第六十五話 実習 〜解体〜
魔物の群れを討伐した場所で一行は野営をしていた。
「お前ら、ちゃんと魔物の死体の解体にも慣れとけよ!」
教官として解体のお手本を見せた後、声を張り上げながら言ったのだが返事には若干力がこもっていない。
殺すことにはあまり躊躇いがなかったのに解体は躊躇うらしい。
魔物ならともかく普通の野生動物を殺すのは村人なども当然するので生き物に手をかけるのには慣れているのだろうが何せグロいので仕方ない。
別の種類の恐怖なのだ。
「うっ……。」
「ひえっ……気持ち悪い……。」
「うぎゃっ! 手に何か付いた!」
あちこちの魔物の死体で解体作業が行われているが先程から悲鳴と愚痴が微かに聞こえている。
こればっかりは慣れなので仕方が無い。
相変わらずよく目立つカーネの黒髪が目にとまったので彼女の様子を見れば意外にもかなり怯んでいる。
顔が真っ青である。
黒髪とは真逆の真っ青へと顔色が変化していくのは何処か面白い。
優等生で大抵のことはすぐに覚えてできるようになる彼女が、なので余計面白いと感じているのだろうか。
とは言えあまりに顔色が悪いので一応話しかけた。
「大丈夫か?」
「えっ……え、あ、はい……大丈夫、です。」
「明らかに大丈夫ではなさそうだが……そんなに苦手なのか?」
「うっ…………。」
どうやら余程苦手らしい。
隠そうとはしているが顔が真っ青なのでバレバレだ。
「……帝都にでも暮してたのか?」
農村や田舎なら嫌でも生き物の死体を見るのでそれくらいしか思いつかない。
そしてそれは正解だったらしい。
「…………はい。生まれは別ですが物心ついた時には帝都でした。親は……料理店をしています。」
「帝都ってのは割と当てずっぽうだったんだが…………ん?」
何かが引っかかった気がするが咄嗟には分からなかった。
「…………ああ、そうか。生まれは別ってことに引っかかったのか……。さては移民か?」
するとカーネが何故か顔を歪めた。
さては触れられたくない話題だったのだろうか。
「嫌なら言わなくてもいいぞ? ただの興味だったし。」
「……いえ、構いません。……親から聞いた話なんですが、元々いた故郷から追い出されて、帝都まで来たらしいんです。」
「なるほど……にしても帝都に店を持ってるのか。帝都も広いし、差があるから何とも言えないが……かなり値段が張るだろう?」
「はい、ただ……故郷から持ってきた珍しい品を売って資金の足しにしたそうです。」
帝都に自分の店を建てられるほどとなるとかなりの金額だ。
つまりその珍しい品とはそれだけの値段のものであり、かなり遠い場所にしかないような希少なものでもないとそこまでの値段にはならないだろう。
「にしても、親が料理店を経営しているなら肉くらい調理するだろうに慣れてないんだな……さてはあまり手伝いとかしなかったのか?」
そういうことかと思ったのだが頭を左右に振られてしまった。
「いいえ。普通によく手伝ってましたよ。……ただ……自分が見た時には既に解体とかは済まされている肉だったので……。」
「ああ、そうか。そのままだと運搬に不便だしそりゃあ解体くらい当然するか。」
「はい…………。」
とてもしょんぼりとしていて何故だか雨に濡れた黒猫みたいに見えた。
「まあ、慣れだ慣れ。人間なんて大抵のことは慣れる。……まあ、最悪魔物の解体できなくても灰鼠騎士団以外ではそうそう使う技術じゃないしな。灰鼠騎士団に行かされることになったら必須だが。」
「「「えっ。」」」
何故かカーネが目を丸くしている。
しかも何故かすぐ近くにいた他の訓練兵たちも驚きの声を漏らしている。
「え、は? どうした?」
まったく心当たりがないのでカルドも驚いた。
「え、いや、だって…………。」
「自分たち、黒曜騎士団になるんじゃないんですか?」
「あ、ああ……そういうことか。聞いてなかったのか。別に黒曜騎士団になるとは限らないぞ。白薔薇騎士団以外のどれかになるはずだ。白薔薇騎士団は教養とか家柄が関係するしな……。」
完全に初耳だったのか相変わらず訓練兵たちは目を丸くしている。
「…………黒曜騎士団じゃないんですか。」
「へえ〜〜〜そうなんだ。」
「もしかしたら赤竜騎士団とかにもなる可能性がある……かも?」
「…………お前ら……手が止まってるぞ!! さっさと魔物の解体をしろ!」
一言怒鳴りつけると愚痴を言いながらすぐさま作業へと戻っていった。
カルド自身もお手本のためにも魔物の解体をしているのだが自分の分を全て解体し終えたので少し暇だ。
だが訓練兵たちの分を取るわけにもいかないし待つしかないだろう。
暇なので周囲の警戒はしつつ、武器の手入れでもするかと考え、訓練兵たちの悲鳴を尻目に手入れ道具を用意するのだった。




