釣られて泳ぐ先に目を向けた。


「なっ!」


そこにはカーネがいた。

ちょうど水を汲もうとしているようだ。

しかも影に気づいていないらしい。


そしてあの速度で近づいているということは明らかに襲うところだろう。

呼んだとしても、戦場に慣れてでもない限りは呼ばれた方向を向いてしまうだろう。

そうなれば背中に襲いかかられる。

なのですぐさま手をすぐ横で座っていた訓練兵が置いていた槍へと伸ばし、掴むとすぐさま影目掛けて投擲した。


すると影に吸い込まれるように飛んでいき、見事に命中した。

河の水が赤色に染まっていったことから一応は刺さったらしい。


水が赤色に染まったことでカーネも気づいたらしく、すぐさま河から距離をとった。

訓練兵たちもカルドが槍を投げた先を見て、すぐさま状況に気づいたらしい。

同じく距離を取りながら陣形を組んでいく。


そして水中にいた何かは河岸に近づき、陸へと上がった。

水生生物がまさか上がれるとは思っていなかったのでどよめきが生じたがその正体を見て少しだけ納得する。


「これは……何だ? 蜥蜴?」

「鰐じゃない?」

「ああ、なるほど鰐か……鰐って?」


そう、影の正体は全長5mはあるだろう鰐だった。

帝国の周辺では鰐は滅多に見られない種族だ。

極稀に人の少ない川などに出るくらいなのでほとんどの人間は見たこともない。

かく言うカルドも見たことはないが鰐の形の魔物はいるのである程度は知っている。


「鰐ってこんな……ガラスみたいなんですか?」

「なんというか生き物っぽくはないね。」


訓練兵たちが勘違いしているので一応、訂正する。


「これは魔物だからだぞ。普通は違う。これは水晶を纏う鰐型の魔物だ。」


そう、この魔物は水晶のようなもので体を覆っているのだ。

水晶が針山か剣のように伸びているその見た目はとても刺々しい。


「気をつけろ! この魔物はブラックリメインとは比べものにならない格上だぞ!」


そう、この鰐型の魔物は魔物の中でも中の上ほどの強さの魔物だ。

ケルグ山脈でもあまり見かけられず、そのダイヤモンドのような美しい鉱石の見た目からディアマントクロコダイルと呼ばれている。


この魔物の特徴は水晶鱗とも呼ばれる鱗。

さすがにダイヤモンドほどは硬くないがかなりの強度を誇り、そう簡単には貫けない。

さらには魔法耐性が異常に高い。

そちらは鱗はなく、魔物自体が持っているスキルの効果の説が有効なのだが。

それのせいで切り札の闇魔法は使えない。


だが弱点もあり、この鱗はかなり重い。

なので全身にびっしりと生やしていると重すぎて動けないという致命的な弱点がある。


だからこそ、人間が使う鎧のように重要な部位以外には普通の鰐と同じようなただの鱗しか生えていないのだ。

最初に投げた槍はその部位に当たったらしい。


「氷と炎のブレス、あとは牙がかなりの脅威だ! 牙は薄い金属くらいなら簡単に貫かれるぞ!」


そう、この魔物は氷と炎が操れる。

鰐、というよりも蜥蜴や亀などは普通、こんな寒い場所には暮らせない。

なので体温調整のためにもこの二つを進化の過程で得たのだ。


余談だが竜は極一部の例外を除き、寒さを気にしない。

竜は全ての種がとても優秀な心臓を持っており、尚且つ血液の温度が高い。

さらには竜の鱗は熱を通しにくい。

その結果、寒さに強いのだ。

ちなみに暑さには弱い。

熱が籠もってどうしようもなくなるのだそうだ。


「氷は皮膚に直接浴びたら一発で凍傷になる! 服で隠れてない顔はちゃんと守れよ! 炎は……そのまんまだ! 大した火力じゃないから金属製の盾やら鎧で防げばちょっと熱いくらいですむ!」


この人数ならカルドからの情報を元に慎重に戦えば一人も怪我人すら出さずに勝てる可能性すらある程度の魔物だ。

そう、思った時、河からさらに幾つもの影が音もなく現れた。


「なっ!!」


次々と上陸し、その数合計で四匹。


「くそっ!」


しかもかなり苛立っているらしい。

考える暇すらもとれず、すぐに飛びかかってきた。


反射的に盾でいなし、がら空きになった首辺り目掛けて剣を振り下ろした。

だが水晶のような鱗に阻まれてしまった。

かすり傷すらついていないようだ。


しかも鰐は回転しながら太い尻尾を振った。

すぐさまバックステップで避け、今度は鱗の隙間目掛けて突きを繰り出した。

薙ぎ払いではなく、正確性を重視した突きだったおかげでうまく狙った部分へと突き刺さった。

だがあまり深くはなさそうだ。


暴れられる前に剣を引き抜き、剣で牽制しつつ距離をとる。

周囲をほんの一瞬だけチラリと確認したが既に訓練兵たちも戦闘に突入しているようだ。

カルドが相手にしている個体を抜いた計3頭の鰐相手にうまく立ち回っているがやはり鱗に刃が阻まれてしまって苦戦しているようだ。

ブレスにも戸惑っているようだ。


「っ!」


その一瞬を見計らってか偶然か、鰐が大きく口を開けた。

過去にドラゴンと戦った経験があるおかげですぐに反応できる。

ブレスだ。


大きく広がるブレス相手に近距離では避けられない。

体を小さくして盾でできる限り多くの面積を守る。


ブレスは氷だったらしい。

一気に気温が下がるが盾でうまく防いだため怪我は無し。


そして大きく口を開いている今は前方の視界が狭まっているためかなりの隙だ。

すぐさま鋭い突きを叩き込んだ。

剣先は口の中へと吸い込まれ、突き刺さった。

恐らくは脳を貫通したのだろう。

バッタリと倒れると動かなくなった。


そして訓練兵たちの援護に向かおうとそちらへと振り向くとカーネの腕に鰐に喰らいつかれようとしていた。


「なっ!」


しかも剣が折れている。

恐らくはあの水晶鱗に全力で剣を叩きつけてしまい、剣が折れて怯んだところを噛みつかれたのだろう。

鋭い牙と強靭な顎にかかれば人間の腕程度簡単に引きちぎれるだろう。


そして喰らいつかれ――る直前で何故か鰐が大きく怯んだ。

その隙に周りにいた訓練兵たちが四方八方から剣や槍で串刺しにした。

まだ抵抗しているがあのまま死ぬだろう。

視線をすぐに変えると他の鰐たちも追い詰められていた。


そしてカーネに喰らいつこうとしていた鰐に視線を戻すととあるものに気づいた。

右目にナイフが突き刺さっている。

先程は位置関係的に見れなかっただけでカーネが刺したらしい。


カルドはひとまずとても安堵したのだった。



※ディアマントはダイヤモンドのことをドイツ語に訳した言い方です


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