第六十一話 実習 〜出立〜
訓練兵たちが来てから数日が経った。
そしてとあるイベントが訪れる。
「訓練兵諸君。これからケルグ山脈に行き、魔物討伐をする。」
魔物討伐、それはここに来た訓練兵全員が絶対に経験することだ。
カルドたちの時はちょうど魔物がいて、火急の用事だったのですぐに行かされたが、普通はあんなに早くない。
「倒す魔物はこの鹿の魔物だ。名前はブラックリメイン。」
そう言うと白黒の絵が描かれた紙を壁に貼り付けた。
この山脈にいる魔物のほとんどは絵を描くのが得意な騎士に偵察させて、描かしているのだ。
さらには鑑定のスキル持ちや研究者も一緒に調べることで魔物の大抵の情報は揃えられているのだ。
ちなみに白黒なのは手抜きでも染料の節約でもどちらでもない。
そもそもその魔物自体が白黒なのだ。
体は骨のような真っ白、角は逆で漆黒といった具合だ。
ちなみにガリガリに痩せている死体のようにしか見えないことと黒い角からこんな名前なのだとか。
「基本的には温厚な性格だし、人を自分から襲いはしないのだが現在、大量発生しているため食べ物を求めて人里まで降りてくる可能性がある。簡単な魔法を使えるので危険と判断されたというわけだ。」
訓練兵の一人が手を挙げる。
「魔法というのな何を使えるのですか?」
「岩魔法だそうだ。とは言っても体に岩を纏ったり、小石を飛ばしたり、小さい穴を掘れる程度らしいがな。小石を飛ばすっていってもおっそい弾しか飛ばせないらしいので、木の盾ですら防げる。体に当たっても多少痛いくらいだ。安心したまえ。まあ革鎧くらいの防御力でも痣になるくらいですむしな。後は……突進には気をつけろよ。なにせ鹿だ。角くらいはある。」
明らかにホッとした雰囲気が流れた。
今の情報を聞く限りは弱い飛び道具を使うだけの鹿だ。
大した脅威ではない。
そして野生動物程度に遅れを取るような者はこの場にはいない。
ちなみに、訓練兵たちの編成は半分剣持ち、四割槍持ち、残りは弓である。
剣持ちの大半は盾も使える。
バランスの良い部隊と言える。
しいて言えば魔法使いが一人もいないくらいだがそれは仕方ない。
魔法を幼い時から使える者などそうそういないし、魔法を一度も使わずに人生を終える者も珍しくはないくらいには魔法使い自体が希少だ。
そもそも魔法を使える者ならほとんどの場合、騎士になっていない。
「明後日の朝出発だ。それまでに準備をしておくように。」
ちなみにこれであたかも遠足に行くかのように楽しみにする輩がいたら鉄拳制裁を加えてやれとマニュアルには書いてあるし、他の教官からも言われている。
まあ、幸いなことにいなかったようなのでする必要はないようだ。
そして何度か思うのだが何故、カルドの顔を見て怯えたような表情になる奴が大勢出るのだろうか。
カーネにいたってはカルドから全力で目を逸らしている。
そして、当日になった。
各々、きっちり準備してきたようだ。
カルドが何も言わずとも事前に何度も点検しているので問題は無さそうだ。
もし物を忘れたりしたものは食料などの無ければ生きていけないものなら連帯責任で訓練兵全員に散々説教して鉄拳制裁加えてから帰らせろとのことである。
その後、数日間は訓練を数倍にしろとも。
これもまた、マニュアルと他の教官からである。
ちなみに教官であるカルドも同行する。
カルドの時のように、イレギュラーがあった時などのためでもある。
ちなみに寝坊する馬鹿は当然いない。
そんな奴はここに来ることすらできない。
絶対無いし、あってはならないことだがそれでももし仮にあったら早朝から飲まず食わずで訓練を朝から晩までぶっ通しでやらせ続けろとマニュアルと――以下略。
「では出発だ。」
こうして一行は寒い中、ケルグ山脈へと歩を進め始めた。




